覆水返すは神頼み

本作は、「 株式会社アークライト  」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『クトゥルフ神話TRPG』の二次創作物です。

 

Call of Cthulhu is copyright ©1981, 2015, 2019 by Chaosium Inc. ;all rights reserved. Arranged by Arclight Inc.

Call of Cthulhu is a registered trademark of Chaosium Inc.

PUBLISHED BY KADOKAWA CORPORATION

 

 

PL向けあらすじ

 小学校の同窓会に訪れた探索者たち。再会を懐かしむのもつかの間、掘り出されたタイムカプセルから、忘れ去られていた「呪いの印」が発見される。探索者たちはそれを知っていた。小学生の頃に流行った都市伝説。それを送り付けられた末に、忽然と姿を消したとある同級生。

 それは10年前から貴方たちに絡みついている、「トキガミサマ」の呪いだ。

 

 

 

シナリオ傾向・ハンドアウト等

舞台:現代日本 

推奨人数:2~4人

シナリオ傾向:半シティ半クローズド

想定時間:ボイスオンセで3~4時間前後

推奨技能:基本探索技能

 

HO:貴方たちは同じ小学校を卒業した同級生である。今年で卒業10周年となる。

    クラスでも浮いていたとある同級生に、貴方は手を差し伸べなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――これより下はKP向け情報となります――――――――

目次

KP向けあらすじ

シナリオの大まかな流れ

シナリオ背景

主要NPC

 

シナリオ本文

1.  導入

2.  菊池の死

3.  調査

4.  謎の占い師

5.  学校

6.  明治時代へ

7.  エンディング

 

 

 

 各種キーワード、地図などの提示資料などについては、別途「資料」としてまとめてあります。シナリオを回す際には此方もご参照ください。⇒覆水返すは神頼み:資料ページへ

 

  

KP向けあらすじ

 10年前、探索者たちが小学6年生だった年の終わり頃、「トキガミサマの呪い」という都市伝説が流行ったことがあった。それは所謂チェーンメールのようなもので、「呪いの印」を呪いたい相手に送り付け、相手が印の描かれた紙を開くと呪いが発動し、「トキガミサマ」という祟り神が相手を呪い殺すというものだが、この印はティンダロスの混血種を呼び寄せる魔術である。

 この地域では明治時代に、偉大なるイスの種族が一部の人間と交流を持ち、情報交換の対価として人間に自分達の一部の技術知識の一部を教えていた。その内の一つが、時渡りの際にティンダロスに目を付けられないための魔術であり、それをとある魔術師が悪用して生み出した呪術が、形を変えて現代に渡り前述の「トキガミサマの呪い」となったのである。

 小学生時代の菊池が冗談のつもりで同級生の伊武に「呪いの印」を送り付けた結果、伊武はティンダロスの混血種に襲われてしまう。しかし彼はかつてイスの種族、「時神様」を祀っていた喜多神社の末裔であったため、化け物から逃れるため、神社の跡地で偶然手にした結界術の魔術を内容も分からないまま唱える。その結果、伊武自身が楔となり、10年にわたりティンダロスの混血種を結界に閉じ込めることとなった。

 10年の歳月が流れ、結界が劣化してきたことで、ティンダロスの混血種は断続的ながら外界へ出ることが可能になる。同時期、同窓会の場にて不運にも目にした「呪いの印」によって、菊池や探索者たちはティンダロスの混血種に狙われることとなってしまった。

 現代ではイスの種族は既に人間との直接的な交流を絶っていたものの、ティンダロスが解放されることによる混乱を危惧していた。そんな最中、標的となった探索者たちに気付き、彼らを利用して問題解決を図る。

 

 イスの種族の力を借り、結界へと渡りティンダロスの混血種を打倒することが、本シナリオの目的である。

 

 

 

シナリオの大まかな流れ

大まかな目的:「時神の呪い」の正体を突き止め、阻止する。

  

●導入      菊池悠斗が死亡し、呪いの調査を始める。

 

●過去へ     謎の占い師と接触し、過去へ渡る

 

●学校      ティンダロスの猟犬を避けつつ情報を集める

 

●焼却炉     結界を破壊する(通常ルート)

●喜多神社    「時神様」に願い事をする(真ルート)

 

 

 

 

シナリオ背景

 探索者たちの住む都市には明治時代から、人と精神交換を行い人間社会で共存関係を築いたイスの偉大なる種族の個体が存在していた。彼らは情報収集への協力の対価として人間たちに自分達の技術の一端を教え、時空を超えるそれらの力から当時の人々に「時神様」という神として崇められていた。

 そうしたイスの技術の一つに、時間旅行の際にティンダロスの猟犬に目を付けられないよう、猟犬の気を引くデコイを生み出す魔術があった。当時のとある魔術師の男がこれを悪用し、デコイを対象に送りつけることでティンダロスの猟犬に襲わせる呪術を編み出してしまう。男はこれにより憎い相手を呪う術を人々に流布させ、これに失望したイスは余計な混乱を避けるため、以後人間との交流を絶ってしまう。これにより徐々に人々の間では、人を呪い殺す術を持つその男の存在が知れ渡り、時代の経過と共にその噂は変容し、人を呪い殺す祟り神「トキガミサマ」として語られることとなった。

 

 シナリオ時点から10年前、ふとしたきっかけからこの呪術に使われていたティンダロスを呼び寄せる「呪いの印」が探索者たちの住む都市に出回り、いわゆる「不幸の手紙」のような都市伝説として話題になる。そして不運にも実際にその「呪いの印」を入手してしまった者の一人が、当時小学生だった菊池である。菊池は軽い冗談のつもりで、当時クラス内でもつまはじきにされていた伊武のランドセルにこれを忍ばせた。結果、印の紙を開いてしまった伊武はティンダロスに目を着けられてしまう。

 しかし伊武の家系はかつて「時神様」を祀っていた喜多神社の血筋であったため、伊武自身そういった言い伝えに強い興味を持っていた。化け物に襲われた幼い伊武は必死に逃げる中、かつて喜多神社に伝えられていた「結界魔術」の行い方が書かれていた書物を見つけ、校舎裏の神社跡地でそれを実行する。しかしそれはただ身を守る術ではなく、術者自身が結界の礎となり魔術的存在を封じ込める魔術だった。伊武はそうと知らぬまま自らの存在を礎とし、ティンダロスを封じ込める結界を生み出してそこにもろとも閉じ込められてしまう。

 「呪いの印」によって呼び出されていたのはある固有の「ティンダロスの混血種」であり、これを伊武が結界に封じ込めたことで10年前の連続行方不明事件は収束を迎える。

 

 しかし10年の時が経ち、結界が風化したことでティンダロスの混血種が再び人間の生きる次元に解き放たれてしまう危険性が出てきてしまった。これを知ったイスは憂慮していたものの、自ら人間の問題に介入する気はなく、現状を傍観していた。そんな折に偶然にも、タイムカプセルからかつての「呪いの印」を見つけた菊池と探索者たちはティンダロスの呪いを活性化させてしまい、結界から断続的に外へ出ることが可能になっていたティンダロスの混血種によって菊池が殺されてしまう。

 これに目を付けたイスは、探索者たちに問題を解決させるため接触を図る。

 

 

 

主要NPC

菊池 悠人(きくち ゆうと) 軽率な同級生

性別:男 年齢:22

 

 探索者たちの小学校時代の同級生。快活な性格で当時からクラスの中心的人物だった。積極的で明るい青年だが、やや軽率な言動をとるところがあり、小学生時代には無邪気な悪ふざけからクラスメイトをからかうようなこともあった。小学生時代、当時流行った「トキガミサマの呪い」を伊武に送り付けたが、これも悪意や悪気があったわけではなく軽い冗談のつもりだった。

 10年の時を経て、同窓会の場で「呪いの印」を開いてしまった為にティンダロスの混血種に狙われてしまい、シナリオ開始序盤に死亡する。

 

 

伊武 和己(いぶ かずみ) 孤独なクラスメイト

性別:男 年齢:12

 

 探索者たちの小学校時代の同級生。口数が少なく、実家の血筋である神社の伝承に入れ込んだりとオカルト染みた話を好んでいたために、クラスでは浮いており孤立していた。友人という友人もなく、探索者たちもうっすらと存在を思い出す程度にしか記憶に残っていない。

 菊池がランドセルへ忍ばせた「呪いの印」によってティンダロスの混血種に狙われ、必死に逃げる中で詳しくも知らない結界魔術を身を守る術と信じて使った結果、自分の存在ごと結界の内部にティンダロスの混血種を封じることとなり、10年前に行方不明扱いとなっている。

 

 

 占い師 謎の女性

性別:女 年齢:?

 

 路地裏に佇む怪しげな占い師。探索者たちに一方的に声を掛けてきて、「過去への渡航」を提案する。

 その正体は人間社会の片隅でひっそりと人間を観察している偉大なるイスの種族である。かつては人間と相互の交流を行っており、その時空間旅行の技術や知識から「時神様」として崇められていたが、与えた知識を人間の魔術師に悪用されたことから、現在では直接的な交流や人間に技術を貸し与えることはやめてしまっている。それ故積極的に人間の問題に介入するつもりはないが、ティンダロスの混血種が世に放たれて騒ぎになることは懸念している。

 

 

 

◆敵性NPC

 

ティンダロスの混血種 異次元のより来たる怪物 マレモンP.78

 

 

 ティンダロスの猟犬が残した青い膿汁を摂取した人間が変化した姿。本シナリオでは、ティンダロスの猟犬を用いた呪術を流布した魔術師の男自身がティンダロスの餌食となった成れの果ての姿である。キュービズム絵画のような角ばった鋭い形で、絶えず変化し続けるその輪郭は朧げながらに犬のような四足歩行の化け物の形状をしている。猟犬同様、出現時には青い煙と共に鋭角から現れる。

 

 

 

シナリオ本文


シナリオ本文の読み方

 

 

・地の文…KP向けの状況説明および処理に関する記述など、シナリオ本文のメイン部分です。適宜目を通しながら進行してください。

この背景色で括られている箇所はPLには非公開のKP向け補足説明です。
KPが状況を把握する為の情報なので、基本的にPL及び探索者には公開しません。

 

・読み上げ文…情景描写の文章、もしくは文章媒体での情報の内容です。この文章はそのままPLへ向けて読み上げ・提示を行って構いません。

 

 

・ダイスロール文…SANチェック及び各技能などの処理です。技能のダイスロールについては、”※強制”の記述がない場合振れる技能の提案の有無などはKPにお任せします。


1.導入

 3月の某日。探索者達は小学校の同窓会に参加することになる。同窓会にて母校を訪れ、当時の同級生、菊池と会話する。

 

 桜の花びらが散る中、懐かしい校舎の様子を眺め、当時の同級生の面々と話をする。貴方たちは10年ぶりの再会を思い思いに噛み締めていることだろう。

 そんな中、貴方達と談笑していた同級生の一人、菊池悠斗が声を上げた。

「そうだ、卒業の時に埋めたタイムカプセル、開けてみようぜ」

 菊池は当時から行動的な男子生徒で、クラス内での発言力も強い中心的人物だった。そんな彼に引っ張られて、貴方たちは校庭の片隅へと向かう。

 

 タイムカプセルは卒業の際、それぞれが思い入れの深い品を入れて校庭へと埋めたものだ。探索者達もそれぞれに何かを埋めたことだろう。そう深い場所に埋めたものでもなく、菊池と雑談でもしている間にタイムカプセルはすぐに掘り出すことができる。中身はPLの自由に決めさせて構わない。

 暫くすると菊池も自分のタイムカプセルを見つけ、蓋を開ける。中身を地面に広げながら、菊池は「懐かしいな!」と大げさに声を上げる。中身は落書きだらけのノートや当時流行っていた玩具などだ。

 

 菊池がタイムカプセルの中身を地面に並べていると、不意に風が吹き抜け、小さな紙切れの束が宙を舞った。あっと声を上げる菊池。貴方たちは風に攫われそうになった友人の思い出の品へ、咄嗟に手を伸ばしそれぞれ掴む。

「わり、サンキュ……」

 菊池は自身でキャッチした紙切れを片手に、貴方たちの方へ手を伸ばしかけて固まった。全員の手の中に一枚ずつ収まったほんの小さな、古びた紙切れ。そこには奇妙な印が描かれていた。菊池はそれに気づくと、手の中のそれをまじまじと見つめて口ごもった。楽し気に当時の事を語っていた彼の表情が不意に曇る。

 

 

「これは……」

 

 言いかけて再度口をつぐむ菊池の横顔を見ながら、貴方たちも思い出した。そう、それは小学校の卒業間際、ある一時期、ほんの少しだけ流行った噂だ。『呪いの印』などという、ありふれた都市伝説。当時学校中で流行った噂。そして菊池は、この印をあるクラスメイトに送ったのだ。

 そのクラスメイトは翌日、行方不明になった。

 

 10年も前のことだ。それ以上のことは靄が掛かったようにはっきりしない。

 ただ、少なくとも―――、

 自分は彼に、手を差し伸べはしなかったのだ。

 

 

 

 一瞬不穏な空気が流れるものの、その後すぐに同窓会の会食が始まり、タイムカプセルのことはうやむやになってしまう。菊池も何か引っかかりは感じているものの、紙切れについて訊ねても「よく覚えていない」と誤魔化される。同窓会は何事もなく終わり、探索者たちはそれぞれ帰路につくこととなる。

 

 その日の夜、いつも通り眠りに就く貴方の耳元で。

 

「トキガミサマ、トキガミサマ」

 

 

 囁く様な、少年の声が聞こえた気がした。

 

 

 

2.菊池の死

 その日の夜、探索者たちに菊池からSNSのグループメッセージが送られてくる。

 

『助けて』

『へんなのに追われてる』

『たのむたすけて』

 

 このとき、菊池は「印」が有効化したことによって時神の怪物、「ティンダロスの猟犬」に追われている。必死の思いで走って逃げながら、スマホのグループメッセージで探索者達に助けを求めている。
 探索者が望むのであれば電話で連絡を取ることもできるが、彼は一時的狂気に陥っており、「追われている」「助けて」「死にたくない」「トキガミサマがくる」という言葉を繰り返すのみだ。
 菊池は最終的に自宅付近の人通りの少ない路地にて、猟犬に捕まり殺されてしまう。

 

 暫くの間、助けを求める菊池のメッセージが続くが、10分ほどで応答がなくなる。通話を繋いでいた場合、獣のような奇妙な唸り声と菊池の断末魔が聞こえてくる。

 探索者が菊池の元へ駆けつけようとした場合、菊池の自宅周辺の捜索をするという宣言があれば、現場を発見できても良い。また、警察に通報した場合も夜間の間に菊池の死体が発見される。それ以外の場合、探索者は翌朝になってから菊池の身に起きた顛末を知るだろう。

 

 

 

◆菊池の死亡現場

 人通りのない深夜の路地に、菊池が倒れている。その体はずたずたに引き裂かれ、コンクリートの地面が真っ赤に染まっている。もしも探索者が夜間の内に菊池の死体を発見し、警察などが到着する前に現場を調べるのであれば、以下の情報が分かる。

【SANチェック】1/1D4

【目星】『呪いの印』の紙が遺体の付近に落ちている

【医学】全身にいびつで深い切り傷があり、人の力でつけた傷とは思えない

 

 それ以上の情報はなく、警察が到着すれば探索者たちが現場を勝手に調べることもできないだろう。

 

 

 

◆翌朝

 直接菊池の死体を発見しなかった場合、翌朝になってニュースの報道により、菊池の死を知ることとなる。情報は以下の通り。

 

・昨晩、菊池悠斗(22)が路上で死亡しているのが発見された

・帰宅ルートの途中の路地で大量に出血しており他殺の方面で操作

・凶器は見当たらない

・傍らには謎のマークが描かれた紙が落ちており、事件との関係を捜査中

 

 昨日楽しいひと時を過ごした友人の突然の訃報に動揺する貴方の視界の端に、ふと、覚えのないものが映る。奇妙な印の描かれた紙切れが一枚、床に落ちていた。

 

【SANチェック】0/1D3

 

 あまりにも急な友人の死と、『呪いの印』。昨日菊池に返したはずの紙切れはそれぞれ一枚ずつ、探索者の元にある。異常事態に巻き込まれたことを演出し、探索者同士で連絡を取るように促すこと。

 

 

 

3.調査

 自由探索が開始したら、PLには思い思いの方法で調査を進めてもらい、「トキガミサマ」に関する情報をある程度掴むことが次の進行条件となる。もしも調査方法に悩むようであれば、以下の項目を候補として提示すること。勿論他の方法でも、妥当であるとKPが判断すれば情報を与えて良い。

 また、小学校時代の行方不明についても調べる事が可能だ。思い出そうとしても子供だったためか記憶がおぼろげで、詳細を思い出すことができない。ただし、試みるのであれば行方不明になった同級生の名前を思い出すことができる。

 

【アイデア】卒業の直前、行方不明になった同級生の名前は「伊武 和己(いぶ かずみ)」だ。

 

◆伊武 和己について

 当時の同級生で、卒業の直前に行方不明になってしまった。妖怪や幽霊などの話をすることが多く、クラスでも浮いていた。菊池は伊武のオカルト趣味を面白がって、当時流行っていた『呪いの印』を冗談半分で伊武のランドセルに仕込んだ。口数が少なく一人でいる事が多い生徒だったため、探索者たちは彼のことを印象レベルでしか覚えていない。

 

 

◆PC/スマートフォンで検索

・時神様について調べる

 「トキガミサマ」などのキーワードで検索を行った場合、【図書館】技能に成功すると以下の情報を得ることができる。

 

都市伝説スレ:「時神様の呪い」

「時神様」は時間を司る悪霊の一種らしい。神とついてはいるけど妖怪とか祟りに近くて、過去と現在を自由に飛び回って、獲物としたものに印をつけて決して逃さず祟り殺すらしい。

印の描かれた紙を呪いたい対象に送り付けて、対象が紙にを開いて印を目にすれば呪いが成立する。一度呪われたら最後、時神様は決して獲物を逃がさない。

 

 

・伊武 和己について調べる

 「伊武 和己」の名前で検索を行った場合、【図書館】技能に成功すると以下の情報を得ることができる。

 

・今から10年前、市内で行方不明になった男子小学生

・当時、小学生を中心に連続殺人が発生しており、その最後の被害者と思われた

・しかし結局、死体は見つからないまま事件は迷宮入りしている

 

 

◆図書館で調べる

・時神様について調べる

 【図書館】技能に成功すると以下の情報を得ることができる。

 

<技能成功>

・今から10年ほど前の連続殺人事件の新聞記事が見つかる

・当時被害者が続出した小学校では「時神様の呪い」だという噂が爆発的に流行

・集団ヒステリーの様な事象も見られた

 

<技能クリティカル>

・成功時情報に加えて以下の情報を入手

・江戸時代からこの地域には「時神伝承」と呼ばれるものがあった

・明治時代には風化して廃れてしまったが、時神をまつる神社もあった

 

 

 

4.謎の占い師

 ある程度情報を集めると、街を歩く探索者たちに声を掛ける者が居る。

※探索者が全く外に出ない場合、ティンダロスの猟犬を出現させ、適切な屋外へ誘導すること。この時点で探索者に対しても呪いが有効化しているため、いずれにせよ時間経過でティンダロスの猟犬がやってくる。危機感を煽るためにこの襲撃イベントを利用しても良い。

 

「そこのお兄さん方」

声の方へと顔を向けると、狭いビルとビルの間、薄暗い路地からこちらに手招きする女性の姿があった。紫色のローブを身に纏い、表情は日陰の闇と目深に被ったフードに隠れて分からない。彼女は抑揚のない淡々とした声で貴方たちに呼びかけてくる。いかにも怪しげなその女性は折り畳み式の椅子に腰かけており、傍らにはマジックで書きなぐられた立て看板があった。

 

『超絶当たる占い師! 路地裏の女神!』

 

 探索者たちが無視して立ち去ろうとした場合でも、彼女はしつこく声を掛け続ける。その場を離れた場合、また別の路地で声を掛けて来る。探索者が占い師に応答するまでこのイベントは続く。

 話を聞くと、占い師は探索者たちを占うと言い、応答に関わらず以下の様に告げる。

 

「……さては貴方たち、大変な危機に陥っていますね。それは過去のしがらみ。そのしがらみを断ち切らねば、貴方たちは命を落とすでしょう」

 

 この女性の正体は「イスの偉大なる種族」である。伊武によって10年前に作られた結界が壊れかけ、ティンダロスの猟犬が再び町に現れ始めている状況を把握はしており、自身が知的探求のために身を置く人間社会に混乱が生じるであろうことを憂いてはいるが、自らが積極的に厄介ごとに介入するつもりはない。そんな中でティンダロスの猟犬に目を着けられた探索者たちを発見し、都合が良いとばかりに、探索者たちにこの問題を解決させようと接触してくる。

 

 KPは彼女のロールプレイをする上で、「いやに感情の起伏のない淡々とした様子であること」「知る筈のない探索者たちに関する情報をぴたりと言い当てて来ること」を強調し、彼女がただものではない(また振る舞いとしても上記を逸している)ことを印象づけること。

 彼女はあくまで自分はただの占い師であると告げた上で、探索者たちに以下の様な話をする。

 

・貴方たちは過去、小学生の頃にある過ちを抱えている

・過去に囚われた悪霊が、貴方たちに悪い運命をもたらそうとしている

・過去へ赴きしがらみを断ち切る必要があり、自分はその手助けをできる

・「禍根は元から断つ必要がある」

 

 「禍根は元から断つ」という言葉は、探索者達にとっては「10年前の問題を過去に行って解決する」という意味にとられるだろうが、実際には「全てを円満に解決するには、更に過去にさかのぼり、人間が時神の力を悪用した事件を解決しなければならない」という意味合いを含んでいる。ベストエンドに繋がる重要な情報となるため、KPは適宜ロールプレイの中でこのセリフを繰り返し、印象づけると良い。

 

 彼女は探索者たちに手のひらに握り込めるほどの小さな石を差し出す。琥珀色に輝いており、どんな宝石にも合致しない見た目をしているそれを「時渡りの石」だと告げ、以下の様に説明する。

 

・時渡りの石

 ・これを用いて自分は貴方たちの魂を過去へと飛ばすことができる

 ・自由に過去に飛べるわけではなく、妥当な目的がある妥当な場所へしか飛ばすことはできない。「貴方たちの過去のしがらみを断ち切る」ための「妥当な場所」へ自分が飛ばしてやる

 ・飛ばすのはあくまで魂だけで、飛んだ先の世界がたとえ崩壊しても、魂が無事なら無事に戻ってこられる

 ・ただし魂自体が傷つけばそれはそのまま現実の肉体にも返ってくる

 ・戻りたいときはこの石を握り締めて強く願えば現実へ戻せるが、石による移動は3往復までしかできない

 

 石による時間旅行は3往復まで行うことができる。これはティンダロスの混血種に襲われて窮地に陥った際の救済措置であり、同時にベストエンドに到達するには最低2回の時間旅行を経て明治時代に渡る必要があるためである。

 

  過去への渡航は基本的に行き先を選ぶことはできない。探索者が特定の過去に飛びたい(伊武に呪いの印が渡される前日に行きたい)などと言っても、「その過去に飛ぶのは相応しくない」「過去への改変が現実に影響を与えるリスクがある」などと取り合ってくれない。ただし、「明治時代に戻りたい」「喜多神社があった頃に行きたい」と宣言した場合のみ、占い師はそれを聞き入れ、探索者たちを明治時代へと飛ばしてくれる。⇒6.明治時代へ 参照

 

 探索者達が同意すれば、占い師はすぐにでも石による時間渡航を実行する。

 

 占い師の女性は貴方たち全員に、石の上へ手のひらを重ねるようにと告げる。

 全員が手を重ねると、彼女はその上に自分の手のひらをかざして何事か呪文を唱えた。

「それでは、幸運を」

 その声を聞くと同時に、貴方たちの意識は途切れた。

 

 

 ◆石を使って過去から戻ってきた場合

 石に念じて現代に戻ってきた場合、探索者たちは気が付くとこの路地裏に戻ってきている。占い師は相変わらず感情の読めない表情でその場に立っており、貴方たちを見ると「おかえりなさい」と声を掛ける。何かやり取りがしたければしても良いし、用意ができれば彼女はいつでも探索者たちを再び過去へと飛ばす。

 

 

 

 

5.学校

 時渡りの石によって飛ばされるこの「小学校」がメイン探索の舞台となる。これは10年前の小学校を模してはいるが、厳密にはただの過去ではなく、伊武が魔術によって作り出してしまった、「10年前の記憶を元に再現された結界」である。そのため、小学校の敷地から外へ出る事はできない。また、術者である伊武の記憶・感情を元に構築されているため、部分的に伊武の心象が反映されて実際の学校の様子とは乖離してしまっている。
<時渡りの先について>
 占い師は「過去へと魂を飛ばす」と言うが、実際に渡る先は「10年前の過去」ではなく、「10年前に正しい時間軸から切り離された結界魔術の内部」の世界である。そのため正確には「過去に飛んでいる」わけではないが、異なる時間軸の世界に飛んでいるという意味では「時渡り」をしていると言える。
 遡行先が実際の10年前ではなく結界内である理由は二つある。一つは実際に過去で起きた出来事に当事者である探索者が直接干渉して根本を変えるのは未来に影響を与えるリスクが大きすぎることだ。もう一つは、既に結界魔術により過去から未来の時の流れから切り離された時空間が独立してしまっており、ティンダロスの混血種に対処するためにはその時空間自体をどうにかする必要があるためだ。
 占い師(イスの偉大なる種族)は、「過去に飛ぶ」という分かりやすく大雑把な言葉で探索者を納得させつつ、「妥当な場所」へと時を渡らせている。

 

 

【6-2教室】

 

 気が付くとそれまでにいた路地とは全く違う場所に居た。整然と並ぶ机と椅子、部屋の正面の壁一面の黒板には、書いてあった文字を雑に消したのであろう白い粉の痕が残っている。貴方たちはそれが自分たちの良く知る母校の教室であるとすぐに気付く。また、周囲を見回していると違和感に気付く。子供の頃に通った小学校の風景が、やけに馴染む。視点の低さから、探索者たちは自分たちが小学生の頃の姿になっていることに気付く。

 【SANチェック】0/1

 

 以降、この姿の間はSIZ・STR・CON・DEXの数値を-3する。ただし最低値は下回らない。また、身体能力を用いる技能は全て技能値が-20される。ただし初期値は下回らない。

 

 教室内の探索について、具体的に場所を指定して調べる場合には場所に応じて以下の情報を提示する。また、特に指定がなく【目星】などを行う場合は、適宜いずれかの場所の基本情報を提示する。

 

◆黒板

 授業の板書が消された痕が残っている。

【目星】右下には「3/10(水) 日直:伊武くん」と書いてある

 

◆時計

 アナログの壁掛け時計は「7:42」を指している。

【目星orアイデア】時計の秒針は止まっており、時刻は動かない

 

◆教卓

 日直日誌が置かれている。1ページ目には以下の様に書かれている。

『日直の人は放課後におそうじ当番をすること。 6-2:家庭科室』

 

◆窓の外

 夕暮れの様子が見える。ここは上の階のようで校庭が見下ろせるが、人の姿はない。

 【目星】校門の先が暗くぼやけており、その先の様子が見えない。

 

◆机

 【アイデア】に成功すれば、自分が当時使っていた席を思い出せる。望むのであれば、当時の自分の持ち物が置いてあっても良い。

 【目星】一つだけ机の上にノートが開かれている席が目に留まる。

 

・伊武の席

 机の上に開かれたノートには「伊武 和己」と記名されている。開いたページには罫線を無視した落書きの様な文字が躍っている。

 

『神様なんているわけない お前の家がいうでたらめだ! 嘘つき』

 

 【目星】ノートの間に一枚の紙が挟まっているのに気づく

 

・古い文章の切れ端

 明らかにノートの紙とは異なる紙に、細いペンで文字がつづられている。

 

『檻は楔を軸とし、過去のひとつの時間を切り離し繋ぎ止めることで作り出す仮初めの時空となる。それは過去の現実であった時間軸と、楔に交わる記憶、心象、精神を映し出す。よって過去をそのままに映した姿とは、時に様変わりした様相とも成り得る。』

 

 以上の情報を見た時点で、探索者は朧げにクラスメイトの伊武について思い出すことができる。

【アイデア】に成功した探索者に以下の情報を開示する。

 

・伊武は口数が少なく、いつも図書室で本を読んでいた

・神や幽霊といったオカルトじみた話をよくしており、気味悪がる生徒も多かった

 

 

 


【6年教室前廊下】

 

 教室から出た瞬間、廊下の左の方から足音が聞こえる。

 

 【目星】黒いセーターを着た少年が下り階段の方へ駆けてゆく姿が見える

  ⇒【アイデア】それが「伊武 和己」だと分かる

 

 追いかける暇もなく、足音の主は階段の先へと消えてしまう。また、自分達が出てきた教室を振り返れば、「6-2」と札が出ているのが分かる。

 廊下の様子はごく普通の小学校のそれで、探索者たちにとって懐かしい光景でもあるが、よく見ると違和感のあるものが目に留まる。

★見取り図出しとく

 

 【目星】壁に張り出されたお知らせのプリントに紛れて、やけに古びた張り紙がある

 

・古びた張り紙

 張り紙は明らかに傷んで黄ばんでおり、印刷物ではない筆の線で、不気味な絵が描かれている。それは四つん這いの生き物の様に見え、傍らには文章が添えられている。

 

『狭間より現れ獲物を喰らう異形』

 

 以上を調べ終えた所でイベントが発生する。

 

 【聞き耳】どこからか、しゅうしゅうという小さな音が聞こえてくる

 

 音に気付いた場合、音の方向にいち早く気付くことができる。それは向かって右手、廊下の角から生じており、青黒い靄の様なものが見える。

 

音が一際大きくなり、廊下の角を覆うように青黒い靄が噴き出す。みるみる内にそれは濃くなり、やがてその奥から、ひたり、ひたり、という音が聞こえてくる。

 青い汁を滴らせながら、腐肉の塊のような、脈動する肉塊のようなものが、まるで這いずるかのように貴方たちの方へとにじり寄って来る。

 

ティンダロスの混血種を目撃【SANチェック】1D2/1D12

 

 ティンダロスはすぐに探索者たちを標的と捉え、襲い掛かろうとする。反対方向である廊下向かって左へと逃げるように誘導すること。また、探索者が逃亡宣言をしたところで続けて以下のイベントを発生させる。

 

 背後で化け物の呻き声と同時に、びたんという大きな音がする。

 振り返ってみると、直前まで貴方たちを追いかけようとしていた化け物が廊下の壁に張り付き、鋭いかぎ爪のついた両腕で廊下の壁を抉らんばかりに殴りつけていた。化け物の意識はそちらにそれているようだ。逃げるなら今しかないだろう。

 

【目星】化け物がしがみつく壁に、『呪いの印』が描かれている

 

 探索者たちがその場を離れれば、化け物は壁を破壊した後に標的を見失い姿を消す。壁の印に関してはその後に再度廊下へ戻るのであれば、発見することができる。

 この『呪いの印』は各階の壁に1つずつ存在している。探索者たちが印の前を通った場合、技能なしで壁に印があることを描写すること。これの前を通過することで、追いかけて来るティンダロスをそちらへ誘導し、逃げることができる。

 

 

 


【2階廊下】

 

 化け物から逃げて探索者が2階に降りたら、すぐに以下のイベントを発生させる。

 

 びたん!という大きな音がすぐ真横で鳴り響く。

 驚いてそちらを見ると、廊下の窓に白い文字が浮き上がり、目の前で文章を記してゆく。

 

「化け物だ! きっと呪いの悪霊だ 逃げないと」

 

 突如出現した文字に【SANチェック】0/1

 

  この時点で既に化け物が追って来る気配はないことが分かる。

 

 以降、道中で度々出現する壁の文字は、この結界の中心となっている伊武の心境を反映したものである。文字には白いものと赤いものがあるが、白い文字は10年前、結界に閉じ込められる前の伊武がティンダロスの混血種に追われていた際のものであり、赤い文字はその後、結界に閉じ込められて今に至るまでの伊武の心内である。

 

 

★ティンダロスの混血種の追跡について

 今後、1部屋探索を終えるごとに【目標値60】でティンダロスが探索者たちを捜索し、成功した場合はただちに付近の「角」から出現する。

 

 ティンダロスが出現する場合、探索者全員に【聞き耳】を振らせ、成功者は近くからしゅうしゅうという音がすることに気付き、そこから青黒い煙と共に化け物が現れようとしていることを察知できる。ティンダロスが現れた場合、KPはどう対処するかPLに確認すること。基本的にはとにかくすぐにその場を離れ、走って逃げることが正解となる。もしも無謀にも幼い体で立ち向かおうとするようであれば、一見してとても敵う相手ではないことを示すと良い。以下は行動指針に対する処理の概要である。

 

・逃走する場合

ティンダロスから逃げて校内を移動するにはDEX12との対抗が必要になり、探索者の内一人でも事前に察知できた場合は1回、誰も察知出来なかった場合は2回の判定が発生する。回数分の判定を終えたところでティンダロスを振り切れたことになる。この移動により、1フロア分か、同一フロア内であれば大体端から端まで移動することになる。失敗した者がいる場合は最も高い出目で失敗した探索者に攻撃判定が行われた上で、引き続き次の逃走判定を続ける。

 

・隠れる場合

近くの教室などに隠れる場合、【隠れる】または【幸運-30】で判定する。成功すればそのままやり過ごすことができるが、失敗した者がいる場合は最も高い出目で失敗した探索者に攻撃判定が行われた上で、引き続き逃走または隠れるなどの対処が必要となる。

 

・『呪いの印』の前を通った場合

ティンダロスはすぐさま壁の印に向けて攻撃を始める。この間に距離を離す宣言をすれば、無条件で逃走に成功できる。一度効果を発揮すると印はずたずたに引き裂かれてしまい、以降は機能しない。

 

・攻撃判定

逃走や回避に失敗した場合、ティンダロスからの攻撃を受けてしまう。これは致命的なダメージになり得るため、攻撃が当たる直前にどうするかPLに改めて確認し、時渡りの石を使って現実へ帰還できることをヒントとして教えても良い。

 ティンダロスの攻撃⇒かぎ爪:1D3+1D6

 

 

 


 【家庭科室】

 家庭科の実習などを行う教室。調理台や食器のしまわれている棚があり、清潔感のある空間だ。一見する限りは特に変わった様子はない。

 

 【目星】机の間に一枚の紙が落ちているのに気づく

 

・古い文章の切れ端

 古びた紙に、細いペンで文字がつづられている。

 

これは強力な結界術であり、悪霊を封じるための秘術である。術者の魂を楔とし、過去を切り離し、現実から隔離した時の牢獄を組み上げる。ここに縛り付けられた存在は、楔が古びて檻が崩れるまで、決して現実へと戻ることはできない。

 

 

 情報収集を終えて部屋から出ようとしたところで、以下のイベントを発生させる。

 

 びたん!という大きな音がすぐ真横で鳴り響く。

 驚いてそちらを見ると、家庭科室の扉の傍らの壁に赤い文字が浮き上がり、目の前で文章を記してゆく。

 

「どうして? 助かったはずなのに どうしてまだ僕はここにいるの」

 

 突如出現した文字に【SANチェック】0/1

 

 

 


【図書室】

 多くの本が収められた広い部屋。貸出のカウンターには誰もおらず、広々とした室内は静まり返っている。

 

【図書館】歴史に関する本のコーナーの机に、一冊の本が置かれている

 

・明治時代の伝承に関する本

 明治時代の様々なオカルト的な伝承について載っている本。あるページが目に留まる。

 

 「時神伝承」

『時空を操る時神は古くより人々に叡智を与えてきた。人々が困ったときには手を差し伸べ、悩みを告げられれば力を貸す心優しい神であった。ときには、どうしようもない人々の苦難を除くため、自身の時空を操る力を用いることもあった。人々が祈りを捧げ頼めば、時神は必ずその願いに耳を傾けた。

 しかしある時、その力を悪用する者が現れた。その者は時神が扱った、時空の悪霊から身を守る為の囮の術を悪用し、悪霊に標的を襲わせる呪いの術を生み出した。この力で自分に害を成す者を次々に呪い殺した男を人々は恐れ、いつしか「時神様」と呼ぶようになった。失望した時神は人の世を離れてしまい、人間に力を貸すことはなくなった。』

 

 

 情報収集を終えて部屋から出ようとしたところで、以下のイベントを発生させる。

 

 びたん!という大きな音がすぐ真横で鳴り響く。

 驚いてそちらを見ると、図書室の扉の傍らの壁に白い文字が浮き上がり、目の前で文章を記してゆく。

 

 「神さまはきっと助けてくれる 諦めなければ」

 

 突如出現した文字に【SANチェック】0/1

 

 

 


【少年の目撃】

 

 家庭科室、図書室の双方で情報を入手した後、部屋から出ると発生する。

 

【目星】黒いセーターを着た少年が下り階段の方へ駆けてゆく姿が見える

 

 追いかける暇もなく、足音の主は階段の先へと消えてしまう。1階へ降りて行ったことが分かるが、後を追っても既に少年の姿は見えなくなっている。

 

 

 


【昇降口前】

 

 1階昇降口付近に差し掛かると、壁一面に紙が張り出されているのが目に留まる。6年生の社会科研究の成果であり、探索者たちも卒業間際にその課題を行ったことを思い出す。

 

【目星】伊武の社会科研究が目に留まる

 

・伊武の社会科研究

「喜多神社について」という表題で以下の内容が書かれている。

・明治時代までこの土地にあった神社で、実際に記録が残っている

・丁度小学校のある場所と重なっており、校舎の裏手に位置する場所が跡地

・自分の家系は先祖が喜多神社の宮司だった

 

 【アイデア】小学生の頃、後者の裏手には焼却炉があったことを思い出す

 

 探索者たちが小学生だった頃には既に、焼却炉は使用されていなかったことが分かる。しかし近くにゴミ捨て場があり、掃除当番の際などには生徒が近くを訪れるため探索者たちもそれに覚えがある。

 以上の情報を得たところで、以下のイベントを発生させる。

 

 びたん!という大きな音がすぐ真横で鳴り響く。

 驚いてそちらを見ると、社会科研究の発表用紙を塗りつぶすように壁一面に赤い文字が浮き上がり、目の前で文章を記してゆく。

 

「帰りたい 外へ 家へ帰りたい」

 

「あいつはきっともうすぐ もうすぐ出ていってしまう」

 

「寂しい 苦しい どうしてこんな風に」

 

 次々に壁に書きなぐられるそれらからは、滲むような苦しみ、恐怖、絶望が感じとれる。

 

 

 突如出現した文字に【SANチェック】0/1

 

 また、続けて以下の描写を行う。

 

  【目星】下駄箱の隙間を縫って、黒いセーターを着た少年が校庭へ出てゆく姿が見える

 

  少年の姿を目撃したかどうかに関わらず、昇降口へ踏み込む宣言があった場合、一枚の紙が落ちていることに気付く。

 

・古い文章の切れ端

 古びた紙に、細いペンで文字がつづられている。

 

 

『楔はやがて古び、檻は崩れる。この術はひと時の封でしかあり得ない。

悪しきものを完全に滅するには、檻ごと粉砕し存在を現実から滅却するよりほかない。檻を破壊するには、檻の中心にある楔を破壊すれば良い。檻は初めに繋ぎ止めた楔と封の対象のみを道連れに崩壊する。』

 

 

 


【校庭】

 

 昇降口から外に出ると、校舎内の窓から校庭を見下ろした際にはなかったはずの光景が広がっている。

 

 誰もいない校庭に、赤い鳥居が立っていた。大人が潜るには少し窮屈な程度の小さな鳥居は、まるで作られたばかりのように色鮮やかで、古びた様子が一つもない。

 そんな場違いなものが、小学校の校庭にそびえている。それも一つや二つではない。鳥居はずらりと並び、一つの道を形成している。参道のようなそれは校庭の中央を横切り、校舎の裏へと回り込んで消えてゆくのが分かる。その厳かな赤い道は、まるで貴方たちを誘うかのようにぽっかりと口を開けている。

 そして一番手前の鳥居のすぐ目の前、昇降口の目の前の地面に、白い文字が刻まれていた。

 

お社はもうないけど きっと神さまはいる』

 

 校門の先は相変わらず暗くぼやけており、近くまで移動してもそれは変わらない。門扉は固く閉ざされており、子どもの姿の探索者たちにはどう足掻いても開けることはできないだろう。

 

 

 


【校舎裏】

 

 鳥居を通って進むと、校舎裏へと移動することができる。

 

 赤い鳥居のトンネルを潜り抜け、校舎の裏へと進む。

 最後の鳥居を潜ると視界が開けた。そこは校舎の壁と敷地の塀との間のスペースで、片隅には大きなゴミ箱が並んでいる。小学生の頃、掃除当番の後にゴミ袋を持って通ったことを思い出した。しかし一つだけ、記憶と明らかに異なるものがすぐに目に留まる。

 手狭な空間の最奥に、大きな社のようなものがそびえていた。

 鮮やかな赤色の支柱の合間にある両開きの扉は開いており、その中から顔を覗かせているのは、鉄製の扉だった。不似合いなそれに見覚えがある。それは貴方たちが小学生の頃からそこにあった、古びた焼却炉の扉だ。神社の社のような建物の中にすっぽりと、焼却炉が収まっている。

 焼却炉の扉の目の前には、黒いランドセルがぽつりと落ちていた。

 

 

【目星】ランドセルには「伊武 和己」と記名してある

【聞き耳】焼却炉の中から小さく、金属の壁を叩くような音がする

 

 焼却炉の戸は固く閉ざされており、開くことはできない。戸の脇にはいくつかの操作ボタンがついており、その内の一つは焼却炉に点火するボタンだと分かる。

 ランドセルの中を確認するのであれば、当時の伊武の筆箱やノートなどが入っており、それが伊武のものであることが分かる。

 

 この場所はかつて喜多神社があった場所であり、10年前に伊武が結界魔術を使用した、この空間の中心地点である。そのため、伊武の記憶と心象から再現された神社の社が焼却炉と歪に融合している。結界内に閉じ込められたままの本物の伊武はこの焼却炉の中に居るが、物理的に助け出す方法はない。ここで試みられるのは、焼却炉に点火して「楔」である伊武ごと結界を焼き払うことのみである。

 

 

 

・焼却炉を詳しく調べようとした場合

 

 ばん!ばん!ばん!と、突然、焼却炉の内側から激しい音がする。

 固く閉じられた鉄扉の中から、誰かが助けを求めて壁を叩くような音。決して重たくはないその音は、不規則に、何度も何度も繰り返されて貴方たちの耳を突き刺す。

 しかしどれだけ手を尽くそうと、目の前の扉が開くことはない。閉ざされたその向こう側で壁を叩くのが誰なのかもわからない。痛々しい音はただただ、幾度も、幾度も、がらんどうの校舎裏に響き渡る。

 

【SANチェック】0/1D2

 

 

・焼却炉に点火する

 

 大きなボタンを押し込むと、がちり、という音と共に焼却炉が稼働する。分厚い鉄の壁の向こうから、ごうごうと炎が燃え盛る音がする。それと同時に、ばん、と一際大きな音が響く。中にいる何かが、誰かが、必死に扉を叩く音だ。内容物が焼却される轟音と共に、貴方たちに訴えかけるように、助けを求めるように、ばん、ばん、と音が鳴る。炎が徐々に勢いを増してゆく中、その音は長い間、貴方たちの鼓膜を叩き続けるだろう。

 やがて、大きな焼却炉が中身をすっかり燃やし尽くしてしまう頃、ようやく音は鳴り止んだ。

 

【SANチェック】1D2/1D4+1

 

 焼却炉で「楔」を燃やし尽くし、NORMAL ENDへ移行する。⇒7.エンディング参照

 

 

 

6.明治時代へ

 探索者達が占い師に対して「明治時代へ行きたい」「喜多神社があった頃へ行きたい」と伝えた場合のみ、この時代へ渡航することができる。

 

 穏やかな風が頬を撫でる。ふと気づいて目を開くと、そこは馴染みある小学校の校舎でも、薄暗い路地裏でもなかった。貴方たちは鮮やかな朱色の鳥居の真下に立っている。そこは神社の境内だった。

 振り返れば、石段を数段下った先に路地が広がっている。そこに立ち並ぶ家屋はどこか古めかしく、往来を行きかう人々は着物を身に纏っていた。立ち尽くしていれば、何人かの通行人は遠くから貴方たちを訝しげに眺めている。

 再び正面に向き直ると、こじんまりとした社がそびえている。そう広くはない敷地だが良く手入れが行き届いているようで、綺麗な神社だ。社の正面に備え付けられた賽銭箱に、足組みをして腰かける女性の姿が見える。その女性はどこかこの場に場違いな、真っ白なローブのようなものを身に纏っており、浅く被ったフードの下から、艶やかな黒髪が揺れていた。

 

 この場で用があるのは目の前に佇む女性である。探索者が通りへ出ようとするのであれば、通行人が探索者たちをひどく怪しんでおり、そのままで歩けば騒ぎになるであろうことを示唆して止めること。

 女性は声を掛けられると、「ああ、君たちか」と穏やかな笑みを浮かべる。

 

 この女性は当時、「時神様」と呼ばれていた者であり、「時神様」とはシナリオ設定上は人間と友好的に接していたイスである。ただしこのルートに辿り着いた場合に限り、探索者たちの目の前に現れる彼女は「イスに成り代わったニャルラトホテプ」である。詳細はエンディングの項目で後述するが、少なくとも探索者たちが不用意に敵対しない限り、この神が探索者たちに危害を加えることはない。

 

  想定される彼女との会話、その応答は以下の通り。

 

・貴方が「時神様」か

 ⇒「そうだよ。私は”トキガミサマ”だ」

 

・自分達を知っているのか

 ⇒「ああ、同胞から聞いているよ。まさか本当に来るとは思わなかったが」

 

・願いを叶えてほしい(シナリオに関係のない望みの場合)

 ⇒「おや、君たちはそんなことのためにここへ来たわけじゃないだろう」

 

・この先、貴方は悪い人間に力を悪用されてしまうから気をつけろ

 ⇒「知っているよ。そして、私はそれをどうするつもりもないのさ。失望してしまったからね」

 

 探索者たちが、自分たちと伊武に起きた悲劇をどうにかしたいという旨の願いを伝えると、彼女は少し考えてから以下の様に口を開く。

(内容としては具体的でなくても良い。「男が呪いを使わないようにしてほしい」「自分達の街に呪いの印が蔓延する事態を避けてほしい」など、「禍根を元から断つ」と受け取れる内容を伝えれば、話を進めてしまって良い)

 

「なるほど……まあ、同胞からの頼みだ。それに免じて、特別に君たちの願いを聞き届けてあげようか」

「……さて、では、問おうじゃないか。君たちが、私に”救ってほしい”と願うのは、一体誰だい?」

 

 彼女が探索者たちの願いを聞き入れることで、「時間渡航を用いた呪術が広がる」という全てのきっかけであった事象がなかったことになり、過去の改変に基づき現実での事象も改変されるTRUE ENDとなる。

 このとき、探索者たちがここで何を口にするかによって、エンディング時のNPCの状況の処理が変わる。以下にシナリオから呈示する処理の指標を記載するが、KPは適宜この処理を改変して良い。望むのであれば多くを救っても良いし、失われた人間はただの一人も戻らないことにしても良い。

 

・「伊武」「菊池」「その他の呪いの犠牲者」「自分達」を助けてほしい

 ⇒望んだ者が死んだ事実がなかったことになる。また、渡航や呪いの印の影響によって自分達が襲われることを気にして「自分達」を助けてほしいと願うこともできるが、これは願わずとも探索者たちの身に危険が及ぶことはない。

 

・上記などから選んだ望みが2つ以下だった場合

 ⇒大元となる呪いがなかったことになるため、「死んだ」という事実自体がなかったことになり、問題なく健全に人生を送ってきたことになる。

 

・望みが3つ以上だった場合

 ⇒多くを望んだ場合、不完全な形で救われる。「死んだ」という事実自体は残ったまま、突如現実に生還するため、世間に多大な混乱を招く。

 

「なるほど、君たちの願いは確かに聞き届けたたよ。安心してお帰り」

 彼女がそう言って貴方たちに微笑みかける。その刹那、不意に一陣の風が吹き抜け、視界が眩しい光に包まれる。それに何かを考えるよりも先に、貴方たちの意識は光に呑まれてかき消えてしまった。

 

 

 

⇒7.エンディング参照

 

 

 

7.エンディング

◆TRUE END:時神様に「神頼み」をした

 明治時代に戻って時神様に願い事をした場合のエンディング。探索者たち自身の力ではどうしようもなかった大元の災厄を避けるために神に願いを伝えた場合、その願い通り、過去にさかのぼって事実が書き換えられる。後半の描写は探索者たちの願った内容に応じて変更すること。

 

 気が付けば、貴方たちはあの路地裏に立っていた。振り返ればそこには誰もおらず、占い師の腰かけていた粗末な椅子も、看板も見当たらない。貴方たちだけがそこに立ち尽くしていた。

 何もかも夢だったのかと貴方たちは思うかもしれない。しかし程なくして、あれが確かに現実であったことを思い知るだろう。消えたはずの同級生が、死んだはずの友人が、今も無事に生きている知らせを受ける。それは貴方たちが望んだ願いの結果だ。

 

 零れた水は元通り器に納まった。今やもう、それが零れた事実を知るのは、貴方たちだけなのだ。

 

 このルートの場合、探索者たちが出会った「時神様」や占い師は、本来そう呼ばれたイスに成り代わったニャルラトホテプである。事態を見物していたかの神は気まぐれに探索者達の「神頼み」を聞き入れるため、本来イスではなし得ない大幅な現実改変が行われる。

 しかし探索者たちが多くを望んだ場合には、伊武や菊池は行方不明・死亡の事実をそのままに存在だけが戻るために混乱を巻き起こすことになるかもしれない。NPC及び死亡した探索者のエンディング後の扱いについては、以下の例を参考にKPが適宜決めてよい。以下にない処理を行っても勿論構わない。

 

・菊池悠斗

 ⇒死亡した事実自体がなくなっており、ごく普通に生存している

 ⇒死亡した事実は残ったまま、突然自宅に現れ騒ぎになる

 

・伊武和己

 ⇒行方不明になった事実自体がなくなっており、ごく普通に22歳の青年として生存している

 ⇒ 行方不明になった事実は残ったまま、突然自宅に12歳の姿で現れ騒ぎになる

 

・探索中に死亡した探索者

 ⇒現実に死体などはなく、ごく普通に生還した扱いになる

 ⇒現実の路地裏に死体が残ったまま、記憶を失って自宅に戻り騒ぎになる

 

 

SAN値報酬

生還した:1D6

禍根を元から断った:1D6

 

 

 

 

◆NORMAL END:焼却炉で結界を破壊した

 焼却炉のスイッチを入れ、楔となっていた伊武和己ごと焼き払い結界を消滅させた場合のエンディング。

 

 気が付けば、貴方たちはあの路地裏に立っていた。振り返ればそこには誰もおらず、占い師の腰かけていた粗末な椅子も、看板も見当たらない。貴方たちだけがそこに立ち尽くしていた。

 何もかも夢だったのかと貴方たちは思うかもしれない。しかし、まるで何か、自分に絡みついていた悪いしがらみが立ち消えたかのような気分で、貴方たちは帰路につくだろう。

 結局、菊池を殺害した犯人は見つからなかった。日が経つうちに次第に事件は風化し、ニュースでも触れられなくなってゆく。貴方たちが「トキガミサマ」の呪いを受けることもなく、穏やかな日常はそれまでと変わらずに過ぎてゆく。

 

 零れた水は盆へ返ることはない。しかし少なくとも、貴方たちが脅かされることはもうないだろう。零れた水を拭い去り、貴方たちは今日も変わらない日々を生きてゆく。

 

 

SAN値報酬

生還した:1D6

 

 

 

◆BAD END:ティンダロスの混血種に殺された

 ティンダロスの混血種の攻撃によってHPが0になった場合のエンディング。探索者の内一部が死亡した上で他エンディング条件を達成した場合、この描写はTRUE END、NORMAL ENDと両立する。

 

 薄暗い路地裏。人が足を踏み入れることもないそこに、鮮やかな赤い花が咲いていた。

 酷い噛み傷、切り傷でずたずたになった四肢は殆ど捥げかけ、酷い有様で貴方はそこに転がっている。最早貴方の意識がその現実へと戻ることはなかった。貴方は過去で魂を引き裂かれ、現代で肉体を失い、死を迎えたのだ。

 

 

 探索者ロスト

 

 

 


ここまでお読みいただきありがとうございました!

実際にプレイしてくださった方は、よろしければ是非アンケートにご協力ください。

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