鐘は鳴れども

本作は、「 株式会社アークライト  」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『クトゥルフ神話TRPG』の二次創作物です。

 

Call of Cthulhu is copyright ©1981, 2015, 2019 by Chaosium Inc. ;all rights reserved. Arranged by Arclight Inc.

Call of Cthulhu is a registered trademark of Chaosium Inc.

PUBLISHED BY KADOKAWA CORPORATION

 

 

PL向けあらすじ

 探索者達は各々の理由から、都会の喧騒から遠く離れた小さな小さな田舎の村へと訪れる。その村は一部の人々から、「時が止まった村」と噂されていた。ある者はその噂を確かめる為に、そしてある者はその村で行方不明となった者を探す為に、探索者達は村へと足を踏み入れる。

 その先で探索者達が見たものは、数十年前の姿のまま、まさしく時が止まったかの様に当時の生活を繰り返す村人達だった。平和に繰り返される日々の裏に隠された真実とは。行方不明の男の運命は。そして、探索者達は正しい時の流れの中に無事に戻る事が出来るのか。

 

 

シナリオ傾向・ハンドアウト等

舞台:1920年代イギリス(改変可)

推奨人数:2~4人

シナリオ傾向:半シティ半クローズド

想定時間:ボイスオンセで3時間前後

推奨技能:目星

準推奨技能:戦闘技能

 

HO1:探偵や警察

探索者は探偵や警察など、仕事として事件の解決の為に行動する職業の人物。

 

HO2:NPCジェイコブ・ファレルあるいはその姉の友人

探索者はジェイコブという新聞記者の青年、あるいは彼の唯一の肉親である年の近い姉と既知関係。

 

HO3:新聞記者やオカルト的な噂好き

探索者は奇妙な噂に仕事として、あるいは個人的に興味を持つ人物。噂の真偽を確かめる為に行動に出る。

 

 

 ※現代的な連絡手段や村の実情把握があるとシナリオに支障が出る為、1920年代としていますが、基本的に時代背景に関するイメージや描写はふわっとしております。年代・国等ご都合の良い様に改変して頂いて構いません。

 

 

 

 

――――――――これより下はKP向け情報となります――――――――

目次

 NPCの詳細ステータス、地図などの提示資料などについては、別途「資料」としてまとめてあります。シナリオを回す際には此方もご参照ください。鐘は鳴れども:資料ページへ

 

 

 

KP向けあらすじ

 約50年ほど前、都市部の発展に伴い都心へと出稼ぎに出て行く村民が増え、ツイスプシュートの村は徐々に廃れ始めていた。エイミーという村娘も恋人との都会での暮らしを夢見る村人の一人であり、恋人は都会での生活を手にするべく、一足先に一人で村を出て都会へと旅立った。しかしその先で事故に遭い命を落とした恋人がエイミーの待つ村に戻る事はなく、待てども戻らない恋人を待つ内に彼女は徐々に精神を病んで行く。程なく村は過疎化から廃村となる話が立ち上がり、とうとうエイミーは「約束したのだからいつまでも変わらず彼を待ち続けなければ」という想いから凶行へと走る。

 彼女は村の教会にたまたま眠っていたグラーキに関する書物を手にし、グラーキを村の湖へと招来し、生贄を捧げこの邪神へと祈った。グラーキは村の人々を供物として受け取り、全員をグラーキの従者としてアンデット化させる事で「変わらずあり続ける村」という彼女の願いを叶えた。これが「時が止まった村」の正体である。

 村を訪れた旅人達はグラーキへの供物として殺されてしまう為行方不明となってしまっている。この村の真実を突き止め、グラーキを湖に留めている魔術を破壊し村のアンデット達を消滅させることがシナリオの目的である。

 

 

 

シナリオの大まかな流れ

大まかな目的:村からの脱出、及び村に掛かっている魔術の解除

 

●導入:各々個別の目的からツイスプシュートへ行く事になる

 

●事前調査:一日かけて都市部での聞き込み

 

●1日目昼:村に到着、村人達との会話、異変の確認

 

●1日目夜:ジェイコブとの接触、エイミーの家を探索

 

●クライマックス:時計塔の魔術を解除、村を晴れさせてグラーキの従者である村人を一掃

 

 

 

シナリオ背景

 エイミー・デューイはツイスプシュートの村に生まれたごく普通の少女だった。彼女にはアルフレッドという名の愛する恋人がおり、結婚を誓う仲であった。

アルフレッドはいつかエイミーと二人で都会で暮らす為にと、一足先に一人で山奥のごくごく小さな村落であったツイスプシュートを出て都会の街へと出稼ぎに向かう。エイミーは「必ず戻る」というアルフレッドに「いつまでも待っている」と約束を交わすも、出て行った先で不運な事故に遭い命を落としてしまった彼が戻る事は何年経ってもなかった。

程なく都心部の発展に伴って住民たちが都心部へ出て行く事が増え、ついスプシュートが廃村になる話が立ち上がる。恋人の不幸を内心では悟りつつも受け入れられなかった彼女はとうとう狂気に至り、「いつまでも待っていると約束したのだから、変わらずに彼を待ち続けなければならない」という強い執念に駆られる様になる。そんな中、偶然にも村の教会で埃を被っていたグラーキに関する魔導書を手にしてしまった事で、ついに彼女は凶行に踏み切った。

 

 エイミーは村の湖にグラーキを招来し、グラーキに生贄として村人全員を捧げる代わりに「彼が帰ってくるまでいつまでも変わらないこの村で待ち続けたい」という願いを伝えた。グラーキはこれに応え、エイミーを含めた村人達全員を自身の餌食とし、アンデットである「グラーキの従者」にしてしまうという歪んだ捉え方で、この望みを叶えた。

「時が止まった村」の正体は、全ての村人がアンデットとなり不滅となった村である。実際には数十年前に生者のいなくなった村は建物や畑も荒廃し切っているが、エイミーが村全体にかけた「平凡な見せかけ」の魔術のお陰で一見在りし日の村の平和な風景に映る。また、グラーキの従者となった村人達は複雑な自我や記憶を持たず、生前の記憶に基づいてそれらしく行動を繰り返しているのみなので、まるで「数十年前のとある一日」を繰り返している様に見えるのである。村はエイミーの望みに沿って変わらぬ姿のまま日々を繰り返しながら、時折迷い込んだ旅人を捕らえては生贄としてグラーキに差し出している。

 

 新聞記者であるジェイコブ・ファレルは仕事で「時が止まった村」の噂に興味を持ち、真偽を確かめて記事を書くべくツイスプシュートへ取材に訪れる。そしてそこでグラーキの生贄に捧げられかけるが、どうにか逃げ出して村人の目から逃れて身を潜める事に成功した。しかし一度グラーキの棘に刺されたジェイコブは既に不完全なグラーキの従者になってしまっており、不完全故に変性した直後から太陽光に対する崩壊が起きてしまう為に山奥のツイスプシュートから離れられないでいる。自らの身体の異変を悟った彼は村の周囲に身を潜め続けており、次に村を訪れた者が自分と同じ末路を辿らない様、そして村の真実を暴いてくれる様、助言を与えるつもりでいる。

 ツイスプシュートの村に掛けられている魔術は全部で三つである。一つ目は村全体の見掛けを偽っている「平凡な見せかけ」。二つ目は時計塔の鐘を使って継続している「グラーキの招来」。最後に、グラーキの従者と化した村人達が太陽光で崩壊してしまう事を防ぐ為、常に村を曇らせる目的で掛け続けている「天候を操る」である。シナリオの目的は平和な村の裏側に隠れた真実を知り、これらの呪文を解いて村のアンデット達を浄化し、グラーキを元あるべき場所へと返す事である。

 

 

 

主要NPC

エイミー・デューイ 恋人を待ち続ける村娘

性別:女 年齢:19(死亡時) 

STR8 CON22 POW11 DEX4 SIZ9 INT12  HP:16 MP:11

 

 ツイスプシュートで生まれ育った村娘。気立ての良い純朴な娘で、村の時計台の管理を任されていた。毎日決まった時間に鐘を鳴らす事は彼女の役目。村を出て行ったきり帰って来なかった恋人の身に起きた事を認める事が出来ず、約束通りに待ち続ける為にグラーキを招来し村全体を生贄に捧げてしまった。その際にエイミー自身もグラーキの従者としてアンデット化しており、実際の姿は醜い腐肉の化け物である。ただし彼女はグラーキを呼び寄せて村に留めている信奉者である為、グラーキに生贄を捧げる役目として村を統括しており、村人達の中で唯一生前の自我を完全な状態で維持したまま自身の意志で行動している。

 

 

 

ジェイコブ・ファレル 不運な新聞記者

性別:男 年齢:23 

STR14 CON14 POW14 DEX9 APP11 

SIZ15 INT13 EDU13  HP:15 MP:14 DB:+1D4

 

 ロンドンで姉と二人暮らしをしている新聞記者の青年。少々不愛想ながら真面目な性格で、どんな仕事でも積極的に引き受けていた。ツイスプシュートにまつわるオカルト的な噂を記事に書く事になり、調査の為にツイスプシュートへと向かった。そして村でグラーキと村人達に襲われ、既に刺されてグラーキの従者となっている。日光の下へ出られない身体となってしまった彼は、村の周辺の森の中に潜み、次に来る旅行者に警告を伝えようとしている。

 

 

 

スーザン・ファレル ジェイコブの姉

性別:女 年齢:27

 

 ジェイコブの姉。早くに両親を亡くした為現在は弟と二人暮らしをしており、都会の片隅でひっそりと仕立て屋を営んでいる。大変弟思いの姉で、仕事で遠出すると言ったきり帰宅予定の日を過ぎても一向に帰らない弟を心配し、知人の探索者や探偵の探索者へ行方不明捜査の依頼をする。

 

 

 

アルフレッド・ディーン エイミーの恋人

性別:男 年齢:22(死亡時)

 

 エイミーの恋人。シナリオ中に登場する事はない。エイミーと二人で都会で暮らす事を夢見てその為の出稼ぎに一人で都会へと旅立った。しかしその先で事故によって命を落としてしまい、そのままエイミーの元へ戻る事も、自身の死を伝える事すらも出来なかった。

 

 

※これ以降のNPCはツイスプシュートの村人達であり、いずれも物語に重要な関わりを持つものではありません。名前の有無による黒幕のメタ推理を避ける為名前を用意していますが、必須ではありません。外見、ステータス、性格なども適宜KPの裁量で設定してしまって構いません。また、敵対時の「グラーキの従者」としてのステータスは全員同じステータスとして扱っています。

 

ダイアン・リスター 教会のシスター

性別:女 年齢:26(死亡時) 

 

レイフ・リッチモンド 村長

性別:男 年齢:64(死亡時)

 

シルヴェスター・ピーターズ 雑貨店店主

性別:男 年齢:47(死亡時)

 

ジェリー・トラヴァーズ 新聞配達の少年

性別:男 年齢:9(死亡時)

 

 

 

◆敵性NPC

 

グラーキの従者 基本ルルブp.176  マレモンp.42

  

 

 

シナリオ本文


シナリオ本文の読み方

 

 

・地の文…KP向けの状況説明および処理に関する記述など、シナリオ本文のメイン部分です。適宜目を通しながら進行してください。

この背景色で括られている箇所はPLには非公開のKP向け説明です。
KPが状況を把握する為の情報なので、基本的にPL及び探索者には公開しません。

 

・読み上げ文…情景描写の文章、もしくは文章媒体での情報の内容です。この文章はそのままPLへ向けて読み上げ・提示を行って構いません。

 

・ダイスロール文…SANチェック及び各技能などの処理です。技能のダイスロールについては、”※強制”の記述がない場合振れる技能の提案の有無などはKPにお任せします。


1.導入

 季節は1月末、ロンドンはどんよりとした雲に覆われ、まだまだ冬の寒さが続いている。

 この季節設定に深い理由はない為適宜月日は変更して構わないが、夏(8月)以外の方が違和感の演出に都合が良い。また、時期を変更する場合には提示資料の中に書かれている日付の情報も合わせて変更するのを忘れない様注意する事。 

 

 

◆行方不明者の捜査―HO1:探偵、HO2:ジェイコブの知人

 探偵などの職業であるか、あるいは被害者と既知関係である探索者の元に、行方不明者を探してほしいという依頼が舞い込んでくる。とある新聞社で記者をしていたジェイコブという青年が、ツイスプシュートという村へ取材へ出かけたきり戻ってこないという。この話を聞くにあたって、以下の情報が得られる。(情報の詳細は本項目末尾で説明)

 ①村の基本情報

 ③時が止まった村の噂

 ⑤行方不明者の情報

 

 

◆行方不明者の捜査―HO1:警察

  探索者が警察の場合、仕事としてツイスプシュートに向かったのを最後に消息を絶っている行方不明者の捜査を任される。この場合は事前に調べようとすれば警察の立場で得られるであろう情報は全て得られるが、探索者一人に任務が言い渡された時点では警察はこの行方不明事件を重要視しておらず、取るに足らない、田舎へ出向かなければならない厄介な仕事と考えているため、黙っていれば十分な情報は与えられない。自動的に与えられる情報は以下の通りである。

 ①村の基本情報

 ②村の補足情報

 ⑤行方不明者の情報

 

 

◆時が止まった村の噂の調査―HO3:新聞記者やオカルト好き

 一部のオカルト好きの間では、ツイスプシュートは時が止まった村である、という都市伝説が囁かれている。しかし当のツイスプシュートが日帰りは到底できないような田舎で宿泊できるような場所もない(と考えられている)ため実際に訪れる者は殆どおらず、この眉唾話の真相は定かではない。

 オカルト好きでなおかつ個人的興味で辺境の集落へ赴く行動力のある人間か、もしくは新聞記者などであれば仕事としてこの噂に関する記事を書くように上司に指示されるかもしれない。この場合、PLの宣言や行動なしに自動的に得られる情報は以下の通りである。

 ①村の基本情報

 ③時が止まった村の噂

 ④行方不明者の噂

 

 

<得られる初期情報詳細>

①村の基本情報

ツイスプシュートは辺境の地の小さな村であり、今でも外部との交流が非常に少ない。

 

②村の補足情報

特に50年ほど前には都市部の発展に伴い多くの村民が出稼ぎに行き、村は縮小。現在は殆ど廃村のような小さな集落である。

 

③時が止まった村の噂

この村は時が止まっているという噂がある。村を訪れた者が、村でその日付けのものとして売られていた新聞がなんと50年以上前のものだったと証言している。ただし物証はなく、ほら話と捉えられている。この噂は五年ほど前のオカルト誌の記事のものである。

<記事内容>

『廃村同然であるはずのツイスプシュートを訪れた旅人が、ごく普通に多数の村人が生活している様子を目にし、しかも、道端で新聞を売り歩いている少年から新聞を買ってみると、なんとそれは50年以上昔の日付だったという。村人に訊いても新聞と一致する過去の日付を答える。恐ろしくなった旅人は、この村に宿泊する予定を取りやめて、一目散に逃げ帰った』

 

④行方不明者の噂

村へ出かけて行ったきり行方不明の者がこれまでにも複数存在する。ただし、この村を訪ねて行く者自体が少なく、具体的な事件となるほどには至っていない。また、行方不明者の中には村を直接訪ねはしていないものの近隣へ行ったきり戻らない者もいる。

 

⑤行方不明者の情報

ジェイコブという青年がツイスプシュートへ向かったきり行方不明である。彼はとあるゴシップ紙の記者であり、「時が止まった村」について調べる為ツイスプシュートへ足を運んだ。出発したのが1週間前であり、当初の予定では3日で戻るはずが一向に連絡がなかったため、家族が行方不明として届け出た。

 

 

 

 それぞれの理由により探索者はツイスプシュートへ赴く事となる。ツイスプシュートは山道を越えた先の辺境の集落であり、探索者の住むような都会からは車や鉄道を用いても最終的な山道の道のりを合わせて4時間は掛かる為、日帰りは困難である。泊りがけの予定となる為、探索者達がツイスプシュートを訪れるのは週末とする。それまでの1日程度の猶予を事前の調査に用いて良い。

 

 

 

 

2.事前調査

 PLの宣言に従って以下の情報を適宜提示する。用意されている情報はジェイコブ(行方不明者)の家族、ツイスプシュート出身者、『時が止まった村』の記事ライター、役所等からの情報の4点である。此処に辿り着くまでの調査方法はPL及びKPの判断に委ねるが、PLが詰まった場合にはKPから調査方法を提示しても良い。

 

◆ジェイコブの家族

 両親が早くに亡くなったため、姉がジェイコブの唯一の肉親である。都会で仕立て屋を営む姉は共に暮らす弟がもう1週間も戻ってこない事を懸念して、警察にも通報している。導入例1の場合は既に話を聞いているが、改めて話を聞く事も可能である。

 

 

◆ツイスプシュート出身の老人

 都市部で暮らす老夫婦。夫がツイスプシュート出身である。エイミーによる事件が起きる前に都市部へ出て行き、そのままそこに移り住んで都会育ちの妻と出会い、今に至るまで平穏な人生を送ってきた。男性が村を出る頃、丁度多くの村人が集落の限界を感じて都市部への移住を話し始めており、彼はそのままツイスプシュートは潰えたものとばかり思っている。当時の村の様子を訊ねると、現在(当時の再現)とぴったり一致する描写を得られる。

 

「まあ、何しろずっと昔のことだから……。当時は私も若くて、都会に出るのが憧れでな。それが叶った後は、生活に必死だったのもあって、あの小さなツイスプシュートの事などすっかり忘れてしまっていた。気軽に戻ろうにも、そうも行かない山奥だからなあ」

 

「私だけでなく、当時は多くの村人が、こんな所にいても仕方がない、都会に出ようと息巻いていたよ。皆都会へ移って、自分達の代でこの村は終わりだと村長も言っていた。そうなったものとばかり思っていたよ」

 

「村は小さかったけども、のどかで良い所だったなあ。畑には小麦が一面に実って、まるで黄金の絨毯のようで、私よりいくつか小さかったジェリーが毎日新聞を配って歩いて、それとよく遊んだものだ。教会のてっぺんには鏡を持った女神さまの像があってなあ、女神さまはそこからなんでも見てるから悪いことはしちゃいけないぞって、村の子供たちはよく大人に脅かされていた」

 

 

◆『時が止まった村』の記事を書いたライター

 雑誌の編集部などからたどればオカルト的な噂の発端となっている記事を書いたライターを訪ねることができる。彼は既に5年も前の事だからとあまり強い関心を持ち合わせた様子はないが、元来オカルト好きの性質故かその話についてはよく覚えており、話を聞くことができる。怪談話としての読み上げ例文は以下の通り。

 

『あれね、実は僕が昔実際経験した事なんだよ。記事を書くよりもさらに何年か前の事だけれど……、

 当時は各地を旅して回るのが趣味でね。今もあるんだかないんだか分からない村落があるってんで、行ってみたんだ。そしたらちゃんと村があるから、野宿もしないで済むって喜んで向かった。小さいながらにちゃんと村民がいて、普通に生活してたよ。旅人だと伝えたら村長が宿屋はないけれど泊めてくれるって言うし、すっかり安心して僕は村を散策した。

 けれど、すぐにおかしなことに気付いたんだ。何だか村人たちの服装だとか、街並みの様子も、時代錯誤というか……とにかくとても古めかしいんだ。いや、それだけなら山奥の村だし不思議じゃあないかもしれない。けれどね、丁度その時、新聞を売り歩いている少年に出会ったものだから呼び止めて新聞を見せてもらった。そうするとね……そこに書いてあった日付は、50年以上も前のものだった。びっくりして少年に今日の日付はと尋ねると、少年はきょとんとしながら、その新聞に書いてある日付を言ったのさ……。

 それから他の村人にも同じ質問をして回ったが、みんな大昔の日付を答える。終いにはそれよりずうっと先の年号を挙げる僕がおかしいみたいにみんなでじろじろ見始めて。その時、ハッと感じたんだよ。ここはおかしいって。何がとははっきり言えないんだが、とにかく、ここにずっと居ては僕までおかしくなってしまう。そう思って、泊まる予定を取りやめて大急ぎで村を飛び出したよ。夜通し山道を下って、へとへとになりながら帰ったねえ……。

 今思えば不思議なものさ、ツイスプシュートの村は間違いなく平然とそこにあったけれど、村から出るのに最も近い隣町では、ツイスプシュートとの郵便も、物資の連絡も、何一つないっていうんだから。そう、彼等が言っていた大昔の頃以来ね』

 

 

◆役所などで得られるツイスプシュートの詳細情報

 

・都市部から遠く離れた森の奥に存在しており、外部との交流も乏しい

・天候は一年を通して悪く、晴れる事がないどんよりとした土地である

・山の手前の最も近い町はそれなりの規模。そこから山中の道を途中まで車で行き、最終的には徒歩で暫く山道を進む必要がある。宿泊施設などはなく、村で交渉をするか、さもなければ野宿をすることになる

・当然通信の手段はなく、それどころか郵便すら届くことがない。既に廃村になっているのではないかとすら言われている

 

その他妥当だと思われる情報は適宜PLの宣言に合わせて開示して良い。

 

 

 

3.村へ

 村への道のりは車や鉄道などの移動と徒歩と合わせて4時間ほどである。自家用車や馬車、鉄道なりの手段で一度隣町を中継する事になり、そこから馬車を依頼して山道を登る事になる。また、山道の最後は馬車でも進入出来ない足場の悪い獣道となる為、徒歩で向かう事となる。馬車は前もって依頼しておけば帰りの際にも侵入できる山道の途中までは送迎に来てくれる。

 

 車両は入れない様な狭く足場の悪い山道を、貴方達は自らの足で上って行く。そこまでの傾斜はないものの、見通しの悪い木々の中の獣道を数十分も歩き続け、すっかり息が上がっていた。木々の葉の間から辛うじて仰ぐ事の出来る空はどんよりと曇り、ぶ厚い灰色の雲が頭上を覆っている。

 そんな道のりを黙々と進み続け、漸く目の前の視界が開けた。木々が開けた道の終わりには、小さな村が静かに佇んでいた。こぢんまりとした家屋が立ち並び、中央には少し背の高い塔が見える。それはほんの小さな規模であったが、廃墟である様子もなくごく普通に機能している人家の光景に思えた。

 

 この時点で村の地図をPLに提示する。⇒資料:村の地図を提示

 民家が点在する他に特記できる場所としては、時計台、村長の家、教会、雑貨屋、畑などが挙げられる。加えて、村の外れには大きな湖がある。

 探索者達が村の入口に着いた所で、少年(ジェリー・トラヴァーズ)がそれに気づき声を掛けて来る。彼は珍しい旅行者に興味津々で、探索者達を村長の家へと案内しようとする。この申し出は受けても受けなくても構わないが、村長は探索者達を見ると村への来客は非常に珍しいと歓迎し、村には宿泊施設がないので自分の家に泊まる様にと勧めて来る。

 

 また、村長と対面するのであればそのタイミングで隣の自宅から、それ以外の場合でも適当なタイミングでエイミーが現れ、探索者達に簡単に村の案内をすると申し出る。可能であればこのタイミングで、ぐるりと村を一周しつつ以下の情報を提示する事。

 

・時計塔の鐘は毎日午後六時に鳴る。これはエイミーが管理している

・湖は女神が住んでいるとされ、特別な時を除けば立ち入り禁止

 

 加えて、彼女の家を案内した際、あるいは探索者達が自発的に彼女の自宅に注目した際に以下の情報を提示する。

 

※強制【目星】表札に彼女の名前と共に「アルフレッド」という名前がある

 

 名前についてエイミーに訊ねた場合、以下の情報を提示する。

 

・アルフレッドは彼女の恋人である

・都会に移住する為、今は一人で都心へと出ている

・「もう数年経つけど、ずっとこうして待ってるの。約束したから」

 

 特にアルフレッドに関する情報については、彼女が恋人に対して強い愛情を抱いている事、「ずっと待ち続ける」という約束に強く執着している事などを強調する事。彼女は首からロケットペンダントを下げており、話をしながらそのペンダントを探索者達に見せる。中には彼女と恋人が幸せそうに微笑む写真が入っている。

 以上の情報を出した後、自由探索時間とする。ただし、基本的には村長の家に宿泊する事になる為、6時には夕食が用意されるという事、夜は山に獣などもおり危険な為6時の鐘が鳴ったら屋内に戻って欲しいという事を探索者へ伝え、時間を過ぎても外に居る場合は時計塔から戻る途中のエイミーと出会わせて早く屋内に入る様注意する。

 

 

 

 

4.村の探索場所

 村にはジェリーやエイミーをはじめ、屋内外に村人達がおりごく普通に生活している。彼らに何か質問をした場合は以下の返答が共通して返ってくる。

 

・今日の日付は?⇒1870年8月15日

・村への訪問者は?⇒殆どない。最後の来客は一月以上前

・ジェイコブについて⇒その様な人物は知らない

 

 グラーキの従者である村人達は生前の具体的な記憶(1870年8月15日のもの)に基づいて行動している為、ジェイコブの事は既に記憶から消失している為本心からの回答となる。例外として、エイミーのみは全ての記憶を保持している為、【心理学】などを行使した場合嘘が発覚する。

 ただし、エイミーをはじめ、村人達に事実の矛盾を突きつけて厳しく追及する言動をした場合、彼等はグラーキの意志によって探索者達を捕縛しようとする。⇒12.最終イベント参照

 

 また、村全体を回って家屋の様子を確認した場合、家屋の半分ほどは空き家であることが分かる。これは1870年当初、多くの村民が既に都会へと旅立っていた為であり、村人に訊ねた場合もその旨が返答される。

 

 

◆村長宅

 村長である老人が娘と二人で暮らしており、客人用の空き部屋もいくつかある為、探索者達はここに宿泊する事になる。特に怪しい場所はない。

 村長は外からの来訪者であることを伝えると探索者達を歓迎し、宿の心配をして自ら家に泊まる様勧めてくれる。また、食事なども用意される。

 

 

◆雑貨屋

 ごく普通の小さな雑貨屋で、店主が一人で営んでいる。村民の生活必需品を幅広く扱っている、村で唯一の店舗である。商品の並ぶ棚の一角には、水瓶を抱えた木彫りの女神像がある。これらは村人向けのみではなく、たまに来る外の人間向けのお土産品でもある。

 

 

◆畑

 豊かに実った小麦が畑一面に重たい穂を垂れている。この小麦は季節がいつであれ、時期に関わらず常に実っている。畑は広く、小麦のほかにも奥には様々な野菜が栽培されており、自給自足の生活を物語っている。

 

【知識or生物学】明らかに時期を外れた作物が実っているとわかる

 

 

◆教会

 白を基調としたこじんまりとした建物は、ほかの民家とは異なる外見であり、いわゆる教会にあたるものであると分かる。屋根のてっぺんには、水瓶を掲げた女性の像が飾られている。

 中は開けた空間になっており、正面には教壇、小さなオルガンがあり、それらに対面する形で長椅子が並び、部屋の片隅には小さな本棚がある。シスターが一人で管理しており、話を聞く事が出来る。

 

【目星】正面の祭壇の脇、目立たないところに置物が片付けられている。箱にしまわれたそれは全部で4つあり、どれも美しい女性が大きな鏡を掲げている、同一のデザインのもので、美しい銀色をしている。

 

 もしも探索者がこの像を手に取った場合、それが見た目の割に軽いと感じる。アイデアなどに成功すれば、中が空洞で見た目よりは軽量な作りであると分かっても良い。

 シスターに話を聞いた場合、以下の情報が得られる。

 

・この教会はキリスト教ではなく、村独自の信仰に基づいている

・水瓶を持つ女性はこの村土着の「空の女神」である

・鏡を持つ女神像は今は使っていないので仕舞ってある

・詳細な事は自由解放されている本棚の本を見ると良い

 

 シスターはごく好意的に探索者達の話に応じるが、他の村民と同様に過去の記憶を元に半ば自動的に行動している為、エイミーの行った処理に伴って改変された事実に関しては曖昧な返答しか行わない。

  例えば、鏡を持つ女神像については「それも同じ女神様ですが、我々がお祀りしているのは水瓶を持つ女神様ですから、今は使わないので仕舞っています」という答えしか返ってこず、かつては鏡の女神像を祀っていたのか、いつ変わったのか、等を詳細に訊ねても分からない、興味がない、考えた事がない、等という不自然な回答しか得られない。ただし本当に「興味がない」為、探索者達が本や仕舞われている女神像などを持ち出したいなどと希望した場合にも、特に咎める事無く了承する。

 

 ●本棚

【図書館】子供向けの絵本やこの辺りで信仰されている宗教に関する書籍等が並んでいる中、以下の二冊の本を発見する。

 

 

・『湖の神の神秘なる力』

 「グラーキの黙示録」の不完全な写本。全てしっかりと読むには数日の時間が掛かる。

 

【アイデア】一部読み癖のついたページがある事に気付く。

 

 読み癖のついたページのみであれば、短時間で読む事が出来る。読んだ場合、以下の情報が得られる。

・湖に住まう神は自身を崇める信奉者に力を与える

・神は水辺を通して本来の居場所から呼び寄せることができる

・招来した神を一所に留めておくには継続的な儀式が必要である。神に自身の信奉者の存在を知らせ、その場を離れないよう引き留めるための合図を送り続ける必要がある。

・神は信奉者に半永久的な命を与えるが、その代償として信奉者は太陽神に忌み嫌われる者となる。神の力が長く体に染みついた者は、太陽の光に触れるだけで存在が瓦解してしまう。

 

 

・『空の女神』

 ツイスプシュート土着の女神信仰に関する本。内容は以下の通り。

 

『空の女神は澄んだ水に住まい、そこから毎日、はるかなる天を仰ぎみて暮らしておりました。女神はとても謙虚で心優しく、自分が司る天の上ではなく、地上で人々と助け合って暮らしておりました。女神は村の人々と助け合い、時に困った人々を空を操る力で助け、村の守り神として大切にされておりました。 

 女神の持つ鏡は、閉ざした雲を払い、太陽を呼び寄せる力を持っておりました。女神の持つ水瓶は、水を呼び日照りを遠ざけ、雲や雨を呼び寄せる力を持っておりました。』

 

 

◆倉庫

 村の外れにある大きな倉庫。村民達は「村の皆で使う色々な道具が仕舞ってある」と説明し、堂々と訊ねるのであれば探索者達が中に入ろうとすることを許可しない。ただし、特段厳しく監視がされている訳でもないので、目を盗んで近づく試みをするのであれば簡単に可能である。古びてはいるもののそれなりの広さのありそうな木製の倉庫であり、鍵がかかっているが、【鍵開け】やSTR10との対抗で容易に開けられる。

 

 扉を開けて中に入ると、薄暗い倉庫には多くの荷物が放られており山を形作っている。それは旅行鞄や外套、帽子など個人の所有物と思しき荷物であり、ざっと見ただけでも相当な人数のものであると分かる。それらの見た目の新しさはまちまちで、中には時代錯誤的な古臭い大きな旅行鞄が奥で埃をかぶっているのも見える。

 

【目星】無造作に放られた荷物の一番手前に、特別真新しい荷物を見つける。

 

 それは他と同様に大きな旅行鞄で、中を見ればそれなりの日数分の着替えなどが入っている。そしてその荷物と共に投げ出されていたコートのポケットから、ジェイコブの名前の入った万年筆と、小さな手帳のセットを見つける。

 

 手帳の内容は以下の通り。

 

『1月23日 ツイスプシュートに到着。本当に辺鄙な森の中で、こんなところに人の住む村があるなんて信じられないくらいだ。さっそく調査を開始。

1月24日 確かに、この村は時間が止まっている、住人たちは昨日と同じ日付を今日として認識していた。1870年の8月15日だ。この日に何かあったのか。何が起きているんだ。必ず解き明かす

1月25日 妙な夢を見た。昨夜も夢見が悪かったが、今日は気付いたら表に出て外を歩いていた。まるで夢遊病のように。そして漠然と、湖へ行かねばならない気がした。やはりおかしい。帰る前に、村長にでもはっきりこの村の矛盾を問いただしてみよう。そして、あの外れの湖も調べてみることにする。

 

出られそうにないので可能な限りの事を書きとめる

化け物 全員化け物だ 刺激してはいけない

恐らくこれまでの行方不明者も同じようにどこかへ消された

僕もきっともう無理だ

 

ああ どうかこれが勇敢な誰かの手に渡り 真実を解き明かしてくれますよう』

 

 それ以外にも事前調査時に取り落とした情報で必要なものがあれば、以下の「手帳のメモ書き」の形式で探索者に提示する。

 

『取材記録:ツイスプシュート出身のH氏

60年程前に村を出た老人 当時10代後半

多くの村人が都会へ出ようと考えていた

その代で村は終わりと村長も言っていた

のどかな村、広い畑、新聞配達の少年(記事と一致か?)

教会の鏡の女神像

 

取材記録:『時が止まった村』のライターJ氏

5年前の記事

あるかないか分からない集落

普通に生活していた 村長宅に宿泊

服装や街並みが時代錯誤

新聞売りの少年 50年以上前の日付

皆その日付を答える

村はあったが隣町との連絡は今は途切れている』

 

 

◆湖

 村の外れ、少し森の中へ差し掛かる小道の先に湖がある。村民達に訊ねた場合、この湖は村で信仰している空の女神がいる神聖な湖で、祭りなどの際以外では村人達も立ち入る事はなく、探索者達も近づかない様にと警告される。

 警告を無視して近づいた場合、小道に差し掛かった所で以下のイベントが発生する。

 

 木々に囲まれた小道へと足を踏み入れた所で、貴方達の耳に木の葉のざわめきとは異なる音が聴こえてくる。

「やめろぉ……行くなあ……」

 低い唸り声の様なその声は、木々の奥の暗がりの何処かから響いて来る様である。何処からともなく聞こえてくるその声に、貴方達は思わず湖へと進めていた歩みを止めた。

 

 この声は村人達から逃れる為に木々の中に身を潜めつつ、探索者を湖へ近づけまいとするジェイコブが打った芝居である。

 この警告を無視して湖へ近づこうとした場合でも、丁度そのタイミングで村の方から村人が通り掛かり、探索者達に湖の方へは行かない様に声を掛ける。これらの抑止を全て振り切り無理に湖へ行く行動を止めない場合や、再度人目を盗んで湖へと向かった場合には、湖に座するグラーキと対面する事になる。⇒12.最終イベントへ

 

 

◆時計塔

 規模はそこまで大きいものではないが、村のくたびれた民家に比べればかなり立派なレンガ造りの建物。3、4階ほどの高さがあり、その最上部には大きな時計盤と鐘が見える。

 

【目星】鐘がある最上部は物見台の様になっており、その手すりの四つ角に、水瓶を持った銀色の女神像がそれぞれ配置されているのが見える。

 

 正面の入口は鍵がかかっている。村人に訊ねれば鐘を鳴らすのはエイミーの仕事であり、鍵も彼女が管理していると話す。鍵は後から付けられたものであり、この村では塔と倉庫、エイミーの家のみがきちんと施錠されている。

 時計塔の鍵はとても頑丈な南京錠で、壊そうとするのであれば一人でSTR22との対抗、【鍵開け】は-30の補正となる。エイミーの所持する鍵を使う方法が正攻法である。

 塔に侵入するのは基本的に最終局面の際であると想定される為、該当章に別途記載する。⇒12.最終イベント参照

 最終局面以外で探索者達が塔へ侵入しようとした場合には、村人を通り掛からせるなどして抑止する事。

 

 

◆エイミーの家

 玄関に鍵が掛かっており、村長の家も近く村の中央部にある為近くに村民の姿も多く、人目を盗んで中に入る事は難しい。基本的には進入するタイミングは一日目夜になると思われる為、内部の情報は該当章に別途記載する。⇒8.夜間イベント:ジェイコブとの邂逅参照

 

 

 

5.定時イベント:日陰者の視線

 ある程度村の探索が済んだところで、外にいる探索者たちに【アイデア】を振らせる。

 

※強制【アイデア】どこからか視線を感じる。しかし視線の方を振り返ってみても、村の外に生い茂る鬱蒼とした木々が見えるだけで、視線の持ち主の姿は見当たらない。

 

 これは村の外周の木々に身を潜めているジェイコブの視線である。彼は探索者達が村にやってきた事に気付き、その後村人に悟られない様にどうにか接触しようと試みる。

 

 

 

6.定時イベント:時計塔の鐘

 午後6時になったところで、時計塔の鐘が鳴る描写の後に探索者達を屋内へ戻る様誘導する。

 

 午後6時になると、村の中央にある時計塔の鐘が鳴り響く。それはずっしりとした重みのある、今までに聞いたことのないような耳につく音色だった。大きなその音は、村全体に十分に響き渡るように感じられる。

 

 時計塔の鐘に魔力が込められており、エイミーはこの音色を毎日決まった時間に鳴らすことでグラーキを湖に留めている。

 近い位置から見るのであればエイミーが塔の頂きで鐘を鳴らしている姿が目視出来るが、それ以上の詳細な様子や不審な点は特に見当たらない。

 このイベントと同時に、PL達には夕食が用意される時間である事を改めて告知する事。

 

 

 

7.夕方~夜

 夕方、村長宅に戻った探索者達は一度借りた客室へと荷物を置きに戻る事だろう。部屋に入った時点で全員に【目星】を振らせる。

 

※強制【目星】部屋の窓に何か紙が挟まっている

 

 この紙は全ての探索者の部屋に差し込まれている。手帳か何かのページの切れ端の様で、殴り書きの様な字で以下の文章が書かれている。

 

『夜になったら裏の森へ来てくれ。見つからないようにこっそりと』

 

 置手紙はジェイコブによるものである。何も知らず村に迷い込んだ探索者達とコンタクトを取り、無事に村から脱出させるべくジェイコブは手助けをしようとする。

 

 探索者達はその後村長の娘に呼ばれ、夜までの間に食事や入浴を済ませる事となる。

 

 食卓についた貴方達の前には、食事が既に用意されている。柔らかそうな焼きたてのパンが大皿に盛られてテーブルの中央に鎮座しており、貴方達一人一人の目の前にはクリームシチューとサラダの皿が並ぶ。シチューの中にもごろごろと大きめに切られた野菜がたっぷりと入っており、湯気と共に食欲をそそる香りを貴方達の鼻先へと届けている。素朴ながらに大変に美味しそうな食事だ。

 

 ただし、これらも平凡な見せかけにより作られたものなので、実際には探索者達は味気のないわら束か紙ごみを咀嚼し、水すらない浴槽に浸かって満足を得ることになる。

 もしもこの時点で食事などに強く疑念を持つ探索者が居れば、【アイデア】を振らせて違和感を伝えても良い。

 

 

 夜中、書き置きに従って外に出るのであれば、外に出た所で目星を振らせる。

 

※強制【目星】エイミーが家から出て、どこかへ歩いていく姿が見える。

 

 もし直接声を掛けるのであれば、彼女は「時計塔の鍵を閉め忘れてしまった事に気付いたので」と説明する。この際【アイデア】で彼女の向かった方向が時計塔の方向ではないとわかる。

 また、追跡したり、彼女の行く方向を注意深く観察するのであれば彼女は湖の方へ向かった事が分かる。もしも深追いして、探索者達が書き置きに従う事なく湖の方へと踏み入ろうとした場合は、湖の方から只ならぬ気配を感じるなどの警告描写を行う事。それでも湖の方へと進む場合、グラーキと対面する事になる。⇒12.最終イベント参照

 

 

 

8.夜間イベント:ジェイコブとの邂逅

 書き置きに従って外に出て、村の周辺の森の方へ踏み入れた場合以下のイベントが発生する。

 

 貴方達が村長の家の裏手の茂みを分け入ると、その先は灯りもない夜の森が広がっている。耳を澄ませば、獣の遠吠えのような声も聞こえる。そんな不気味な暗がりを、迷わない様に気を付けながら貴方達は歩くだろう。暫く行くと、目の前の草木の奥からがさり、と物音がした。

 そしてそこから姿を現したのは、一人の青年だった。

 

 青年は失踪した新聞記者のジェイコブであり、探索者が彼の知り合いである場合は、何ら変わらない彼の姿であるとわかる。ただし、服は汚れていてやや疲弊した様子である。

 

【目星】ジェイコブのシャツの胸元から、何か傷のようなものが見える。

 

 傷についてジェイコブに直接訊ねて見せる様に言えば、彼は少し困惑しながらも傷を探索者達に見せる。

 

 それは直径数センチほどの青黒い丸い傷跡だった。それを中心に、放射線状に、網目のような赤い線が皮膚の表面を走っている。

 

 彼はその傷について、「化け物に襲われた」と答える。しかし、彼はグラーキに遭遇して棘を刺され、逃走するまでの間発狂状態にあった為記憶が正確ではなく、探索者達に詳しく尋ねられても「思い出すのも恐ろしく、思い出そうとしてもはっきりと思い出せない」とそれ以上の詳細を話す事はなく、ただ「湖には行くな」と強く伝える。会話で得られる情報は以下の通り。

 

・自分は村に取材に来て、村の奴らに襲われた

・この村はおかしい。彼等の時間は止まっているようだし、村人たちはおかしい

・湖には行くな。湖に何かが居る、危険だ

・外に出ようとしたが、日の光に触れた瞬間壮絶な痛みを感じ、日の下に出られない事を覚った。誰かにこの村の事を知らせるため、ここにいた

 

 ジェイコブはグラーキの攻撃から一度は逃げて完全な従者にこそならなかったのものの、既に人間としての生は終わっている上に、その際のショックから記憶が半端に欠けている。彼は自分が取材に来たこと、ここで恐ろしい目に遭った事は分かるが、どういった経緯でそうなったのか、細かい過程は思い出せない。それらの経緯が記された手帳は、村の外れの倉庫に彼の旅行道具と共にしまわれている。

 一通り会話をした後、探索者達が村に起きている事件の解決に意欲を示してくれるのであれば、ジェイコブはエイミーの名前を挙げて「彼女が怪しい。しかし彼女の家や管理する時計塔だけしっかり鍵が掛けられていて、何も知る事が出来なかった」と探索者達がエイミーの家を調べる様に誘導する。必要であれば、自分がエイミーの帰りを見張ったり、囮になる事を提案する。

 

 

◆エイミーの家

 玄関には鍵が掛かっているが、古いものである為STR10との対抗で開ける事が出来る。昼間にこの行動を取る事は人目もあり難しいが、村が寝静まった夜であれば容易に試みる事が出来る。表の表札にはエイミーとアルフレッドの名前が並んでおり、内部もごく普通の民家。エイミーの私室とアルフレッドの私室がある他には、キッチンやトイレなどの必需箇所があるだけで特に探索箇所はない。

 

●エイミーの部屋

 ごく普通の居室。ベッド、机、クローゼット、本棚がある。

 

・本棚

 ぎっしりとノートが入れられており、最新の1冊は机の上に開かれているのに気付く。本棚にあるノートの内容も机のものと同様、日付と同じ一文のみが繰り返されている。

 

・机

 机の上には古そうな白黒写真の中で笑う男女の姿が写真立てに入れられて飾られている。女性の方はエイミーであるとわかる。また、ノートが一冊、開かれた状態で置かれている。開かれたページの内容は以下の通り。

 

『19881日目 今日も彼は帰って来ない』

 

 その前のページにも同様にそれまでの日数と一文のみが書き綴られている。

 

【目星】机の中から手書きのメモが2枚見つかる。

 

<1枚目内容>

『神様を湖に呼んで、その力で村をずっとこのまま守ってもらおう。

必要なものの準備をしないと。神様を留めておくための合図、綺麗なままにしておく魔法、太陽から遠ざける呪い。

どれも村全部を扱う大掛かりなものになるから、それならあそこがいい。

合図には鐘が使えるだろうし。』

 

 2枚目は何かを解読しようとしたメモのまとめ書きの様で、魔術的な呪文や儀式の内容を書いたものだという事が分かる。

 

<2枚目内容>

『・神への合図

神の御許に届くように、合図を送る。合図はどんなものでも良い。ただし、魔術の印が刻み込まれた品物で、その力を、欠かさず神に伝え続ける事。合図が途切れれば、神は自分を呼ぶ人の子の存在を忘れ、元ある場所へ還るだろう。

・空を操る

精神の力を用いて、大いなる空を意のままに操る。恵みの雨も希望の日差しも、神の怒りたる雷さえも意のままに。しかし人の子にとって天を操ることはあまりにも大それた偉業で、易く成せるものではない。もしも空を自在に操り続ける事を望むのならば、それは人の子一人に成せる業ならず。そのための精神の力は、触媒を用いて集め、高めねばならない。

・まやかしの魔法

人の目は時にあまりに愚かで、時に正しい現実よりも都合の良い夢にやすやすと騙される。もしあなたが平坦で平穏な塗装を施すのなら、それらに呪文を唱えれば良い。

ただしメッキは容易く剥げる。もしもあなたが疑念を持って、自分の瞳の薄っぺらな嘘を剥ぎ取るのならば、逆の呪文を唱えれば良い。塗り固めるよりも、剥がす事はずっとずっと容易い。

・ものに魔力を込める

人の持つ魔力は、精神のエネルギー。全ての人間、全ての生命が抱く未知なる力。一人の人間が持つエネルギーは微々たるものだが、これは資源として扱い、自在に移す事ができる。触媒となる物に込める事で、多大なエネルギーを蓄積することもできる。ただし、魔力を宿すに足る触媒は、相応の器でなくてはならない。例えば銀は、魔除けの力や、魔力を留める器としての力を十分に備えた素材である。』

 

 このメモを読んだ探索者は、「空を操る」「まやかしの魔法」「ものに魔力を込める」について具体的な呪文の扱い方を理解する。各呪文の詳細及びルールブックでの記述ページ等については資料:呪文の項目に書いてあるが、本シナリオでの呪文は本来のものから改変されている為、PLに示す情報としては以下の通り。

 

 「空を操る」

天候を穏やかにしたり悪化させたりする呪文。MP10ポイントにつき30分間、半径3.2kmの範囲の天候を1段階操作できる。この際の1段階は「晴れ>薄曇り>ところにより曇り>曇り>厚い雲」等の段階を示しており、変化させる段階を増やすごとに追加でMP10ポイントが必要。

「まやかしの魔法」

生き物や物品の外見が、見る者にとってまったくありふれた取るに足らないものに見えてしまう。呪文を掛けるには対象物のSIZ分のMPが必要となる。掛けられた呪文を解除するには、呪文に欺かれている者がこの呪文を逆さに唱えるだけで良く、特にコストは掛からない。

「ものに魔力を込める」

適性のあるオブジェクトに、自分のMPを流し込む。また、逆に蓄えられているMPを引き出して自分のものとして扱う事が出来る。この操作に特に呪文や下準備は必要ない。

 

・クローゼット

 エイミーの服が仕舞われている。

 

【目星】彼女が日中着ていた上着のポケットに鍵を見つける。

 

 ここで見つかる鍵は時計塔の鍵である。この鍵を使う事で時計塔の入口の戸を開く事が出来る。

 

 

●アルフレッドの部屋

 此方もごく普通の居室。ベッド、机、クローゼット、本棚がある。特にめぼしい情報は見つからないが、部屋の主が数年留守にしているにも拘わらず、随分綺麗に保たれていると感じる。

 

 エイミーの家の探索があらかた済んだ後は、手に入れた情報を元に翌朝時計塔を探索し、クライマックスへと移行するのが想定されうる流れである。必要な情報が出たら、適当な所でKPはあまり長居すればエイミーが戻ってくるかもしれない旨を告げて行動を促す事。

 

 

9.就寝時イベント:夢引き

 ジェイコブとの邂逅と同時刻、エイミーは湖へ行きグラーキに来訪者の存在を知らせてグラーキを目覚めさせる。よってその後のタイミングで夜就寝した場合、グラーキによる夢引きが行われる。

 犠牲者が夢の力に負けるパーセント値は<グラーキのMP(28)-探索者のMP>%である。

 PLに1D100を振らせ、出た目が<100-(グラーキのMP(28)-探索者のMP)>以上だった場合、夢引き成功となる。

 例えば、探索者のMPが18だった場合、夢引き成功の確率は<28-18=10>なので10%であり、91以上の出目で夢引き成功となる。

 

<夢引き成功>

 妙な夢を見る。貴方はどことも知れない暗闇の中をさ迷い歩いている。

 どこへ行けばいいかもわからず途方にくれていると、不意に、ぴちゃりと、足元を浸す水の感触。見下ろせば、足首が浸かる程度の水がいつの間にか貴方の足先をひんやりと包み込んでいた。澄んだ冷たいそれは、心地が良い。そのまま足を進めると、段々と水かさは増して行き、貴方はどんどんとその水の中へと体を沈めてゆく。しかし不思議と不快も恐怖もなく、何か絶対的な安心に包まれ、導かれるように進んで行く。

 遠く、水の中に、貴方を迎え入れようと手を差し伸べる、女神の姿を見た気がした。

 

 貴方は目を覚まし、漠然と「湖に行かなくては」と思い立つ。ふらふらとベッドから起きて部屋を出て、外に踏み出し冷ややかな朝の風が頬を撫でた所で貴方は急に我に返る。貴方は、自分が直前まで確かに感じていた理屈の通らない妄信の様な感情に恐怖を感じた

 

SANチェック】0/1D2

 

 

<夢引き失敗>

 妙な夢を見る。眠り、暗闇に浮かぶ貴方の意識に、何か、呼ぶ声が聞こえてくる。それは明確な言葉ではなく、人の声とも獣の声とも形容しがたく、しかし確かに「呼び声」であった。

呼んでいる。行かねばならない。何となくそう感じる。

そう思う貴方の頭には、霧の濃いどんよりとした水辺が浮かんだ。それが、あの村はずれの湖であると、貴方は見た事もないのに確信する。そこで何かが、自分を、待っている。

 

大変奇妙で気分の悪い夢を見て、貴方は目を覚ます。

 

【SANチェック】0/1

 

 

 

 

10.イベント:平凡な見せかけの解除

 エイミーの家で手にした呪文を用いて、探索者達が自身が錯覚している「平凡な見せかけ」の呪文を解除した場合の描写例。

 

 それまで見えていた風景が一変する。田舎の質素ながらに整っていた民家は、どれも目も当てられない程雨風に晒されて風化した廃墟だ。その合間をうろうろと彷徨っているのは、村人などではない。緑色の腐敗した肉をまとったアンデッドそのものだった。それらは歪な動きで、荒み切った廃墟の道を行き来している。

 

【SANチェック】1/1D10

 

 以下は朝のタイミングで村長を目撃した際の描写の一例。探索者達が呪文解除を行ったタイミングに応じて適宜見た相手についての描写を挟むと良い。

 

 貴方の目の前にぎこちなく四肢を震わせながら歩み寄ってきたのは、昨晩貴方を家に泊めた親切な老人などではない。どろどろと腐敗した肉片の隙間から変色した骨が垣間見える、アンデットそのものだった。もはや生きた人間には似ても似つかない蕩けた腐肉の顔面を歪に震わせて、彼はおぞましい声で、貴方達に朝の挨拶を述べている。

 

 村民達の正体に気がついた場合にも、村民達の方はそれに気づく事なく変わりない日常の行動を続ける。探索者達が特別大きな行動を起こさない限り変化はないが、もし探索者がそれを問い詰めたり、異形となった村民達に対して大きなリアクションを起こす様であれば、村民達を通じてグラーキが気付かれた事を悟り、探索者達を捕らえようとしてくる。その様な状況になりそうな場合、KPは探索者の挙動に対して村民達の様子が変わって、探索者達の反応を観察している事を伝え、危機を警告すると良い。

 

 

 

 

11.定時イベント:二日目の朝

 探索者達が目覚めると前日の夜と同様に村長の娘が食事を出して探索者達を食卓へと招く。

 

 食卓へ向かえば、昨晩と同様に村長家族が朝食を用意して待っていた。サラダとコーンスープ、目玉焼きとトーストが並んでおり、香ばしい匂いが立ち上る。食事も大変おいしく、良い目覚めだが、今日もツイスプシュートは厚い雲に閉ざされた曇天である。

 

 食事の際に村長が、今晩旅行者たちを歓迎するお祭りを湖で行う予定だと言う。その為、夕方6時には村人全員で集まり、探索者達と一緒に湖へ行く予定だという事をPLに伝える事。

 

 二日目も村人たちは相変わらず1870年8月15日を繰り返しているが、歓迎のお祭りの準備のためにエイミーは湖の方へ向かっており、村に姿はない。気にするようであれば、祭りの準備と言いつつエイミー以外の村長や他の村民らは一切そちらへは行っていない事が分かる。

 二日目の夜になれば村人総出で湖へ連れて行き、グラーキの元で入信の儀式を行うことになる。こうなると20体ほどのグラーキの従者に追われながらの逃走劇となるため、事態を収拾することは極めて厳しくなる。

 二日目にすべきことは情報を集め、最終的な対抗策を打ち出すか、あるいはこの村から逃げ出すか、方針を定めて行動に移す事である。事前に連絡手段を確立していればジェイコブはそれに従うし、そうでない場合も、探索者が何らかの行動を起こすのであればジェイコブは姿を現し、囮になるなどして探索者の行動を助ける。

 

 

 

 

 

12.最終イベント

1.時計塔に侵入する

 

 基本的には二日目の時点で探索者達が時計塔に侵入する事がシナリオで想定されるメインルートである。二日目はエイミーが村に居ない為他の村人も無関心に日常を繰り返すのみであり、探索者達が鍵を使うのであれば誰にもばれずに容易く中に入る事が出来る。力任せに壊そうとするのであれば一人でSTR22との対抗、鍵開けは-30の補正となる。時計塔へ進入する場合、侵入に成功した直後に探索者全員に【目星】を振らせる。

 

 ※強制【目星】表の南京錠と別に、入口の戸は中から鍵が掛けられる構造になっている。

 

 この内鍵を掛けておくかどうかで最終決戦時の敵の処理が変化する。難易度を下げたいのであれば、更に【アイデア】などで鍵をかける事をPLにほのめかしても良い。

 

 

◆時計塔内部

  時計塔の内部は窓もないため薄暗く、何もない空洞を螺旋階段が上へと続いている。登ってゆくと、階段の終点は内部の部屋に繋がっている。この空間は時計塔の最上部の物見台のすぐ下に位置し、此処のみ窓が存在している。

 壁面の一方向にいくつもの歯車が重なり合っており、それが巨大な時計の内部構造であるとわかる。壁には大きな時計盤が外へ向けて設置されており、規則正しく針が巡っている。その部屋の一角には更に上へ行く階段が細々と続いている。

 

◆時計塔頂上

 部屋から更に上に上ると頂上の物見台に出る。数メートル四方のスペースがあり、屋根からは巨大な鐘が釣り下がっている。

 

【目星】巨大な鐘の内側に、びっしりと魔法陣が描かれている。

    物見台の手すりの四隅には水瓶を掲げた銀色の女神像が置いてある。

 

 女神像は30cm程の大きさでどれも揃いのデザインである。覗き込むと、その水瓶の中に何かが入っている。それは水のような、泥の様な、奇妙な液体の様な、気体の様な。様々な色に輝くそれが、人形の瓶の中で渦巻いている。不思議とそれから、強い力を感じる。

 

【SANチェック】0/1

 

 水瓶を見た探索者は何か魔術の源となるようなエネルギーがそこに貯め込まれているという事を直感的に理解する。「ものに魔力を込める」についての情報を獲得している場合、PLにはこの女神像の水瓶にMPが込められている事を伝えて良い。

 女神像は長らく村の曇天を保つ為に安置され続けているものなので、50を超える膨大な量のMPが蓄積されている。ただしこれはシナリオ上でも「天候を変える」の呪文の為の使用のみを想定しているため、もしも探索者が強力な呪文を所持しており、大量のMPを使用される事でバランスブレイカーになり得る場合は、適宜KPの判断で蓄積されているMPを減らす、または「村の儀式専用に用意されたものなので指定された呪文以外には利用できない」などの処置を施して良い。

 

 また、この像を持ち帰る宣言があった場合には許可して良いが、以後のシナリオでバランスブレイカーとならない様、村を離れる過程で込められたMPが抜けてしまうなどの処理を行う事を勧める。

 

 この女神像は教会にあった物と同様のものであり、手に持つと見た目よりも軽い事が分かる。また、よく見て調べるのであれば、以下の様なヒント情報を適宜与える事。

 

【アイデア】精巧な女神の姿を象った像は手足や装飾の部分などが細く、強い衝撃を与えると壊れてしまいそうだと感じる。

 

 探索者達が時計塔の頂上に着いた頃には、エイミーがそれに気づいて止めようと塔へ向かって来る。物見台から、塔の入口へ駆け寄るエイミーと、その後ろにわらわらと他の村人も集まって来るのが見て取れる。この後、彼らとの戦闘処理となる。⇒資料:NPC情報参照

 入口に鍵が掛かっていない場合にはエイミーはすぐに塔の中に入ってくる為、何もしなければ1ラウンドの後に内部の部屋へ、更に1ラウンドの後に物見台へ到着する。内鍵を掛けていた場合は、彼女は鍵を壊すのに1ラウンドを浪費する為行動が1ラウンド遅れる。エイミーに続いて、1ラウンドごとに1人、合計20人の村人が塔へ侵攻してくる。接敵した場合戦闘となるが、時計塔の内部が狭い為、一度に物見台へ進めるのはエイミーらの内一人のみであり、部屋に探索者が一人でも居た場合は彼女達はそれを無視して上へ行く事は出来ない。

 エイミーや彼女に操られた他の村人が探索者達の行動を阻止すべく物見台に到達する前に、何らかの方法で彼らを撃退する事が生還の条件となる。

 

 

Ⅰ.像を壊す

 四隅に置かれた女神像にはMPが蓄積されており、永続的に「天候を変える」の魔術を発動させる為に設置されている。この像を破壊する事で魔術を解除して天候を本来のものに戻す事ができる。

 

 像を破壊した場合はエンディングとなる。⇒13.エンディング参照

 

Ⅱ.天候を変える呪文を唱える

 本来であれば女神像を壊すのみで自動的に雲は晴れるが、女神像に貯蔵されているMPを用いて天候を変える呪文を「晴らす」方向に掛け直す事でもエンディングとなる。この場合、「ものに魔力を込める」の呪文を獲得している探索者が、3ラウンド掛けて呪文を詠唱する必要がある。

 

 無事に詠唱が完了した場合はエンディングとなる。⇒13.エンディング参照

 

Ⅲ.天候を変えないまま鐘を鳴らさせない

 基本的に想定されていない、「天候を変える対処(=グラーキの従者の対処)」を行わずに6時まで鐘を防衛し、鐘を鳴らさせなかった場合の処理。エイミーを先頭にして従者たちは何とか鐘を鳴らそうと時計塔へと攻め入って来る。基本的には鐘を防衛しきるには彼らを一掃する必要があるだろう。6時に鐘を鳴らせなかった場合、湖に招来されていたグラーキは契約の破棄と共に元居た場所へと帰ってしまう。ただしグラーキの従者たちはただちに影響を被る事はなく、エイミーは探索者達を抹殺すべく従者たちを率いて攻撃を仕掛けてくる。合計21体のグラーキの従者たちとの戦闘になる為、天候を変える呪文を用いない限りは基本的に勝つ望は非常に薄いだろう。

 

 

 もしも全員を倒せた場合には、GOOD ENDと類似する扱いとする。⇒13.エンディング参照

 

 全員を倒せないまま村を脱出する場合には、NORMAL ENDと類似する扱いとする。⇒13.エンディング参照

 

 

2.二日目の夜になる

 

 二日目の夜になると、村人が集まり探索者達に「歓迎の祭りの用意が出来た」と言って湖へ連れて行こうとする。実際にはエイミーの主導によりグラーキに探索者を捧げる為の言動である。断ろうとしても20人以上の村人に周囲を取り囲まれ、説得は不可能であるどころか彼らは徐々に異様な雰囲気で探索者達に迫るだろう。

 逃げ出す場合は、20人を超えるグラーキの従者の群れからの逃走劇となる。彼等は探索者を捕らえようとはするが動きは鈍い為、探索者達が即座に逃げ出す選択をするのであれば振り切って村を飛び出す事が出来るだろう。状況によっては、包囲網から抜け出す為に【幸運】やDEX対抗ロールを行わせても良い。

 立ち向かう場合にはグラーキの従者20体にエイミーを加えた21体との戦闘となる。基本的には探索者達が太刀打ちできる様な相手ではない事を示し、逃亡を勧める事。どうしても戦闘を行う場合には、エイミーを倒す事が出来れば一時的にグラーキの従者の動きが止まり、村から無事に逃げ出すことが出来る。⇒13.エンディング参照

 

 村人達に従う、屈服させられるなどで湖に連行された場合は、グラーキと対面する事となる。⇒13.エンディング参照

 

 

 

 

3.村人やエイミーに対して詮索する

 

  二日目を待たずして村人やエイミーに直接村の不自然さや邪神について問い詰めた場合、彼らはすぐに正体を現して探索者達を捕縛しようとしてくる。たとえ平凡な見せかけで村人達の姿が偽装されていたとしても、到底人とは思えないぎこちない動きで彼らは探索者達を取り囲む。前項「2.二日目の夜になる」の記述を参考に、グラーキの従者達からの逃走劇を演出する事。

 

 

 

13.エンディング

 ◆GOOD END:雲を晴らす

 塔の女神像を破壊する、呪文を掛け直すなどで村の空を閉ざしている雲を晴らした場合のエンディング。

 日光が差す事でグラーキの従者である村人達は全員緑の崩壊を起こし死に至る。

 日の当たる位置に一緒に居た場合には、ジェイコブも他の村人達と同様に死を迎える事になる。

 

 目を刺す眩しさに思わず貴方達は目を細めた。見やれば、分厚い雲が途切れて、その隙間から日の光が差し込んできている。雲は見る見るうちにちぎれ、隙間を開き、そこからさんさんと明るい日光が村を照らし出す。

 するとその光を浴びた村人(魔術が解けている場合は屍)たちは、醜い悲鳴を上げてその場に崩れ落ちる。貴方達が俯瞰する村の様子はまさに地獄絵図だった。まるで悪い夢が醒めるように、呪いが解けるように、屍の頭が、腕が、足が、全身が塵の様に空中に霧散してゆく。それは、貴方達を追いかけてきたエイミーに関しても例外ではなかった。時計塔の頂上に差し込む日の光が、彼女の全身を溶かしていた。

 

「ああ、嘘、だめ、いや、いや! まだだめ、待たないと、ここで彼を待たないと!!嫌、いきたくない!」

 

 彼女は瞬く間に全身をぼろぼろと崩し、やがてすっかり跡形もなく、朝のそよ風にさらわれて飛び散ってしまう。彼女のまとっていた衣服が、元の様子が分からない程汚れたぼろ布となって地面に落ちる。そしてそれと共に、かしゃりと鈍い音を立てて地に落ちたのは、彼女の握り締めていたロケットペンダントだった。すっかり汚くさび付いたその蓋が、地面にぶつかった拍子にぱちりと開く。その中には、すっかり色あせて真っ白く風化した紙が寂しく収まっていた。

 

【SANチェック】1D3/1D10

 

 魔術から解放された村は瞬く間に本来あるべき廃村の姿を取り戻した。そこには探索者達の他に生きた者の姿はなく、合図を送る者を失ったグラーキもやがて本来あるべき住処へと戻っていくだろう。

 

●ジェイコブについて

 もしも一切直射日光に当たらない様に事前に策を講じた場合は、ジェイコブを生かしたまま連れ帰る事も不可能ではない。ただし、一度グラーキの従者と化した彼を元の人間に戻す方法はなく、戻った後も生涯日の目を避けて暮らす事となる。とはいえ、もしもその恐ろしい真実を告白したとしても、スーザン・ファレルは最愛の弟の生還を喜び、その悍ましい姿をも拒絶する事なく二人で支え合って生きてゆく事だろう。

 特別な対処を行わなかった場合、ジェイコブは村の崩壊と共に死亡する事になる。しかしその場合でも、彼は自身が既に日の下では生きられない化物となってしまった事は理解しており、その運命を受け入れる。探索者達を恨む事もなく、むしろ探しに来てくれた事を感謝するだろう。

 倉庫で彼の持ち物を見つけていれば、それを形見として姉に届けてほしいと探索者に頼むかもしれない。いずれにせよ、ジェイコブとの別れは探索者やPLにとって悪い形での後悔が残らない様演出する事。

 

 

SAN値報酬

生還した:1D6

村のアンデッドを葬った:1D6

 

 

 

 

◆NORMAL END:村から逃げ出す

 グラーキの従者達に襲われ、村から逃亡した場合のエンディング。

 村で起きた事件の真相を突き止め解決する事が出来なかった探索者は、命からがら逃げだす事になる。

 

 貴方達は恐ろしい追手を振り切って、無我夢中で村を飛び出した。幾度となく蹴躓きそうになりながら、薄暗い山道を駆け降りる。後ろを振り返る事は出来なかった。足場の悪い下り坂をどれ程の間走っただろうか。漸く、自分達の背後から何の足音も、追いすがる声もしない事を確認して、貴方達は足を止めてその場に座り込んだ。酷い倦怠感が全身を襲っていた。

 振り返ってみれば、あの村はもう見えなかった。しかし貴方達は知っている。あの木々の先に、山の奥に、今もツイスプシュートの村はある事を。人ならざる恐ろしい何かが、今はもうない筈の村で、今も何かを待って息づいている事を。

 

 探索者達は恐ろしい村からどうにか生還する事が出来るが、村の怪奇は続き、行方不明のジェイコブ・ファレルの消息がその後明らかになる事もなかった。

 

SAN値報酬

生還した:1D6

 

 

 

 

 

◆BAD END:グラーキとの遭遇

 

 探索者達が村人らに捕まり、または自らの意志で湖へ向かってしまった場合の死亡エンディング。湖に到着すると、そこに息づく恐ろしい邪神、グラーキと対面する事となる。

 

  木々に覆われた薄暗い道を抜けた先には、広々とした湖があった。陽の届かない森の奥に横たわるその水面を揺らして、巨大な塊がそこに鎮座している様子に、貴方達全員の目が奪われる。楕円形の巨体から無数の棘を生やし、3本のうねる触手の先端に突き出した黄色く濁った瞳が、獲物を捕らえてぎょろりと光った。それが湖の「女神」などではない事は明白だった。耳をつんざく様な不快な振動音を鳴らして、その怪物は全身を脈打ち震わせながら、貴方達新たな来訪者を捕らえるべく棘と触手を伸ばしてくる。

 

【SANチェック】1D3/1D20

 

 グラーキはエイミーによって捧げられた探索者達を新たな従者とすべく襲い掛かってくる。既に大勢の村人達に拿捕されて湖へと連れてこられた場合は、探索者達に逃れる術はないだろう。自ら湖へ来た場合など、まだ村人に包囲されていない状況の場合はKPの裁量で逃亡ロールを行わせても良い。その場合、逃走した先の処理は◆NORMAL ENDと共通となる。

 

 異形の怪物の震える触手が手足をしっかりと掴んで離さない。いくら暴れようと拘束は緩まないまま、貴方の体は湖の主の目の前へと差し出された。そしてその怪物は、濁った眼で品定めをする様に貴方を見つめた後、鋭い棘を伸ばし、貴方の胸へとずぶりと突き刺す。

 深々と突き刺さった棘を通って、体内に何かが流れ込んで来る。全身の血管を伝って拡がるそれが、恐ろしい異形の力である事、それが四肢の末端までもをすっかり支配してしまう事を、貴方は本能的に理解した。全身が爪の先まで全て、自分のものではなくなる感覚。事実的な死を前にして、恐怖に震える喉すらも、最早意思を持って悲鳴を上げる事は出来なかった。

 痛みもなく、苦しみもなく、ただ漠然と、自分が湖の女神の供物となった事を悟りながら、貴方の意識は闇へと沈んだ。

  

 

 探索者ロスト

 グラーキに捕まった探索者達はグラーキの従者となり、人知れずツイスプシュートの村でグラーキのしもべとして働いた後、かの神に捧げられる事になる。

 

 

 

 

 

 


あとがき

 1920年代シナリオ、しかもイギリスとかいう謎舞台設定により大変人を選ぶシナリオとなっていそうですが、果たして遊んでくださる方はいるのでしょうか…。都合さえつけられれば自由に時代場所は改変推奨です。

 「時の止まった町」をやりたくて、後から色々設定生やして背景が決まった感じです。自分はいつもそんな感じでふわっとやりたい事から始めてしまうので、シナリオ完成間近まで真相に絡む神話生物やシナリオタイトルが未定だったりします。

 余談ですが、このシナリオもテストプレイ直前までタイトルがなく、とりあえず決めた仮タイトルは「造形街」でした。バルーンさんの同名の楽曲からお借りしています。別にイメージソングという程の事でもないのですが、シナリオ完成後にふと曲名を思い出し、聴いてみると歌詞から崩壊した後の街でアルフレッドを待ち続けるエイミーの心情にも重なる所があるかなあ…なんて。

 もしよかったら、是非聴いてみてください。

 

 

 


ここまでお読みいただきありがとうございました!

実際にプレイしてくださった方は、よろしければ是非アンケートにご協力ください。

シナリオページに掲載する難易度や目安時間などの参考にさせていただきます。

 

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