実りの鈴の鳴る前に

本作は、「 株式会社アークライト  」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『クトゥルフ神話TRPG』の二次創作物です。

 

Call of Cthulhu is copyright ©1981, 2015, 2019 by Chaosium Inc. ;all rights reserved. Arranged by Arclight Inc.

Call of Cthulhu is a registered trademark of Chaosium Inc.

PUBLISHED BY KADOKAWA CORPORATION

 

 

PL向けあらすじ

 町の外れの雑木林にぽつりと佇む、不気味な廃病院。軽い気持ちで肝試しに行ったそこで探索者達が見た物は、幽霊でも怨霊でもなく、ただ、静かにそこに佇む不似合いな鈴だった。

 ちりん。

 始まりを告げる音が鳴る。終わりの音がやって来る。鈴の音が鳴る前に、全てを終わらせなければならない。

 

 

 

シナリオ傾向・ハンドアウト等

舞台:現代日本 

推奨人数:2~4人

シナリオ傾向:シティ

想定時間:ボイスオンセで2時間前後

推奨技能:目星、図書館

準推奨技能:オカルト、歴史

 

HO:町外れの廃病院に肝試しに行ける人。

    上記導入の都合上、探索者同士は顔見知りである事が望ましい。

    また、最低でも1人はその町に住んでいる者であると良い。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――これより下はKP向け情報となります――――――――

目次

KP向けあらすじ

 探索者達の住む町には、元々東西南北の4つの神社が存在していた。近い血筋から分かれた4つの神社は、それぞれ協力して地域を治めていた。

 しかし、北大路神社の長男と西宮神社の長女が、古い文献からアイホート信仰に魅入られてしまう。二人は恋仲であり、共に狂気に堕ちて秘密裏にアイホートとの契約の儀式を準備する。そうして作られたのが、アイホートに信者候補の人間を知らせる「繋ぎの鈴」と、アイホートとの契約を遂行し信者に雛を植え付ける「実りの鈴」である。西宮の娘はあくまで自分達の信仰の実現のためにこの鈴を作ったが、北大路の息子はこの鈴を用いて街の人々をもアイホートの虜にしてしまおうと考えていた。西宮の娘はこれに危険を感じて説得・阻止しようとするも、周囲の神社関係者たちは有力者である北大路の不祥事が表沙汰になる事を恐れ、アイホート信仰の痕跡を隠し、起きかけた騒ぎを西宮の娘が精神に異常をきたした為と偽り、娘を座敷牢に監禁した。この事実を知るのは当時の北大路、西宮の関係者のみである。

 その後まもなく娘は体内のアイホートの雛が孵り死亡するが、そのまま二つの鈴は人知れず残されたまま、信仰の事実は時間と共に風化して消えていった。

 現在は「繋ぎの鈴」は2人が安置していた病院の最奥に残され、「実りの鈴」は真実を忘れられ祭具として北大路神社で使われている。

 探索者達は肝試しの最中、不運にも「繋ぎの鈴」を見つけてしまい、アイホートの刻印を刻まれてしまう。更にその翌日には「実りの鈴」を用いた祭りが行われる為、鈴が鳴らされてしまえばアイホートの雛を植え付けられてしまう。祭りまでの間に、自身に刻まれた刻印をどうにかして解除することが、探索者達の目的である。

 

 

 

シナリオの大まかな流れ

大まかな目的:「実りの鈴」が鳴らされる前に、自身に掛けられた契約を解除する。

  

●導入    廃病院で「契りの鈴」の音を聞き、アイホートとの契約を身に受ける

 

●翌朝    手に契約の印が現れ、事態の調査を開始する

 

●東森神社  西宮神社の過去の話を聞き、西宮神社の跡地を教えてもらう

 

●西宮神社  アイホートとの契約とその解除方法についての資料を見つける

 

●廃病院   「契りの鈴」の前で契約を解除する

 

 

※本シナリオは初心者向けシナリオとなっており、探索箇所や想定ルートも一本道のものが殆どです。情報の呈示や探索の誘導に関しても、KPは適宜PLの練度に合わせてアイデアなどでヒントを出していっても良いです。

 

シナリオ背景

 東森神社、西宮神社、北大路神社、南崎神社は大元が一つの血筋から始まった神社であり、100年程前まで共に地域一帯を治めていた。特に中心的な存在であった北大路神社は、地域の政にも関与したり、町の中枢医療を担う王子中央病院の経営を行うなど、一際力を持っていた。

 北大路神社の跡継ぎである一人息子と、西宮神社の一人娘である秋枝(あきえ)は恋仲にあり、不運にも古い文献からアイホート信仰に関する情報を目にし、アイホートへの狂信に堕ちてしまう。二人はアイホートへの信仰を示しかの神と契約を結ぶ為、魔力を込めた二つの鈴を作り上げる。「契りの鈴」はその音を聞いた者の存在をアイホートに知らしめ、契約の為の刻印を対象に刻む。そして「実りの鈴」は、その音をもってして刻印の付いた候補者の身体に強制的にアイホート雛を植え付け、アイホートとの契約を完成させる。

 秋枝はこれを自身と恋人がアイホートと邂逅する為にのみ扱うつもりだったが、北大路の息子はかの神の素晴らしい信仰をより多く伝えようと、地域全体にこの鈴を用いて契約を広めようと考えた。それを知った秋枝はこの考えを危険視し、恋人を阻止しようとして言い争いになる。更には北大路の息子が行った実験により、当時王子中央病院に入院していた30人近い患者がアイホートの雛を植え付けられ、その誕生によって命を落とす大量死亡事件が発生。

 事が大きくなると秋枝は止むを得ず危険を周囲の人々に伝えようとするも、騒動に気付いた神社関係者達は事の真相が明るみになり、北大路の息子が失脚する事を恐れた。北大路を中心とするごく一部の神社関係者のみが、秘密裡に事を処理し、秋枝が正気を失って騒ぎを起こしたとし、病院での死亡事件も流行り病の為と事実を隠蔽してしまった。結局、アイホート信仰に関する文献などは粗方処分されたものの、北大路の失態は明るみに出る事なく、全ての罪を被せられた秋枝は座敷牢に閉じ込められ暫く後にアイホートの雛の誕生により死亡。不祥事の責任を取らされた西宮神社も取り潰しとなった。

 しかし、二つの鈴は二人によって作られたものであった為古い文献にも記載がなく、北大路の息子によって巧妙に隠されたまま残ってしまった。長い年月が経って冒涜的な信仰の記憶が薄れた後、「契りの鈴」は病院の地下室に隠されたまま忘れられ、「実りの鈴」は悍ましい事実を忘れた人々により、祭りのための道具として北大路神社に保管され、毎年の豊穣祭で使用されている。

 「実りの鈴」のみであれば実害はないが、病院の地下に迷い込んでしまった探索者達にはアイホートとの契約の刻印が刻まれてしまう。この状態で「実りの鈴」が鳴らされれば、探索者達には強制的にアイホートの雛が植え付けられる。本シナリオ内では一度植え付けられた雛を退散させる呪文は用意されていない為、祭りの時刻までに情報を集め、自らの刻印を解除する事がシナリオの目的となる。

 

 

 

主要NPC

西宮 秋枝(にしのみや あきえ) 犠牲となった巫女

性別:女 年齢:21 職業:巫女

 

※シナリオ開始時点死亡

 約90年前に西宮で巫女を務めていた一人娘。

 恋人と共にアイホート信仰に堕ち、アイホートの雛を植え付ける契約のための二つの鈴を作った。既に狂人と化していたものの、あくまで自分達のみが神を信仰できればよく、周囲の住民たちを巻き込む恋人の計画には反対した。しかし最終的には恋人に裏切られ全ての罪を着せられ、一人ですべてを行った狂人として座敷牢に監禁された。

 ほどなくして座敷牢で体内のアイホートの雛が孵り死亡しているが、死の直前、幸運の呪いをかけて恋人へ送った紙人形に、裏切られた恨みを込めた死の呪いを掛け直して遺している。シナリオ中では、この人形を破り捨てて呪いを発動させる事で、北大路の家系に悲劇を起こす事が出来る。

 

 

 

 

 

シナリオ本文


シナリオ本文の読み方

 

 

・地の文…KP向けの状況説明および処理に関する記述など、シナリオ本文のメイン部分です。適宜目を通しながら進行してください。

この背景色で括られている箇所はPLには非公開のKP向け説明です。
KPが状況を把握する為の情報なので、基本的にPL及び探索者には公開しません。

 

・読み上げ文…情景描写の文章、もしくは文章媒体での情報の内容です。この文章はそのままPLへ向けて読み上げ・提示を行って構いません。

 

・ダイスロール文…SANチェック及び各技能などの処理です。技能のダイスロールについては、”※強制”の記述がない場合振れる技能の提案の有無などはKPにお任せします。

1.導入

※本シナリオの導入は「肝試しに行った」後から開始される。これは初心者を想定し、導入の流れを作る時間を短縮する意図だが、望むのであれば肝試しに行く前の流れから開始しても勿論構わない。特に想定がなければ、以下の流れに沿って導入の流れは強制的に進行する。

 

 

 

 

 貴方達はある夜、仲間内で肝試しを行うことにした。訪れたのは、自分達の住む町のすぐ裏手にある廃病院だ。夜遅くに駅前に集合した君たちは、連れ立って人気のない林の方へと踏み入っていく。

 何十年も前に住人も退去した、今となっては木々に覆われたエリアにぽつりと残された崩れかけの病院跡地。月明かりと手に持ったライトを頼りに、貴方達は廃墟探検を進めてゆく。内部は殆ど崩れた、特に怪しいものもない廃墟だったが、進む内、ある一室に酷く思わせぶりな一つの箱があった。

 貴方達はその箱の前に居る。

 

 そこは病室にしても医局にしても奇妙な、何もない小部屋だった。

 廃墟の中、地下へと降りる階段の先、更にその先の廊下の端に、その部屋はぽつりと存在していた。がらんどうの部屋の中央に、床の上に投げ出された木箱がある。

 両手に抱える程の大きさの木箱は、ひどく傷んでいる様で、所々黒ずんでいる。

 

 

探索者が箱を開けると更に進行する。
どうしても箱を開けたがらない場合は、部屋から出ようとしたが全身に物凄い圧が掛かり出口の方へ進めない、などの処理を加えても良い。

 

 

 

 箱を開けると、中には大きな、赤錆塗れの”鈴”が入っていた。

 赤子の頭ほどもあるそれは、ひどく年季を帯びており、歪な曲線は見るものを不安にさせる。また、鈴の傍らには黄ばんだ一枚の札が収められていた。札には西宮神社という刻印と共に、筆の字で文章が刻まれている。

 

<抱擁の神の繋ぎの御鈴 鳴らしたる者神の御前へ招かれたり

 実りの御鈴の音色にて 契りは真にならむとす>

 

「ちりん」

 

 不意に、音がした。

 

「ちりん」

 

 その軽やかな鈴の音は、何処からともなく近づいてくるようだった。

 周囲の空気がひやりとして、気温が下がった様な気がする。

 

「ち り ん」

 

 三度鳴ると、まるで突然空気圧が変わってしまったかの様に、全身を押さえつけられる様な圧を感じ、全員がその場から動けなくなった。蛇ににらまれた蛙の如く、全身を押さえつける重圧に身じろぎ一つ取る事ができない。誰かに見られている、そうも感じた。

 重苦しい静寂が、どれほど続いただろう。

 不意にその沈黙を破ったのは、鋭い痛みだった。

 

 焼ける様な痛みを発したのは左の手だ。思わず視線を落とす。

 しかし、痛みは一瞬で、視界に映るのはいつもと変わりのない自分の手だった。同時に、気が付けば先程まで全身を襲っていた重圧もなくなっている。

 

 とにかく、もう帰ろう。

 

 不安からそんな考えが貴方達の頭をよぎるのは容易だろう。貴方達は、その嫌な体験が単なる気のせいである事を祈りながら、それぞれ帰路についたのだった。

 

 

 

 特に宣言がなければ、その日は眠りについたとして時間を進める。

 

 

 

2.翌朝

 目を覚ますとまず、探索者達は左手に違和感を覚える。手を見ると、左の手のひらに大きく焼け爛れた様な赤黒い傷跡がある。

 

【SANチェック】0/1

【目星】手の傷は何か、見た事のない文字か文様の様にも見える

 

 手の傷を見た探索者は、昨晩の出来事を思い出し不安に駆られる。ここで必要であれば、札の存在を思い出した描写として書かれていた文章を改めてアナウンスしても良い。

 

この町に住んでいる探索者は【アイデア】

今晩が町の神社のお祭りで、「実りの鈴」という祭具を用いて行われるという事を思い出す。

 

 この時点で探索者たちは今回の黒幕である「アイホート」に目を着けられてしまった状態である。神社のお祭りで使われる鈴はアイホートにまつわるアーティファクトであり、これが打ち鳴らされてしまうと探索者達はアイホートと契約し、雛を植え付けられてしまう事となる。タイムリミットである夜までに、自身に掛けられた契約を解く事が本シナリオの目的である。時間の経過、また鈴の鳴らされる明確な時刻についてはKPの任意で設定して良い。

また、手の傷については魔術的な印であるため、同じ条件下にある探索者同士にしか目視する事が出来ない。NPCなどには傷は見えず、普通の手に見える為、事態を説明しようとしても不審がられてしまう。

 

 これ以降、探索が本格的に開始される。基本的には探索者同士連絡を取って合流し、情報収集を開始するのが良いだろう。

 KPから呈示する情報としては、地元民の探索者には町には大きな「市立図書館」がある事と、「東森神社」「北大路神社」「南崎神社」という3つの神社がある事を呈示する。

 現時点で得られている情報からどこに行くかは、PLに任せて良い。ただし、北大路神社に行って関係者に鈴を鳴らさないで欲しいなどと頼んでも、祭りの内容をどうこうする事は基本的に不可能。詳細な対応は北大路神社の項を参照。⇒3.北大路神社へ

 

 「西宮神社」について知りたいという宣言があった場合、地元民の探索者には【アイデア】を振らせる。

 

【アイデア】この町には北大路神社、東森神社、南崎神社という三つの神社があるが、「西宮神社」という神社は存在しない。また、3つの神社の内南北の神社が特に大きく、とりわけ大きい北大路神社がお祭りなどを主導している街の中心的な神社である

 

 上記の【アイデア】に成功した場合、更に【歴史】を振っても良い。

 

【歴史】かつては「西宮神社」という神社が存在した事を聞いた事がある

 

 

 ・廃病院について

 「王子中央病院」という病院の跡地。肝試しに行く時点では探索者達は詳しい情報を持ち合わせていないが、ネットの検索や図書館で調べることで追加の情報が得られる。ここではネット検索で得られる情報のみを記載。図書館での情報については別途市立図書館の項目を参照。⇒4.市立図書館へ

 

【図書館】80年近く前に廃業となった古い病院。当時地元では有力な、中心的な医療施設だったらしい。

【オカルト】廃業となる直前、入院患者が一斉に不審な死を遂げたという怪事件があったらしい。

 

 【オカルト】に成功した場合、病院にまつわる不穏な噂が見つかる。具体的にはオカルト的な伝説について述べたネットの記事であり、内容は以下の通り。

 

 当時入院していた30名前後の患者が、一斉に死亡した記録があるという。それぞれ怪我や病気など入院理由は様々だった、皆一様に”身体が内側から破裂して”死んだと当時の看護婦が語ったとか……。

 この事件の記録は、当時の地域の資料にも詳しくは残されていない。それは、この事件の真偽にまつわる事なのか、あるいは人為的な力が働いているのか……。

 

 

 

3.北大路神社

 立派な鳥居を正面に構える大きな神社。広い敷地内には夜の祭りの準備か、提灯などが並べて吊られている。見回せばちらほらと、祭りの支度をしている人の姿が見られる。

 話しかけた場合応対はしてくれるものの、神社や祭りに関する詳しい話はアルバイトの作業者では対応できないため、境内の奥へ案内され、神主の男性が対応する。

 

◆神主

 60代程の男性。険しい表情であまり愛想は良くない。祭りの準備で忙しい為手短にとは前置きをするものの、探索者達が問い合わせれば話をしてくれる。

 

・お祭りについて

地域に古くから伝わる伝承を汲んだ祭り。元々は豊作を願うしきたりだったが、今は屋台なども開かれごく一般的な祭りとなっている。祭りの目玉として、「実りの鈴」を鳴らして豊作を祝う。

 

・実りの鈴について

祭具の鈴。両手で抱える程の大きな鈴で、祭りの際に使われる。普段は北大路神社の祭具殿に仕舞われており、年に一度、祭りの際にだけ出される。

 

・祭りを中止してほしい

鈴を鳴らすのを止めてほしい、祭り自体を中止してほしいという要望については、いかなる説得を試みても断られる。

 

・肝試しで見つけた鈴の事について話す

手の変異や鈴の事について話しても、神主には手の変異が見えない為信じてもらえず、取り合ってもらえない。

 

・西宮神社について

その様な名前の神社は存在せず、心当たりがないと言われる。

【心理学】神主が何かを隠している様に感じる

 

 

◆西宮神社の情報を掴んだ後に訪れた場合

 西宮の話を知った上で再度神主を説得することが可能。「西宮神社が実在したことを調べた」と言うか、交渉系技能でRPの代用も可能。

 神主は渋い顔をしながら以下のように答える。

 

・西宮神社について

確かにあったが、今は存在していない。嘘は吐いていない

 

・取り潰し理由

西宮の巫女が気をやってしまい、処罰せざるを得なくなった

 

・西宮と北大路の交流について

当時の長男が西宮の巫女と親しかったとも言われているが、詳しくは知らない

 

 それでも問い詰めると、神主は渋い顔をしながら以下の情報を探索者達に伝える。

 

「……当時、北大路の長男と、その精神を患った西宮の巫女は、恋仲にあったらしい。しかし、西宮の巫女が不祥事を起こし、事態の収拾のため彼女自身は座敷牢へと閉じ込め、若い二人の関係も、北大路と西宮の間にあった交流の事実も、徹底的に伏せられたと言う。当時この辺りをまとめ上げていた北大路家が力を失う事は、地域にとっても非常に問題で、あってはならない事だったのだ。

 ……そうして、都合の悪い事実は闇に葬る。そんな事は、これまでの長い歴史の中で嫌と言うほど繰り返されてきた事だ。そして西宮の事も、既に過ぎ去った遠い過去の話。最早誰も覚えてはいない。いずれ伝え聞いた事実を知るものすらいなくなる。今日、北大路はこの地域の柱として立派に人々を支えている。このままで、良いのだ。このままで……」

 

 

 

4.市立図書館

 町民の多くが利用する大きな市立図書館。技能成功で地域の歴史に関する文献を発見し、神社や祭りについて、または病院についての情報が得られる。

 

【図書館】地域の歴史に関する本を発見する

 

本を読むとそれぞれについて以下の情報が分かる。

 

●神社について

・かつてはある神道の家系が地域で大きな力を持っており、その流れを汲んだ分家が4つの神社となって地域を収めていた

・特に東と西、北と南が血を分けた家系

・80年近く前に西宮神社が取り潰しになり、それに伴い東森神社も縮小された

 

●病院について

・80年近く前に廃業となるまで、古く地域の中央病院として機能していた

・北大路家が経営を担っており、そういった意味でも地域の中心的な施設となっていた

・廃業となる直前、患者の集団死亡があったらしい。大型の感染症の病院内での流行が原因と言われている

 

 

 

5.東森神社

 北大路神社に比べると敷地も本殿の作りもかなりこじんまりとした神社。此方は祭りの飾り立てなどもない為か、余計に閑散として見える。

 人を探すと、敷地の奥で掃き掃除をしている老婆を見つける事ができる。

 

◆老婆

東森神社に長く務める巫女。探索者達が声をかければ、手を止めて丁寧に応対してくれる。

 

・西宮神社について

自分がまだ幼い頃に取り潰しになってしまった神社。

元々は4つの神社があったが、西宮が取り潰しになり、血を分けた東森神社もそこで力を失い、南北の2つの神社が力を持つようになった

 

・取り潰しの理由について

老婆は少し口を噤み、話し辛そうにする。【説得】【言いくるめ】などの交渉系技能に成功する事で話を聞ける。

 

 当時、秋枝(あきえ)という西宮神社の若い巫女が心を病んでしまい、話は神社関係者たちの間で内密に処理されたものの、他の神社の者に危害を加えようとしたり、果ては病院に入院していた患者達を殺したという噂も聞いた。それは大変に質の悪い悪霊憑きだったとされ、北大路の者が祓いの儀を行うも秋枝の状態は回復せず、地位も跡継ぎも失った西宮は没落した。

 秋枝は生涯正気を取り戻すことはなく、座敷牢の中で短い一生を終えた。

 

 秋枝の話をすると、老婆はため息をつき、「西宮は悪しき神を祀っていたとまで言われ、血を分けた東森も…この有り様です。当時、最も西宮と交流があったのは北大路だというのに…」と溢す。老婆は当時まだ幼かったため具体的な情報は得られないが、当時の北大路の嫡男と西宮の秋枝には頻繁に交流があったと言う。

 

・西宮神社に関する情報について

 そのものは取り壊されてしまっているが、今も最奥の社は残っており、当時の西宮について知れるとしたらその場所だと教えてくれる。

 場所は町内からそう遠くないが、今は人の手の入らない雑木林になっている。

 

 

 

6.西宮神社跡地

 鬱蒼とした雑木林の奥に、すっかり荒れきった社がぽつりと佇んでいる。

 木造の骨組みはすっかり傷んでしまっているものの、大きな物置程度の大きさのそれは未だにしっかりと建物の形を残している。近付いてみれば、正面の戸には錆びて欠けた錠前が引っ掛かっているが、力を掛ければ簡単に破壊することができる。

 社の中は酷く埃が積もっていて、かび臭い湿った空気が漂っている。手狭なスペースの殆どがぼろぼろの状態の調度品や日用の道具、祭具のようなもので埋め尽くされており、その一角には書物の積まれた棚がある。

 

【図書館】棚に置かれた古い書物の中に、「契りの鈴の儀」という記述を見つける

【目星】社の床の片隅に、重厚な金属の扉を見つける。

    また、棚の片隅に古ぼけた小さな紙人形を発見する。

 

・紙人形

 男と女を模した二体の人形がしっかりと絡み合っており、その間には鈴を模した飾りが添えられている。

 

 紙人形を破る、燃やすなど破壊した場合、エンディングが変化する。詳細はエンディングの項目を参照。⇒9.エンディングへ

 

・「契りの鈴の儀」

 豊穣の神への信仰についてと、その神に祈りを捧げ心を通わす方法について綴られている。大まかな内容は以下の通り。

 

・二つの鈴で神と契約する

・契約が完了すると神の子を宿し、引き換えに神と直接邂逅することが可能となる。

 契約には二つの段階がある。まずは繋ぎの鈴で、神に身を捧げる契りを交わす。鈴の音に触れた者は忠誠の証を左手に受ける。

 次に、実りの鈴で神の子を宿す。契りを済ませた者が実りの鈴の音に触れれば、たちまちその身に神の子を孕む。

 契約を解くには、繋ぎの鈴の元で呪文を唱えて、証を消さなければならない。

 その際には神に直接相見えることになるが、絶対に目を背けてはならない。

 どんな言葉を語りかけられたとしても、神が元の世界へ帰るまで、禁を破ってはならない。

 

 冒涜的な神との契約についての文献に【SANチェック0/1D2】

 

 これを読んだ探索者は、契約を解くための呪文を習得する。MPを1D3消費して、呪文を唱える事で効力を発揮する。

  この呪文は北大路の息子が独自の方法で確立した、特殊なアイホートとの接触術及びその解除術である。本シナリオオリジナルの呪文となるため、習得・持ち帰りは可能だが他シナリオで使用できるものではない。

 

 

◆地下への扉

 重苦しい金属の扉。年季は入っているものの、未だに通路を封じる蓋としては機能しており、開けるには二人以上で持ち上げる必要がある。

 扉を開けると地下へと降りる階段が繋がっている。

 

 扉の先の地下には、格子で仕切られた、牢獄のような狭い和室があった。格子には錆び付いた錠前が引っ掛かっているが、施錠はされていない。奥には布団や文机など、必要最低限の家具が置かれているが、どれもすっかり傷みきっており何十年も前のものに見える。

 

【目星】机の裏の壁に、何か汚れがあることに気付く

 

 よく見るとそれは、単なる汚れではなく、赤茶色の染みでひどく乱雑に殴り書きされた文章のようだと分かる。所々古い言い回しもあり、文字自体も掠れているため、【日本語】ロールに成功することで内容が読める。

 内容の要約は以下の通り。

 

『嗚呼、愛しい人よ。どうして私を裏切ったのか!

貴方の成そうとした事は、あまりに、あまりに危険だった。だから私は、お止めしたというのに!

皆が彼の、北大路の味方だ。私を悪霊憑きだと言う。誰も私の話など聞いてはくれぬ。鈴を持ち出したのは彼だと言うのに。

嗚呼、愛しい人よ。恨みます。

私はこの牢で一生を終えるでしょうが、命潰えたとて貴方を許しはしない。末代まで祟っても足らぬ。

貴方への祈りを込めた豊穣人形、あれは何処へ仕舞われたのだろうか。今となっては込めた祈りも恨めしい。あれを、この手で引き裂けたのなら。込められたまじないを解き放てたのなら。そうすれば、私も天に昇れると言うのに。嗚呼、口惜しい。』

 

 壁と床の狭間、低い位置にびっしりと書き込まれたそれは、古いながらに血液で書かれたものではないかと考えてしまう。

【SANチェック】0/1

 

 

 

7.南崎神社

 規模的には北大路と東森の中間程度の神社。場所としては存在しているが、実の所、東西の神社の問題にも直接関与しておらず、特別めぼしい情報は出てこない所謂ダミー場所である。

 ただし、PLが南崎神社を訪れる事を宣言し、その時点で必要な情報が不足している場合には、適宜神社の関係者のNPCを登場させ、探索者に情報を与えても良い。

 

 

 

8.廃病院

 王子中央病院の跡地。

 

・クライマックス以前に訪れた場合

 基本的には情報が出揃った後、クライマックスで訪れる事を想定している。その為、それ以前に病院を訪れても特に何もなく、探索できる場所も特にない。ただし、「契りの鈴」を持ち出す、という宣言があった場合、鈴は北大路の息子によって地下室に封じられている為、持ち出す事は叶わない。以下は描写例。

 

 鈴の入った箱を抱え、部屋を後にしようとする。しかし、一歩踏み出そうと瞬間、ずしり、という衝撃が貴方の腕を襲った。両手に抱えた箱が、異常な程の重みを持って腕を押さえ付けている。その重みはとても鈴一つのものとは思えない。

 一歩、また一歩と出口へと進もうとするが、その度に箱は更に重みを増して行く。とうとう、部屋の出入り口を目前にして、貴方は一歩たりとも動けなくなってしまうだろう。

 

 箱を元の場所に戻そうとした場合、箱の重さは元に戻る。

 

 

 

 

・クライマックスに訪れた場合

 夜に訪れた時よりはいくらか視界も良いが、昼でも人気のない雑木林の中にある廃病院は、相変わらず不気味な静寂に包まれている。

 特に館内にギミックは想定していない為、宣言があれば鈴のある部屋まで進めてしまって良い。鈴の前で呪文を唱えるとイベントが発生する。

 

 言葉を唱え終えると同時に、君たちは左手に熱い痛みを覚える。見れば、左手にあった赤黒い傷が嘘の様に薄れ、そのまま消えて行き、すぐに完全になくなってしまった。

 その様子に安堵するのも束の間。

 

 ちりん。

 

 ちりん。

 

 何処からともなく、鈴の音が聴こえてくる。

 それが目の前の、静かにそこに置かれている鈴から聴こえていると気づいた時、更にその奥に、「何かが居る」事に気付く。薄暗い部屋の奥から、青白く膨れ上がった巨大な膿の様なものが形を帯びて滲み出して来る。それは部屋の一角を覆ってしまう程巨大で、生き物の鼓動の様にどくり、どくりと不気味に脈打っている。

 不鮮明だった像が次第にはっきりと映ると共に、その白い表皮に一斉にぴしりと亀裂が入る。否、それは亀裂ではない。閉じられた無数の眼だと、それら全てが一斉に開かれる事で気づく。煌々と輝く赤色の瞳。どんな生き物のそれとも違う不気味な光を灯した無数の眼が、一斉に君たちを睨みつける。

 部屋の奥の暗闇からずるりと這い出したそれは、体の何処からだろうか、低く響く声を発した。

 

 

「実りを 拒むのか」

 

アイホートとの遭遇 【SANチェック】1D6/1D20

 

 

 

 これはアイホートではあるが、本来の実体ではなく、日本で独自に派生した信仰と招来の呪文に基づいて、「実りの神」としての姿で疑似的に顕現しているに過ぎない。その為、基本的に探索者に物理的に攻撃を仕掛けて来る事はない。

 ただし、探索者側から物理的に攻撃を行った場合は、KPの判断で戦闘を行っても良い。

 

 ここでの対応は、「アイホートの持ちかけを受諾しない」「アイホートに背を向けない」という二つが重要となる。毅然として立ち向かえば、制約の上に招来されているアイホートは探索者に手出しをすることはできない。

 契約が叶わないと分かると、アイホートは次いで言葉を探索者に投げかける。

 

「帰るが良い」

 

 この際、アイホートが消える前にその場で帰ろうとする、つまり背を向けてしまうと、その瞬間その探索者はアイホートの攻撃対象となる。

 対象となった場合、アイホートは噛みつき(70% ダメージ3D3)で標的となった探索者に攻撃を仕掛ける。ただしアイホートはこの部屋内から外まで出てくる事は出来ないため、すぐに逃走を宣言して部屋の外まで出るのであれば、それ以上の追撃はなく探索者を離脱させて良い。

 

 アイホートの言葉に従わずその場にとどまり続けるのであれば以下に進む。

 

 青白い「それ」は、どろりとほの暗く光る無数の眼を向けたまま、そこにじっと佇んでいる。まるで君たちが背を向けて立ち去るのを待っているかのように。それは消えるでも逃げるでもなく、そこにただ居続けている。

 

 探索者達がそれでもそのままそこにとどまり続ける、またはアイホートに立ち去れなどと言葉を投げるようであれば、アイホートは大人しく退散する。

 

 やがて「それ」は、ぐにゃりと輪郭をゆがませながら、ゆっくりと部屋の奥の暗闇へと沈み込んでゆく。霧が晴れる様に、その白い姿が闇に溶け、すっかりなくなると同時に、張りつめていた空気が一気に弛緩する。そこにはもう、君たち以外の気配は何もなかった。

 

 探索者達はこれで無事に契約を解く事ができた。

 この後はエンディングを残すのみなので、PLのやりたい事が済んだ段階でエンディングまで場面を飛ばす。

 

 

 

9.エンディング

 全ての処理が済んだ場合、祭りの時刻まで時間を飛ばし、エンディングとなる。

 

 

日が傾き、空が暗くなり始めた頃。

 北大路神社では、年に一度の豊穣祭が執り行われていた。提灯の灯りに照らされる境内には人々の姿もちらほらと集まっている。本殿の前では、年老いた神主が両手に抱えるほどの鈴を持ち、恭しく礼をする。この祭りの目玉である、「実りの鈴」を用いた豊穣祈願だ。

 

 ちりん。

 

 ちりん。

 

 ちりん。

 

 澄んだ音色が響く。

 君たちはただその音色に聴き入るだろう。手にも痛みはなく、もう何も身体に異変は起こらない。そうして無事、祭りの時間は緩やかに過ぎていった。

 

 

 

◆END1:紙人形を破いていない場合

 そのままつつがなく祭りは終了し、シナリオクリアとなる。

 

SAN値報酬

 

生還した:2D6

 

 

 

◆END2:紙人形を破いた場合

 上記の共通描写の後、以下の様に続ける。

 

 そう、思った瞬間だった。

「うぅっ……!」

 乾いた呻きと共に、ごとりと鈍い音を立てて大きな鈴が地面に落ちる。

 突然苦しみ出し、胸を押さえて倒れ込んだ神主に、場は騒然となった。悲鳴を上げる女性、駆け寄る男性。狼狽える人々の中央で、神主の老人はびくりびくりと激しくのたうち、白い泡を吹いて悶絶している。まるで人間の体とは思えぬ程の激しさで痙攣を繰り返していたが、やがてそれも収まってゆく。

 濁った目が苦痛に見開かれ、偶然にも、こと切れた視線が首ごともたげて貴方たちの方へ向く。

 不意に、言葉が頭をよぎった。

 

   「末代まで祟っても足らぬ」

 

 と。

 

 その後、北大路の血筋の者は次々と不幸に襲われ、数年後、北大路神社は取り潰される事となった。

 

目の前の凄惨な死に【SANチェック】1/1D3

 

 

SAN値報酬

 

 

生還した:2D6

凄惨な歴史の真実と向き合った:1D3

 

 

 

◆BAD END:祭りまでに契約を解除できなかった場合

 

 日が沈む。祭りの時間が、やってくる。

 

 ちりん。

 

 それは、静かに響く鈴の音だった。ここには鈴など、ありはしない。それなのに、その音は、貴方達の脳裏にはっきりと響く。祭りの行われている神社は此処からずっと遠い。それでも貴方達は、それが、「契りの鈴の音」だとはっきりと確信した。

 それは、終わりを告げる音だ。

 祭りが、始まる。そして、契りは、完成した。

 

 

 後日、白昼の不審死事件がテレビのニュースを騒がせる。被害者は腹部が破裂したような状態で死亡していたという。

 

 

 探索者ロスト

 

 

 

 


あとがき

 自分がオフでセッションを行う際、あまり時間が確保できない事がネックになっていたので、2時間程度で短く終わるシナリオを作ろう!という経緯で書き始めたものです。初心者向けを目指し、一通りの基本的な探索の流れが入っている、クトゥルフっぽいホラー要素がある、短く終わる、あたりを意識して作りました。なので内容はかなりあっさり一本道で少し物足りないかもしれません。

 その分、色々なシーンでの情報の出し方の塩梅はKPさんの加減で難易度調整が容易だと思いますので、PLの方々の経験に合わせて適宜調整していただければと思います。

 余談ですが、テストプレイをした際は紙人形を持っていたPCがアイホート目撃で発狂し、「異食」の発狂を引いて紙人形を食べてしまい意図せずEND2に行く、という大事故を起こしました。意図せず紙人形を破壊するルートは想定してなかったなあ……。

 

 

 


ここまでお読みいただきありがとうございました!

実際にプレイしてくださった方は、よろしければ是非アンケートにご協力ください。

シナリオページに掲載する難易度や目安時間などの参考にさせていただきます。

 

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