αの謳うメメント・モリ

本作は、「 株式会社アークライト  」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『クトゥルフ神話TRPG』の二次創作物です。

 

Call of Cthulhu is copyright ©1981, 2015, 2019 by Chaosium Inc. ;all rights reserved. Arranged by Arclight Inc.

Call of Cthulhu is a registered trademark of Chaosium Inc.

PUBLISHED BY KADOKAWA CORPORATION

 

 

PL向けあらすじ

 雪国旅行に出掛けた探索者達は運悪く豪雪に見舞われ雪道で立ち往生してしまい、たまたま近くにあった洋館に雪が収まるまで宿めてもらう事になった。

 しかしその洋館で徐々に異変が起き始め、洋館に居る人々は恐ろしい事件に巻き込まれてゆく。果たして探索者達は、見事その謎を解いて無事に帰る事が出来るのだろうか。

 

 

 

シナリオ傾向・ハンドアウト等

舞台:現代日本

推奨人数:3~4人

シナリオ傾向:クローズド

想定時間:ボイスオンセで7時間前後

推奨技能:目星、図書館

準推奨技能:機械修理

 

 

 探索者達は皆、遠方へ向かう途中豪雪に見舞われる事となります。遠出の理由や使用する交通機関は問いませんが、車であると導入の整合性が取りやすいと思われます。雪道を行くシチュエーションさえあれば、職業や立場などのHOはありません。

 

注意事項

 本シナリオは探索者に特殊な設定が付与される場合がある為、原則として継続探索者は不可となります。必ず新規探索者を作成してください。

 また、ご自身の想定しない特殊設定、後遺症が発生する事を嫌う方、CoC初心者の方には本シナリオのプレイをお勧めできません。

 

 

 

 

 

――――――――これより下はKP向け情報となります――――――――

目次

NPCの詳細ステータス、地図などの提示資料などについては、別途「資料」としてまとめてあります。シナリオを回す際には此方もご参照ください。⇒αの謳うメメント・モリ:資料ページへ

 

 

 

KP向けあらすじ

 世間でも話題のミステリー作家である一ツ谷 史郎が突如亡くなった。彼は多くの名作ミステリーを世に送り出しそのどれもが高い評価を受けていたが、実は文学を追求するあまり、自身の求める作品を描くためにゴグ=フールの力を借りていた。一ツ谷はよりリアリティのある作品を生み出す為、魔術を用いて自身の作品の世界を実際に作り出し、その箱庭に自ら身を投じて検証を繰り返す事で質の良いミステリーを完成させていた。一ツ谷はそうして徐々に冒涜的な領域へ傾倒していった末、精神を病み、ゴグ=フールに襲われ食らい尽くされてしまい命を落とす。

 一ツ谷の死後、未公開未完成のままの遺作と、その世界を模した箱庭のみが残された。ゴグ=フールはその空間に住み着いて、殺人事件が起きるミステリーの世界を利用し、迷い込んだ人間を食らい始めた。魔術によって作られた異空間の箱庭は現実世界と非常に近い存在であり、舞台となる作品の状況と極めて近い条件でのみ、現実世界と部分的に融合して現実の人間を中へ呼び込む事が出来る。

 探索者達は運悪く、一ツ谷の遺作であるミステリー小説と同様に「寒い雪の日の夕方」に「豪雪に見舞われて立ち往生する」事で、この小説の箱庭に迷い込んでしまう。物語の筋書きになぞらえてゴグ=フールが次々に宿泊者を殺してゆく中、この空間の真相に気付き、現実世界へと無事に戻る事がシナリオの目的となる。

 また、箱庭には非実在の人間である「作品の登場人物」が存在しており、探索者の内1人もそうである。ただし、PL・PC共にこの事実は知らされない。この事実に気付いた際に何を考えどう決断するかも、シナリオの醍醐味の1つである。

 

※本シナリオは探索者に特殊な設定が付与されます。KPは下部項目「PCαについて」を必ずよく読んだ上でセッションを検討してください。

 

 

 

シナリオの大まかな流れ

大まかな目的:箱庭の真相を解き明かし、現実へ脱出する

 

●導入 1日目午後:各々豪雪で立ち往生した所を洋館に辿り着き宿泊する事になる

 

●1日目夜:吹雪が悪化 現実と乖離している事に気付く 殺人事件発生

 

●2日目以降:自由探索 殺人事件発生

 

●後半~終盤:作家の部屋を発見 箱庭の真相に気付く

        屋敷内で文庫のページを回収しつつ探索を進行

 

●クライマックス:鍵の発見 箱庭から現実への脱出

 

 

 

シナリオ背景

 人気ミステリー作家である一ツ谷 史郎(ひとつや しろう)はひょんな事から魔導書を手に入れ、そこからゴグ=フールの存在を知り接触する。そしてそれ以降、彼は魔術の力を手に入れ、それによって自らの作品の世界を異空間の箱庭として作り上げ、そこに自らが主人公の探偵役として身を投じて試行錯誤する事で質の良い、よりリアリティのある物語を生み出していた。この秘密の製法は彼が名声を博して以降全ての作品で行われてきたが、その度に代償としてゴグ=フールに精神を喰われ、一ツ谷は徐々に正気を失っていった。とうとうすっかり狂気に陥った一ツ谷は、最期の作品となった『αの謳うメメント・モリ』の執筆途中でゴグ=フールに襲われて命を落とし、この世を去ってしまう。

 

 一ツ谷はそれまで作品が完成した後には作り出した異空間を自らの魔術で終了させていたが、作品作りの最中で一ツ谷が死亡した為、『αの謳うメメント・モリ』をモチーフにした異空間は管理者を失った状態で放置されてしまった。ゴグ=フールはその空間に住み着き、外部の人間をそこへ呼び込んでは物語に沿ってそこで起きる殺人事件を利用して食らい始める。この異空間は全てが一ツ谷の構想した作品に基づいている為、「寒い雪の日の夕方」に「豪雪に見舞われ立ち往生」という条件を満たした場合のみ現実との狭間を歪め、外界へと入り口を繋いで人間を迷い込ませる事が出来る。探索者達はこの条件に合致した為に異空間の洋館へと迷い込んでしまう。

 外界から迷い込んだ人間以外の、洋館の使用人などの人物は全て一ツ谷が設定した「物語の登場人物」であり現実には実在しない架空の人物である。彼らは自分が架空の存在である自覚は持たず、あくまで普通の人間と同じ自我を持っているが、その来歴や行動などは小説の筋書きに基づくものである。

 

 本シナリオでは探索者の中にイレギュラーである「PCα」が1名混在している。PCαは他の探索者と同様に豪雪を避ける為に洋館を訪れるが、実は他のNPCと同様に一ツ谷の小説の登場人物である。この事実はPCα自身も、そのPLも把握していない状態からシナリオが開始される。PCαは一ツ谷の小説の草案では「殺人事件の犯人」とされているが、『αの謳うメメント・モリ』はまだ草案段階でPCαの殺害行動や動機について決定されていない為、異空間内でPCαが殺人を起こす事はない。シナリオ中での殺人事件の犯人はその筋書を利用しているゴグ=フールの仕業である。

 本シナリオの目的は屋敷の異空間の真相を暴き、放置されたまま悪用されているそれを一ツ谷の手順に沿って終了させる事である。ただし、真相を解明する最中でPCαだけは自身が架空の人物であり、その異空間と共に消滅する存在であるという事実を突きつけられる。PCαの決断も、本シナリオのエンディングを飾る重要な要素となる。

 

 

 

PCαについて

 PCαは一ツ谷の遺作となったミステリー小説、『αが謳うメメント・モリ』の草案で殺人事件の犯人となる予定だった架空のキャラクターである。ただしシナリオ開始時、この事実はPCαのPLも含めた全PLに公開されない。PCαの人となりや職業、遠出の理由などはPLに自由に決めさせて良い。PLが定めた設定が、「一ツ谷が小説内で定めたPCαの設定」という事になる。

 黒幕という小説内で重要なポジションにあったPCαは他のNPCに比べて草案段階で未決定の部分が多く、他のNPCが小説の筋書きに沿って行動するのに比べてPCαは本人の意志に基づいて行動する事が出来る。また、「犯人である」という設定はあるものの、小説の具体的な筋書や殺人事件の流れが書かれていない為、PCαが殺人事件を起こす事はない。シナリオ中での殺人事件はあくまで小説の筋書きを離れたゴグ=フールによるものである。

 

 本シナリオにてPCαが生還するルートはきちんと用意されている。選択によっては現実に実在する人間として存在を得て、継続探索者として扱う事が可能な様になっている。ただし、選択によっては現実に実在しなかった小説の登場人物としてロストする事になる。

 

 シナリオ中、PCαが「自身が架空の存在である」という事実を知った場合、即座に1D6/1D10の【SANチェック】が発生する。また、もしも決定的な情報を掴む前でもPLがその可能性を考えた場合、【アイデア】を振らせてその直感が正しいのではないかと思わせても良い。その場合、その考えに至った時点で1D3/1D4の【SANチェック】が発生するが、その後決定的な事実を見つけた場合のチェックを1D3/1D4に軽減しても良い。

 

 PCαは以上の通り特殊な設定をシークレットで持つ事になる為、KPは事前にどのPLをPCαに割り当てるかよく考えて決める事。このような意図しない特殊設定を嫌う人や、CoCに慣れていない初心者を割り当てる事は望ましくない。シナリオの最中、突然自分のPCにとっての衝撃的な事実を突きつけられたとしても、それを楽しんでもらえるようなPLを選ぶ事。

 

 

 

主要NPC

三宮 裕一(みつみや ゆういち) 屋敷の主人

性別:男 年齢:36

STR13 CON13 POW12 DEX9 APP13

SIZ14 INT14 EDU18  

HP:14 MP:12 DB:+1D4

SAN:60

 

 莫大な資産を持つ名家である三宮家の当主であり、屋敷の主人。両親も既になくなっており未婚の為、三宮家の財産を欲しいままにしているが欲はなく、屋敷で自分の興味のある事について勉強する生活を送っている。

 おおらかな性格であり、雪の激しく降る夜にはよく近くの道で立ち往生した人を屋敷に泊めている。探索者達にも快く夜をしのぐ場所と温かい食事を提供する。

 

 

 

識見 秀夫(しきみ ひでお) 屋敷の執事

性別:男 年齢:64 

STR9 CON13 POW10 DEX7 APP11 

SIZ15 INT12 EDU22  

HP:14 MP:10 DB:なし

SAN:50

 

 三宮裕一に仕える屋敷の執事。裕一の父親の代から三宮家に仕えており、裕一の幼少期から今に至るまで傍で世話をしている。落ち着いた雰囲気の長身の老紳士。

 屋敷内の細かな仕事全ての管轄もしており、探索者達の様な客人のもてなしも行う。

 

 

棚橋 仁美(たなはし ひとみ) 屋敷の使用人

性別:女 年齢:22 

STR10 CON11 POW13 DEX14 APP11 

SIZ9 INT13 EDU12  

HP:10 MP:13 DB:なし

SAN:60

 

 三宮裕一に仕える屋敷の使用人。今日日珍しいクラシカルなメイド服と丸眼鏡が印象的でやや時代錯誤的な女性。気が弱く引っ込み思案。

 主に食事の手伝いや掃除などをしており、頼めば雑用もしてくれる。

 

 

滝沢 廉次(たきざわ れんじ) スノーボーダーの若者

性別:男 年齢:25 

STR15 CON14 POW10 DEX12 APP13 

SIZ15 INT9 EDU12  

HP:15 MP:10 DB:+1D4

SAN:50

 

 スノーボード旅行に向かう途中豪雪に遭い屋敷に宿泊する事になった若者。金髪と無数に開いたピアスが特徴的な今風の見た目と、その印象を裏切らない崩れた口調や態度のやや横暴な男。職業はフリーター。泊めてもらえる事には感謝を示すものの、屋敷にテレビがない事やビールが飲めない事など小さな事にいちいち文句をつける。

 

 

樋田 純也(ひだ じゅんや) 不運なビジネスマン

性別:男 年齢:41 

STR16 CON15 POW9 DEX10 APP10 

SIZ14 INT14 EDU16  

HP:15 MP:9 DB:+1D4

SAN:45

 

 仕事で出張先に向かう途中豪雪に遭い屋敷に宿泊する事になった男性。短く整った黒髪とかっちり着込んだスーツが印象的ないかにもステレオタイプのビジネスマン。不愛想で口数が少ないが礼儀は正しい。趣味でボクシングをしている為意外にも身体能力は高い。

 

 

 

 

 

◆敵性NPC

 

ゴグ=フール 狂気を喰らう異次元の化物 マレモンp.171

  

 異次元に棲む巨大な化け物。人間の恐怖や狂気を喰らう。本来は狂気に陥った人間のみを鏡面や水面などから伸ばした触手で捕らえて喰らうが、異空間である小説の箱庭の中ではそこに居る人間を直接襲って喰らう事が出来る。

 基本的にシナリオ内に登場する事はないが、時間制限などを設ける場合は必要に応じて鏡の中から触腕を登場させるなどしても構わない。

 

 

 

 

アブホースの落とし子 書き綴られた異界の化物 マレモンp.18

 

HP:12 MP:12 DB:なし

目撃による【SANチェック】0/1D6

1ラウンドに1D20ポイントの耐久力回復

触腕 40% 1D6

 

 灰色の泥状のクリーチャー。一ツ谷が書いた原稿の筋書きに基づいて箱庭内に出現する。依り代となる原稿を元にして生成されているが、元となっているのは一ツ谷が夢で遭遇した本物のアブホースの落とし子であるため、外見や能力などの諸情報は実際のアブホースの落とし子に準拠する。

 

 

 

 

ムーン=ビースト 書き綴られた異界の化物 マレモンp.45

  

 ドリームランドに住む異生物。一ツ谷が書いた原稿の筋書きに基づいて箱庭内に出現する。依り代となる原稿を元にして生成されているが、元となっているのは一ツ谷が夢で遭遇した本物のムーン=ビーストであるため、外見や能力などの諸情報は実際のムーン=ビーストに準拠する。

 

 

 

シナリオ本文


シナリオ本文の読み方

 

 

・地の文…KP向けの状況説明および処理に関する記述など、シナリオ本文のメイン部分です。適宜目を通しながら進行してください。

この背景色で括られている箇所はPLには非公開のKP向け説明です。
KPが状況を把握する為の情報なので、基本的にPL及び探索者には公開しません。

 

・読み上げ文…情景描写の文章、もしくは文章媒体での情報の内容です。この文章はそのままPLへ向けて読み上げ・提示を行って構いません。

 

・ダイスロール文…SANチェック及び各技能などの処理です。技能のダイスロールについては、”※強制”の記述がない場合振れる技能の提案の有無などはKPにお任せします。


1.導入

 季節は冬。探索者達は各々自由な理由で北方へ向かう事になる。探索者全員が統一出来れば、北海道であれ東北であれ詳細は問わない。また、導入は各探索者がそれぞれ個別に行動する事になるが、まとめて処理しても良い。屋敷への到着前に全員を合流させても構わないし、到着時間は前後する事にしても良い。到着時間をばらけさせる場合、「3.導入イベント:滝沢の到着」までの間で任意のタイミングでそれぞれの探索者を屋敷に辿り着かせる事。

 

 時刻は夕刻16時頃。元々日本では近年稀に見る大雪が予報されていたものの、道中降雪の勢いは増し、吹雪に見舞われた探索者達は目的地まで到達する途中で立ち往生してしまう。車であれば他に走行する車もない中スリップして道から外れてしまう、電車であればその後徒歩の道中で吹雪に視界を奪われ道から外れて迷ってしまう、などと処理する。いずれの場合も携帯の電波は届かず、外部に助けを求める事は出来ない。

 探索者達が途方に暮れていると、視界を白く染めて体の芯まで凍らせる様な激しい吹雪の中、遠くにぽつんと建物の明かりが見える。他に人家や建造物は見当たらず、豪雪をやり過ごすにはその建物へ向かうより他なさそうだという事をPLに伝え、探索者達を屋敷へ誘導する。

 

 この時点で探索者達は異空間の次元へ迷い込んでいる為、どれだけ歩いても元来た駅などに戻ったり、他の人間や街を見つける事は出来ない。PLが探索を望んだ場合、屋敷のほかには何もない一面の銀景色である事を伝え、不自然さを強調しても構わない。

 

 明かりを頼りに進んで行くと、吹雪の中一軒の洋館に辿り着く。どこか古めかしい造りながら重厚な壁や窓は激しい吹雪をものともせず、窓の内側からは暖かい色の明かりが漏れている。二階建てで規模はそこまで大きくない。

 正面の玄関口と、裏手に回れば勝手口があるがどちらも鍵が掛かっている。玄関の方にはチャイムがついており、鳴らせば少しの間の後に扉が開いて執事服に身を包んだ識見が現れる。

 

「おや、これはどうなさいました。吹雪に見舞われた旅行者の方でしょうか?」

扉の中から現れた老紳士は、来訪者達を見てさして驚くでもなくそう声を掛けた。そしてすぐに扉を大きく開き、暖かい空気に満たされた室内へと見ず知らずの来訪者達を招き入れる。

「この大雪では旅路もままならないでしょう。さ、それ以上冷えては大変です。中へどうぞ」

 

 中に入り扉が閉まると冷たい吹雪は完全に遮断され、暖房のきいた温かい室内の空気が探索者達の冷えた体を温める。玄関扉をくぐった先は広々とした廊下があり、正面に大きな両開きの扉が見える。少しばかり古びた様子の壁の木材からは年季が感じられ、床に敷き詰められた重厚な赤いカーペットは音もなく探索者達の足元を包み込む。小説やドラマで目にする洋館、お屋敷といった感じの内観である。

 識見は探索者達に玄関口で体の雪を落として待つ様に言って、主人である三宮に知らせる為階段を上がって二階へと向かう。それからそう長く掛からず識見と三宮が二階から降りてきて、探索者達に挨拶する。

 

「皆さん、吹雪から避難していらした方々ですね」

識見と共に階段を下りてきた中年の男性が、柔らかな声音で声を掛ける。仕立ての良さそうなジャケットに身を包んだ男は、振る舞いからも品の良さが感じられる。

「初めまして。私は三宮裕一。ここで寂しく暮らしている独り者です」

男は眉を下げて温和そうに笑うと、玄関で立ち尽くしていた来訪者達に中へ入るよう手招きした。男が先導する様に正面の扉を開くと、その向こうにはどっしりとしたテーブルが天井のシャンデリアに照らされている、大部屋の様子が見える。

「大層お体も冷えたでしょう。どうぞダイニングへ。すぐに温かい飲み物をお出しします」

 

 三宮は探索者達を正面のダイニングルームへ通し、温かい飲み物でもてなす。その後の処理は次項で記載する。

 

 

 

2.導入イベント:ダイニングルームにて

 探索者達はまず屋敷のダイニングルームに通される。詳細な部屋の情報については平行して4-1.ダイニングルームを参照する事。

 ダイニングルームは普通の家の数倍ものスペースがあり、その中央に10人程は座れそうな大きな長テーブルが鎮座している。壁の随所に燭台を模した照明が設置されている他、天井からは絢爛なシャンデリアが下がっている。

 壁の一角にはクラシカルな暖炉が設置されている他、何点か西洋風の絵画が掛けられている。

 

★導入直後のイベント

 探索者達がダイニングルームへ通されると、中央のテーブルではスーツの男性が一人姿勢を正して椅子に腰かけている。男は探索者達に気が付くと軽くそちらへ向き直って頭を下げる。彼はビジネスマンの樋田であり、探索者達よりも一足先にこの屋敷に辿り着いて探索者達と同様に屋敷へ迎えられた。
 識見は探索者達を席へ誘導すると厨房へ紅茶の支度をしに行く。三宮はテーブルの一番端、中央の席に座ると探索者達に樋田を紹介する。ここで三宮、樋田と改めて対話する時間を設け、PLが気になる事があれば会話の中で答えさせる。代表的な情報は以下の通りだが、各NPCの心理や言動の指標など不明な点があれば別途資料ページを参照する事。

 

 <三宮の簡易情報>

・屋敷の主人。他に屋敷には執事の識見、使用人の棚橋が居る

・元々資産家の家系である三宮家の一人息子で、両親が他界してからは識見、棚橋と屋敷に三人で暮らしている

・海外に会社を持っているが、実働的な部分は殆ど部下に任せている為本人は屋敷でのんびりと暮らしている

・雪の降る日にはよく近くの道路で立ち往生する旅行者が居る為、毎年そういった人には雪が収まるまで宿を貸す事が多い

 

 <樋田の簡易情報>

・とある商社で働くごく普通のサラリーマン

・出張の往路で豪雪に見舞われ、車が立ち往生してしまった所を三宮邸を見つけ助けてもらった

・屋敷に来たのは探索者達が来る数十分程度前

 

 三宮や樋田の会社について、あるいは三宮家について、PLから宣言があった場合は【知識】ロールを試みても良い。しかし、成功したとしても探索者達はその名前に覚えがない。ただし、PCαのみはロール成功で「そんな名前の会社を聞いたことがある様な気もする」と思い出す。

 これは三宮や樋田が小説の登場人物であり現実には実在しない為である。他の探索者達は当然実生活の中でその名を聞いた事がないが、同じ小説の登場人物であるPCαは「設定上それらの社名を耳にした事程度はある」のである。

 

  暫くすると識見と、クラシカルなメイド服に身を包んだ若い女性(棚橋)がティーワゴンを押して厨房から出て来る。三宮は棚橋の事を来訪者達に紹介し、棚橋は小さな声で一礼する。ティーワゴンには紅茶と茶菓子の用意があり、探索者達と樋田に振る舞われる。

 三宮はこの辺りは電波も悪くどのみち雪が収まるまで車での移動も難しい為、雪が収まるまで屋敷に泊まるように勧める。屋敷には客室が数多く備えられており、探索者達とNPCの来訪者達を合わせても容易に一人一部屋を宛がう事が出来る。三宮は雪が収まるまでは遠慮なくホテル代わりにしてくれと来訪者達に伝え、お茶が済んだら部屋を案内する旨を伝える。

 

 

 

 

3.導入イベント:滝沢の到着

 「2.導入イベント:ダイニングルームにて」のやり取りが済んだ辺りで滝沢が屋敷に到着する。

 

 貴方達がお茶を楽しんでいると、不意に玄関の方からチャイムの音が鳴り響く。識見がすぐに玄関へと向かったのを見て三宮はゆっくりと席を立ちながら、「失礼。また皆さんの様なお客さんかもしれません」と笑って玄関の方へと出て行く。

 

 探索者達が玄関へと様子を見に行った場合、スノボウェアを羽織った金髪の若い男(滝沢)が体に付いた雪を振り落としながら屋敷の玄関口へと上がる所が見える。ボードの入っているであろう鞄を小脇に抱えた姿はいかにもスノーボードを楽しみに来た旅行客といった様子である。玄関へ向かわなかった場合でも、滝沢はボードの入った鞄を識見に預けると三宮と共にダイニングルームへと入って来る。

 

「うおっ、すげえ。マジでお屋敷じゃん……」

 扉を開けて大股で部屋へ入ってきた若い男は、天井のシャンデリアや壁の絵画を見回して大きな独り言を漏らす。まだ完全に雪を落としきれていない衣服から部屋の暖気で溶け落ちた水滴が床のカーペットに滴るが、そんな様子にも三宮は気にする様子もなくにこにこと笑って男に空いている椅子へ座るよう手招きした。

 

 滝沢は探索者達や樋田と同様に立ち往生して屋敷へと助けを求めてきた旅行客である。見た目の印象と違わない今時の若者である彼は、屋敷の上品な風貌に驚きはするものの、その主人である三宮や一回り以上年上の樋田にも遠慮した様子がなくやや傍若無人な印象を周囲に与える。ただし性格としては外交的で、探索者や樋田に対しても積極的に話しかけ、同じ境遇だと知ると「こんな豪邸に泊まれて俺らラッキーだな」と大声で笑う。

 遅れてきた滝沢にも紅茶が振る舞われ、会話が一段落ついた所で三宮は改めて来訪者達に部屋や屋敷全体を案内しようと声を掛ける。

 

 探索者及びNPCが全員揃った後、三宮は屋敷全体を歩いて回り一通り部屋の説明を行う。この時点でPLに屋敷の地図を提示する。⇒資料:屋敷の地図を提示

 客室を紹介した所で三宮は客人たちに泊まりたい部屋を選ぶように言う。部屋は全て同じ間取りなのでどこを選んでも大差はないが、滝沢が我先にと「端っこの部屋がいい」と1号室を選び取る。樋田は余った部屋で構わないと言う為、探索者達に好きに部屋を選ばせて良い。部屋は全て一人部屋だが、探索者達が特別強く要求するのであれば一部屋に複数人を泊めても構わない。

 三宮は彼自身や識見、棚橋の部屋には勝手に入らないよう言うほか、物置や厨房なども特に客人の入る様な場所ではないと伝えるが、それ以外は基本的に好きに使用して構わないと探索者達に言う。食事の時間などには声を掛けるが、他に何か分からない事があれば識見か棚橋を見つけて訊ねる様にと説明する。この案内の際、以下の点を特に強調して描写する事。

 

  ・棚橋はDIYが得意で、家事室には大きな工具箱も揃えられている事

  ・物置のドアノブには不似合いなフクロウの金細工が施されている事

 

  一通りの案内が済み玄関ホールへ戻ってきた所で午後6時頃とし、午後7時の夕食まで自由時間とする。時間になったらダイニングルームへ来る様にと探索者達に伝えた上で、時間まで各自自由探索時間となる。

 また、このタイミングで探索者全員に目星を振らせる。

 

※強制【目星】玄関扉の脇に紙が一枚落ちている

 

・記憶文庫p.1

両面に活字が整然と並んだその紙は、破れた本のページの様に見える。それぞれの面の隅には「1」、「2」という数字が記されている。

 

『 私はいつものように秘密の鍵を使って、箱庭へと向かった。今度の作品の舞台は豪雪降りしきる洋館だ。犯人は来訪者の中に居る。その筋書以上の詳細はまだ何も定まっていないが、まずはこの身でもって舞台の様子を味わう事が先決だろう。これまでも、私の作品はこうして完成されてきた。あの悪魔との契約は魂を根こそぎ奪われる様な恐怖を孕み、しかしそれでいて確かに私の作品を一つ上の段階へと引き上げたのだ。この作品は私の集大成となる。これ以上に大事なものが他にあるだろうか。

 屋敷の門を叩けば、執事服に身を包んだ長身の老人が戸を開けて私を中へと招き入れた。ここでは、私は来訪者の扱いとなるようだ。肩の上で溶け始めた雪を払って、私は三宮邸へと足を踏み入れた。』

 

  「記憶文庫」は一ツ谷が自身の箱庭での検証を記録に残す為に使用していたアーティファクトであり、一ツ谷が最後に「αの謳うメメント・モリ」の箱庭に入り、ゴグ・フールに喰らわれるまでの出来事が記録されている。

 このページは最初のページであり、一ツ谷が箱庭に入った際の状況を描いている。

 

 

 

 

 今後の各部屋の詳細情報に関しては以降の4.屋敷内の探索場所を参照する事。時系列やトリガーごとに起きるイベントに関しては、別途個別項目にて解説する。

 

 

 

 

4.屋敷内の探索場所

4-1.ダイニングルーム

 食事をする為の広々としたダイニングルーム。部屋の中央には左右に5脚、両端に1脚ずつの計12脚もの椅子を備えた長テーブルがある。壁の随所に燭台を模した照明が設置されている他、テーブルの真上には天井から豪華なシャンデリアが下がっている。壁面には一角に暖炉、そして何点か西洋風の絵画が掛けられている。

 

 

◆テーブル

 12脚の椅子を備えた長テーブル。食事は此処で行う事となる。艶やかな木目が美しいテーブルで、映画に出て来る様な重厚なインテリアという印象を受ける。

 

◆シャンデリア

 部屋のメインとなる照明。部屋の中央、テーブルの真上に位置する。豪華な硝子細工の照明が規則正しく並んだ大きなシャンデリア。 

 

◆暖炉

 暖炉の上には立派な鏡が壁に掛けられている。

 特に重要な情報はないが、詳しく調べる宣言があった場合、「鏡の向こうに映る自分がじっと此方をにらんでいる様に感じる」など、不安を煽る様な描写を挟んでも良い。

 

◆絵画

 まちまちなサイズの絵画が何点か壁に掛けられている。どれも豪華な額縁の中に収められており、値打のある美術品の様に見受けられる。ただし、【知識】【芸術】ロールを行っても見覚えのある絵は一点もない。また、三宮らに訊ねた場合「有名な画家の作品である」と答えるが、画家の名は度忘れしてしまったと言われる。

 それぞれの絵画は色鮮やかな絵の具で鮮明に表現されているが、いずれも写実的というよりは抽象的で、何が描かれているのか一見はっきりしない。よくよく観察してみれば、そこに描かれているのは水辺から覗くらんらんと光る赤い瞳や、槍の様なものを構えた白っぽい生き物が牙をむく様子、奇怪な形の生き物とその傍らに描かれた大量の人型が赤い絵の具に塗りつぶされた様子である。ピカソのゲルニカの様な、何かひどく恐ろしい情景を描いた様な印象を受ける。眺めていると段々と不安になって来る。

 

【SANチェック】0/1

 

 これらの絵画は一ツ谷の想像によって生み出された架空の作品である為、実在する作者名も作品名も存在しない。絵のタッチは一ツ谷の思い浮かべる所謂「絵画」のステレオタイプとなる西洋画、絵の内容は一ツ谷が狂気の夢想の中で遭遇した無数の神話生物である。

 

 

 

 

4-2.厨房

 ダイニングルームに隣接する厨房。調理室と配膳室を兼ねている為、かなりのスペースがある。基本的には棚橋と識見が出入りし、客人は立ち入らない事となっている。

 調理スペースには冷蔵庫、コンロ、オーブン、シンク、調理棚などの一通りが揃っている。配膳スペースには食器棚が設置されている他、ティーセットやワイン置き場も併設されている。

 調理室・配膳室の設備に対して何か具体的な物品を指定して探す場合、あって妥当なものであれば【目星】【幸運】で見つかる事にして良い。(例:包丁、空のワインボトルなど)

 

◆冷蔵庫

 家庭用にしてはかなり大ぶりな冷蔵庫に、多くの食品や食材がぎっしりと詰まっている。3人しか住んでいないものの交通の便が悪い為、食料の備蓄は豊富である。

 客人を含めた人数でも2週間は持ちそうな程度の量がある。

 

◆コンロ・オーブンなどの調理器具

 特に変わった点はない一般的な調理器具。ただし大人数用の調理が出来る様、どれも家庭用の一般的なものよりは規模が大きい。

 

◆調理棚

 食器は配膳スペースの方に収納されている為、包丁やホイッパー、フライパン、大鍋などの調理に用いる道具が揃っている。通常の家庭にないような大振りな出刃包丁なども用意されている。

 

◆食器棚

 配膳スペースの食器棚。3人分に加えて客人用に皿やカップなどの食器セットが収められている。どれも上品な陶器の器である。

 

◆ワイン置き場

 温度調整されたガラスケースの中にワインボトルが並んでいる。赤も白も揃っており、ワインに詳しい探索者が居ればかなり豊富な種類が揃えられている事が分かる。

 

 

 

4-3.談話室

 客人がくつろぐための広々とした部屋。娯楽室も兼ねており、大きな4人掛けのソファが2脚ある他、ビリヤード台やダーツ、小さな本棚も用意されている。また、部屋の端にはテーブルとクーラーボックスがあり、常にいくらかの茶菓子と冷えたドリンクが用意されている。

 

◆ソファ

 4人掛けのソファが2脚向かい合っている中央にローテーブルが置かれている。柔らかなソファはゆったりとくつろげる良い座り心地。

 

◆ビリヤード台

 ごく普通のビリヤード台。遊戯する為の道具は一通り揃っている為、ビリヤードを楽しむ事が出来る。

 

◆ダーツ

 ごく普通のダーツボードが壁に設置されている。ただしハードダーツである為ダートの先端は金属製で鋭利に尖っている。人に向かって投げた場合1D2のダメージ。

 

◆本棚

 部屋の角に設置された小さな本棚。エッセイや小説、雑誌など意外にも幅広いジャンルの本が並んでいる。また、読み物だけでなく世界各国の言語の辞書までも取り揃えられている。

 ※本棚には古典ラテン語の辞書も存在する。ただし、これはPLから宣言があるまで【図書館】などの技能で提示してはならない。

 

【図書館】一番新しいもので先月の週刊誌を発見する

 

 ・週刊誌

   雑多な世間のニュースが掲載された週刊誌。流し見していると、以下の記事が目に留まる。

 

『世紀のミステリー作家 衝撃の失踪 事件は迷宮入り

 

 今月二十日、ミステリー作家の一ツ谷 史郎氏(37)が行方不明になったとして捜索願いが出された。届け出から一週間経過した今も一ツ谷氏の消息は掴めず、一向に手がかりはない。

 最後に目撃したのは妹の一ツ谷 佳乃さん(33)であり、失踪の前夜まで一ツ谷氏の自宅にて一緒に食事をしていたと言う。失踪当時、警察が自宅の捜索に入った所、携帯電話や財布、仕事道具などが全て置かれたままの一ツ谷氏の自室には内側から鍵が掛かった状態だった。多くの名作ミステリーを生み出してきた作家が密室となった自室から煙のごとく姿を消してしまったこの事件は、まだ暫く世間を騒がせる事となりそうだ。』

 

【知識】一ツ谷 史郎という作家、及び失踪事件を知っている

 ※ただし、PCαはロール不可・成功したとしても一ツ谷について知らない

 

 ここでの【知識】ロールはPCαとそれ以外で判定が異なる為、PCαの特別性にPLが気付かないようにする為にはクローズドでKPがダイス判定を行うと良い。

 技能に成功した場合、探索者は一ツ谷がここ数年で突如人気に火がつき多くの賞を獲得している話題のミステリー作家であるという事と、その一ツ谷がつい先月行方不明になったとしてニュースになっていた事を思い出す。もしも特にミステリーを好む愛書家であるか一ツ谷のファンである等という探索者が居た場合、一ツ谷が新作の執筆真っ最中にその様な失踪の報道がされ、多くのファンがひどく落胆しているという事も知っている。

 

◆テーブルとクーラーボックス

 茶菓子とドリンクがある。ドリンクに関してはあって自然なものの範囲でPLが望むものを与えて良い。ただし酒は三宮がワインしか飲まない為ワイン以外は用意されていない。

 談話室に滝沢が居るタイミングでクーラーボックスを調べると、それを見た滝沢が「飲み物は色々あるけどよ、ビールがねーんだよ。ったく、気が利かねぇよな」と屋敷への不満を探索者たちに漏らす。

 

 

 

4-4.応接室

 客人を通して話をする為の部屋。部屋自体の規模は劣るが、ダイニングと同様に豪華なシャンデリアと、床に敷かれたつややかな絨毯が印象的な、高級感漂う一室。部屋の中央にはローテーブルとそれを囲むように3人かけのソファが3つ設置されている。

 相応の客人をもてなす為の部屋なので特に探索者達が使用する理由はないが、談話室などではなくあえて此方でくつろぎたいと申し出た場合は断られる事はない。

 

◆シャンデリア

 豪華な作りではあるが、ダイニングルームのものよりは規模が小さい。

 

◆ローテーブル

 ソファの中央に設置されているガラス張りのローテーブル。上にはレースがあしらわれたクロスが敷かれている。 

 

◆ソファ

 3人掛けのソファが3つ用意されている。いずれも殆ど使われた形式がなく真新しい。

 

 

 

4-5.物置

 不要なものをしまっておく為の物置。物置らしいごく質素な木製の扉に、黄金色のフクロウを模した装飾つきのノブがついている。鍵穴はついているが、鍵は掛かっていない。

 談話室の週刊誌で一ツ谷の記事を見た後の場合、【アイデア】を振る。

 

【アイデア】写真に写る一ツ谷の書斎も同じフクロウの装飾付きの扉であったと思い出す

 

※(欠けた状態であったとしても)フクロウの栞を所持している者が扉を開けた場合、物置ではなく一ツ谷の書斎へと繋がる。⇒4-15.一ツ谷の書斎 へ

 

※フクロウの鍵で扉を開けた場合、エンディングへ続く⇒22.エンディング へ

 

 

 中はそこそこの広さでよく整頓されており、立ち並ぶ棚には掃除用具や普段使わないであろう工具類、古くなった調度品などがしまわれている。

 何か具体的な物品を指定して探す場合、あって妥当なものであれば【目星】【幸運】で見つかる事にして良い。

 

 

 

4-6.トイレ

 ごく普通の洋式トイレ。男女用で分かれており、それぞれ便座は1つしかないものの洗面台もセットになった個室空間は広々としている。

 

 

 

4-7.バスルーム

 広々としたバスルーム。脱衣スペースと浴室がセットになっており、部屋の手前には大きな鏡と洗面台、奥には猫足のバスタブとシャワーが設置されている。

 浴室は1つしかないが、客室にはそれぞれ簡単なシャワールームが備え付けられている為、そちらを使用する事も出来る。

 

 

 

4-8.家事室

 家事全般を行うための部屋。主に棚橋が使用しており、客人向けのスペースではない。アイロンや裁縫など、家事全般を行うための道具とスペースが用意されている他、洗濯機や乾燥機もこの部屋にある。一般的な家事に加え、ちょっとした改装や修理作業も棚橋が行ってしまうため、一般家庭よりも多少大掛かりな道具類も用意されている。

 ※工具箱はクライマックスで利用できるため、屋敷案内でこの部屋を通った際に三宮の口から「仁美はああ見えて所謂DIYも得意でね、こんな大掛かりな工具箱まであるんだ」などと強調すると良い。

 

【目星】一般家庭のものより大分大掛かりな工具箱が見つかる

 

 工具箱の中にはレンチなどをはじめとし、様々な工具類が収納されている。一般家庭に常備してあるものよりもかなり規模が大きく、道具の種類が多い。

 大きい工具類は宣言があれば武器として使っても良い他、クライマックスで水道管を開く場合に使用する事が出来る。

 

 

 

4-9.客室

 2階に8部屋ある客室。全て同じ間取りであり、特に変わった点はない為以下に纏めて記載する。便宜上マップ上の位置順に1~8号室とし、滝沢が宿泊したがる端の部屋を1号室とする。

 部屋にはベッド、コート掛け、ローテーブルと椅子、デスクなど一通りの家具が用意されている。また、シャワールームとトイレも併設されている。

 扉には内側から鍵を掛ける事が出来るが、三宮、識見は鍵を所有している為施錠してあっても開ける事ができる。

 

 

 

4-10.三宮の部屋

 三宮の私室。勝手に入らないように最初に言われる部屋の一つ。内側から鍵を掛ける事が可能で、三宮は常に鍵を掛けている。勝手に鍵をどうにかして入ろうとした場合、識見や棚橋に見つかると注意される。

 客室と同様の設備に加え、本棚とデスクの上に置かれたノートPC、壁の一角には巨大な姿見がある。

 

 ◆本棚

 小説や雑学本等、様々なジャンルの本が並んでいる。

 

【図書館】本の合間に、紐で閉じられた原稿用紙の束を見つける

 

 ・依り代となっている原稿

 手書きの文章が記された原稿用紙の束。目を通すとそれは小説の様だった。内容を要約すると以下の通り。

 

『 激しい雪の降りしきる夕暮れ。雪の為車の走行は難しく、人を呼ぼうにも携帯の電波も通じない。あわや遭難かという所で遠くにぼんやりと見えた明かりは、三宮邸のものだった。一面の雪原の中、三宮邸のみが唯一吹雪を防ぎ暖を得られる安全地帯だ。出張の道中だったビジネスマンの樋田、スノーボードを楽しむ為北方を訪れていた滝沢、○○(PCαの苗字)もまた、この明かりに誘われて三宮邸を訪れた。

 来訪者達は雪が収まるまで三宮邸に宿泊する事になるが、その夜、三宮氏が何者かに殺されてしまう。深夜足音を聞いたという者は居るものの、皆睡魔に負けてその場を確かめていない為に犯人の手がかりは何もない。屋敷内は俄然騒然となり、皆の胸中に殺人鬼に対する不安が湧きたち、その疑念は執事の識見へと向けられる。

 しかしその後、識見を監視している最中、今度はメイドの棚橋が殺害される。第二の事件に来訪者達が困惑していると、更に続いて識見自身も変わり果てた姿で発見される。』

 

【アイデア】三宮の死亡については状況が詳細に書かれているが、それ以降は「殺された」という事実以外の情報の描写が薄いと感じる

【目星】原稿用紙の裏に、何か複雑な紋章の様な印が押されている

 

PCαがこの原稿を見た場合、PL及びPCが不安を感じるようであれば
【SANチェック】0/1

 

  この原稿が箱庭を生成する際の基盤となった「依り代」である。此処に記されている内容を元に箱庭内での物語が進行している。ただし、犯人は未設定のまま殺人の流れのみが書かれている為、被害者NPC達を殺した”犯人”は存在しない。また、一件目の三宮に関しては状況が細かく描写されており、シナリオ中でもその描写に忠実に殺害されるが、棚橋以降は「殺される」という描写しか決定していない為、詳細な状況はシナリオ中の状況に応じて変化する。

 この資料はシナリオの核心に関わる内容ではあるが、設定の裏付けの意味合いが強い為、基本的に回収しなくてもゲームのクリアには支障がない。

 

★依り代の原稿への干渉について

 依り代の原稿には魔術的な力が働いている為、内容を書き換える等して箱庭での事象を捻じ曲げる事は出来ない。探索者が内容に加筆するなどしようとした場合、書いた内容が立ちどころに消えてゆくのを目の当たりにする。【SANチェック】0/1

 ただし、原稿全体を破り捨てる・燃やすなどで丸ごと破壊する場合、その原稿は依り代としての力を失効し、書いてある内容は効力を喪失する。ここまでPLから宣言があった場合、原稿を破壊する試みを容認しても良い。しかし、三宮死亡までは 1枚の原稿に書かれており、これを破った場合は前提となる「屋敷の存在」が崩壊する為、箱庭終了の呪文を唱えた場合のエンディングと同様の進行となる。⇒22.エンディング

 単独の事象として破壊できるのは「識見の死亡」「棚橋の死亡」のみであり、これらを事前に破壊した場合、該当するNPCは死亡しなくなる。

 事後に破壊した場合、該当するNPCの死体が再生し、他のNPC及びPCαからも「該当NPCの死亡」に関する記憶が消滅する。この事象を体験した場合、PCα以外の探索者は【SANチェック】1D2/1D4

 

◆デスク

 引き出しの中には鍵束が一つ入っている。これは三宮が常用している屋敷の鍵で、全ての部屋の鍵を開錠することができる。

 

 ◆ノートPC

 ロックが掛かっており本人以外はアクセスする事ができない。【コンピュータ】などでハッキングを試みた場合、内部を見ても良いが取り分け必要な情報は特にない。

 内部には三宮の会社関連の書類や、株式市場のデータと思しき資料が入っているが、どれも体裁は整っているものの具体的な内容の項目が全て「******」というダミー入力になっており、中身が正しく入っていない事が分かる。

 

  これらは三宮の仕事用の資料であるが、「仕事用の資料である」という設定以上の中身が存在しない為、実数値などの内容部分が見せかけのみになっている。「この世界が作り物であり表面的なもの以上の詳細が不明確である」という演出だが、要らないミスリードを招く様であれば適宜KPから誘導や情報を加えてしまって良い。

 

 

◆巨大な姿見

 個人の部屋に置くには随分大きな鏡。控えめな装飾が施されているアンティークもので、特に変わった点は見られない。

 ただし、姿見から目を離した瞬間、背後の鏡面から視線を感じる。振り返っても何も異変はない。

 

 

4-11.識見の部屋

 識見の私室。勝手に入らないように最初に言われる部屋の一つ。内側から鍵を掛ける事が可能だが、識見は就寝時以外は基本的に施錠をしていない。

 基本的な構成は客室と同様である。識見の私物が置いてあるが、その量は少なくあまり生活感がない。

 

 

 

4-12.棚橋の部屋

 棚橋の私室。勝手に入らないように最初に言われる部屋の一つ。内側から鍵を掛ける事が可能で、棚橋は不在時と就寝時は施錠している。

 基本的な構成は客室と同様である。いくらか棚橋の私物が置いてある。

 

 

 

4-13.リネン室

 シーツやタオルなどを収納している部屋。壁面を埋める大きな棚に、シーツやタオルなどが整頓して並べられている。窓などはなく、電気を付けなければ部屋は暗い。

 

 

 

4-14.書庫

 大量の本が収納されている部屋。鍵が掛かっている為開錠しない限り立ち入る事はできない。

 中に入ると、2メートル程の背丈の本棚が狭い室内に等間隔に並んでおり、様々な種類の本が所狭しと並べられている。また、本棚の向こう側へ進むと、部屋の最奥には幅1メートル、高さ2メートル程の布で覆われた何かが壁際に設置されている。

 

◆姿見

 布を取り払うと、中から大きな姿見が姿を現す。外周にはくすんだ黄金色の複雑な装飾があしらわれており、重厚な作りになっている。KPが鑑定に相応しいと判断した技能があれば、この鏡がかなりの年代物であると分かる。

 鏡面は年季のせいかひどく濁った色をしており、正面に立つと自分の顔が歪に歪んで写る。薄暗くひずんだ鏡像に、まるで鏡面の向こうから何か得体の知れないものが此方を見ている様な印象を受ける。談話室の週刊誌で一ツ谷の記事を見た後の場合、アイデアを振る。

 

【アイデア】写真に写る一ツ谷の書斎にも同じ姿見があったと思い出す

 

  姿見の前まで来た場合、床に小さな本が一冊と何か光るものが落ちている事に気が付く。

 

 ・フクロウの栞

 フクロウが描かれた金色の栞。ただし、歪に欠けており、本来の形の半分程しかないと思われる。材質は薄い金属の様に感じられる。見た目はごく普通の本の栞だが、不思議な事にぼんやりと光を放っている。

 この栞は一ツ谷が使用していたアーティファクトであり、箱庭のマスターキーの役割を果たす。この栞を持っている者が物置部屋の扉を開けた場合、隠された一ツ谷の書斎へと繋がる。

 ただし、一ツ谷がゴグ・フールに襲われて死亡した際に半分に割れてしまい、もう半分は書庫を掃除した棚橋が見つけて回収してしまった。半分のみの欠けた状態では、書斎への扉を開く事は出来るが、書斎の机の引き出しを開く事は出来ない。

 

 

 ・記憶文庫

活字が整然と並んだそれは文庫本の様に見える。ただし、著者や出版社、タイトルなどは一切記されておらず、外装は真っ白。全体的に赤黒く汚れている。加えて、殆どのページが破れてしまっており、最後の1ページのみが残っている。

 

『 黒々とした触腕が、幾重にも折り重なって錆びた装飾へと手を掛けた。まるで押し込められていた囚人たちが解放を求めるかのように、それらは一度撓んだ鏡面から次々と溢れ出す。不快な臭気を纏ったそれらが四肢に纏わりついても、信じられない事に、私は抵抗する事もなくただそこに立ち尽くしていた。最早あまりに多くの狂気的な真実を目の当たりにしたこの目には、今にも自らを喰らおうとする異形の姿すら不思議と恐怖を遠のかせ、受け入れるべきものであると感じられたのだ。そこに一切の恐怖はなかった。

 無数の腕は私の全身を絡め取ると、そのまま鏡面の中へと引きずり込もうとした。異常な力で引き寄せられた身体が大きく傾いたかと思うと、次の瞬間には、私は頭から鏡面へと沈み込んだ。どぷりと、底なしの沼に沈み込むように、抵抗の意思を失くした全身は向こう側へと溶け込んでゆく。それはまるで温かく柔らかなベッドに包まれる様な安堵であった。境界を潜ると同時に、私は、自分の全身が蕩け落ちて咀嚼される感触を覚えた。実体を失った自分の体が、魂が、存在そのものが、あの黒い化物に捕食され、かじり取られ、啜られ、毟られ、失われてゆく。生きたまま臓腑を抉られるような感覚と、痛みとも疼きとも取れぬ不快感が全身を襲う。思わず悲鳴を上げようとするが、それは叶わなかった。

 既に声帯も、歯も、舌もなくし、腕も足もなくした私は、そのままどろりとした恍惚的な泥濘に沈み込み、形を失い、存在を失い、狂気そのものとなって化物の喉を滑り落ち、そして、消えた。』

 

【SANチェック】1/1D3

 

  「記憶文庫」は一ツ谷が自身の箱庭での検証を記録に残す為に使用していたアーティファクトであり、一ツ谷が最後に「αの謳うメメント・モリ」の箱庭に入り、ゴグ・フールに喰らわれるまでの出来事が記録されている。

 残っているページは最後のページであり、一ツ谷がゴグ・フールに喰らわれる最期の状況を描いている。それ以前のページはばらばらに破れ、箱庭の随所でシナリオの進行度に応じて発見される。

 

 

 

 

4-15.一ツ谷の書斎

 4-5.物置をフクロウの栞を持った者が開けた場合、この部屋へ繋がる。

 ごく狭い書斎風の部屋。机と本棚のみがある些か殺風景な内装。家具は上等そうだが、屋敷全体の雰囲気よりもいくらか現代的な印象を受ける。

 

【SANチェック】0/1

 

 談話室の週刊誌で一ツ谷の記事を見た後の場合、アイデアを振る。

 

【アイデア】写真に写る一ツ谷の書斎と机・本棚のデザインが酷似していると感じる

 

 ここは箱庭内に作られた隠し管理部屋である。管理者である一ツ谷のみが立ち入る事が出来、物語の舞台となる屋敷とは異なる空間となる。一ツ谷は現実に置けない魔術的な道具や書物などをこの隠し書斎に置いていた。

 

 

◆本棚

 大きな本棚の半分はぎっしりと本が並んでいる。殆どは洋書やかなり傷んだ古書のようだ。よく見ればどれもミステリー小説であると分かる。

 また、もう半分のスペースには白い背表紙の文庫本がずらりと並んでいる。

 

 <洋書が並んでいるスペース>

【図書館】他の本とは雰囲気の違う分厚い洋書を見つける

→【英語】以下のタイトルが分かる

 

 ・『異なる次元とその主に関する恐ろしき真実』

 英語で記された分厚い古書。全て読もうとすると1D20時間掛かるが、あるページに開き癖がついている事が分かる。そのページのみであれば【英語】に成功すればすぐに読む事が出来る。内容は以下の通り。

 

 我々の世界と異なる次元がすぐ傍に存在し、そこには強大な力を持った悪魔が棲んでいる。悪魔の棲む次元は我々の世界と表裏一体、きわめて近い位置に存在し、悪魔は鏡面を通じて我々の世界を覗いているという。その全容はあまりに強大で悍ましく、人のうかがい知る事の出来る領域ではないが、悪魔は時折、鏡面を通じてその片鱗を現実世界に顕現させる事もある。

 ただし、悪魔が標的とするのは狂気に陥った哀れな人間のみである。正常な精神力を持ってすれば、悪魔を遠ざける事が可能だ。精神の力が弱った人間でなければ、悪魔は標的とする事が出来ない。それ故悪魔は、獲物を見つけるとまず鏡越しに契約を持ちかけるという。

 悪魔との契約は非常に危険なものだ。そうして獲物に取り入って、その精神を徐々に削り取り、喰らってしまう事こそが悪魔の目的なのだから。しかし同時に、悪魔との契約は魅力的なものでもある。その力は片鱗のみでさえも非常に強大で、現実と異なる次元を自在に操る事を可能とする。悪魔は契約によってその力と智慧を人間に分け与えるのだ。悪魔との契約に重要なのは、扱い方を間違えない事と、強い精神を保ち続ける事である。

 

 

 <白い文庫本が並んでいるスペース>

それぞれの背表紙に手書きの文字でタイトルが書かれている。同じタイトルがいくつも並んでおり、それに通し番号が振られている。

 

【知識】それらのタイトルが全て一ツ谷史郎の作品のものであると分かる

 ※ただし、PCαはロール不可・成功したとしても一ツ谷について知らない

 

 ここでの【知識】ロールはPCαとそれ以外で判定が異なる為、PCαの特別性にPLが気付かないようにする為にはクローズドでKPがダイス判定を行うと良い。

 目を通す場合、同じタイトルを冠した番号違いのものでは大まかな筋書や舞台設定は同じだが、細かな設定や物語の展開がまちまちである事が分かる。一ツ谷の小説を読んだ事のある探索者が呼んだ場合、同名タイトルの世に出ている作品と、舞台設定や大筋は似ているが異なる展開のものも多いと分かる。

 これは一ツ谷が検証の記録に使っていた「記憶文庫」であり、それぞれ箱庭内で検証された出来事が小説の体裁で記述されている。完成作品にたどり着くまでに幾度となく試行錯誤を繰り返している為、その内容は完成されて世に出ている小説とは異なるものとなっている。

 

 

 

◆机

 

  引き出しつきの机。目星で机上のものに対する情報が開示される他、引き出しも調べる事が出来る。

 

●机上

【目星】筆立てやインク、鏡を模した小さな置物等がきちりと並んでいる。机上の中央には、無造作に転がされた万年筆の傍に、メモが1枚、更にその傍らには分厚い本が一冊置かれている。

 

<メモ内容>

『異空間を作り出す魔術⇒イメージを具体化する為の媒体が必要。草稿が使える

 箱庭のルール

 ・全ての事象は媒体に描かれた通りになる

 ・描かれていない部分は補完される

 ・終了の方法は3つ

   1、物語の結末を迎える

     (草稿の筋書きが完結していれば可能か?)

   2、箱庭ごと終了させる呪文

     (中にある箱庭由来のものは同時に全て失われる)

     ⇒『Ratio Magia』より

   3、鍵を使って現実へ帰る

     (現実の扉を潜った者は現実の存在となる)    』

    

 

・『Ratio Magia』

 くすんだ赤色の革装丁の本。表紙にクリップでメモが一枚固定されている。この本に手を出した瞬間、イベントが発生する。

 

 机上の本へと手を伸ばす。その手が本に触れるかという間際、不意に、ぐちゃりと嫌な音がした。それが自分の目の前、机の上に置かれた小さな置物から発せられた事に気付き貴方は目を見開いた。

 置物のほんの小さな鏡面が、黒く濁り、揺らめき、そこから黒い触腕の様なものがずるりと伸びていた。それは鏡面の面積よりずっと太く膨れ上がり、本へと伸ばしていた貴方の腕めがけて絡みつこうとしてくる。

 

【SANチェック】1D2/1D4

【DEX×2】成功…とっさに本を掴んで身を退く事が出来る

     失敗…身を退いた表紙に触腕が表紙のメモを絡め取ってしまう

 

 いずれの場合も探索者自身は机の前から退く事が出来、触腕は不気味に蠢いた後にずるずると鏡面の中へと戻ってゆく。DEXロールに成功した場合のみメモが手に入るが、失敗した場合原本のみが手に入る。

 

 

・『Ratio Magia』本体

 古いラテン語で書かれている。あるページに開き癖がついているが、読むには【ラテン語】の半分のロールに成功する必要がある。成功して得られる情報は付属のメモの内容と同じ。古典ラテン語辞書を用いた場合、【ラテン語】の通常の技能値で判定を行う事が出来る。

 

 

・『Ratio Magia』添付メモ

 日本語で書かれたメモ。内容は以下の通り。

 

呪文<箱庭の創造と終了>

 魔力を込めて呪文を唱えることで、異次元の箱庭を作り上げ、また、終了させる事も出来る。新たに箱庭を創造するには、その媒介となる依り代を用意しなければならない。その空間を形作る舞台を示す情報が必要だ。サインをした依り代を触媒として、それに忠実な世界が形作られる。

 終了させる際は呪文を唱えるのみで良い。呪文に呼応して、箱庭は即座に瓦解し、消失する。中に居る場合でも問題はない。箱庭の崩壊と共に現実の存在は元あるべき場所へと戻る事が出来る。ただし、箱庭の内部にある箱庭由来の存在は箱庭と共に崩壊する。

 

 

 上記の文の下に呪文とおぼしき耳慣れない言葉が書き記されており、これを読んだ探索者は呪文「箱庭の終了」を獲得する事が出来る。この呪文を唱えるのに特別な準備は必要ないが、丸1ターンの時間と、MP5をコストとして支払う必要がある。

 

 

●引き出し

 鍵が掛かっている様子はないが、開けようとしても開くことが出来ない。取っ手にはフクロウの装飾が施されている。欠けたフクロウの栞を持った者が触れた場合、ほんの一瞬、引き出しの取ってがうっすらと光った様に見える。

 完全な状態のフクロウの栞を持った者が触れた場合、引き出しを開く事が出来る。引き出しの中には、原稿用紙の束がしまわれている。

 

【図書館】それらが手書きの原稿、内容以前の構想をまとめた草稿だと分かる

     『αの謳うメメント・モリ』と書かれた原稿用紙を見つける

【知識】それらの原稿に書かれた題名が、いずれも一ツ谷の小説の題名だと分かる

 

 ・『αの謳うメメント・モリ』の草稿

 まだ原稿の段階にも至らない、設定や構想を纏めた資料。内容は以下の通り。

 

『雪国の洋館を舞台にした連続殺人事件

 閉ざされた館の中で一人また一人と人が死ぬスタンダードな殺人もの

 資産家グループの御曹司 三宮がターゲットとされ、その周囲の人間、

 三宮家に関係のない宿泊客まで凶刃に掛けられ次々に殺される

 登場人物

 三宮裕一、識見秀夫、棚橋仁美、滝沢廉次、樋田純也、○○(PCαの苗字)

 犯人、○○○(PCαの苗字)は豪雪から逃れる為に屋敷に立ち寄った宿泊客を装う

   

 詳細は未定 まずは検証から』

 

 更に、原稿用紙の後半にはそれぞれの「登場人物」達に関する外見や性格の概要設定が書かれており、それらは探索者達が目にした同名のNPC達と一致する。PCαについても同様である。この時点で、PL達がこの屋敷と小説家・一ツ谷及びその遺作との関係性に感づいているようであれば、それらの関係性の予感をKPから肯定してしまって構わない。

 

 この原稿は一ツ谷がもっとも初期に書いた、『αの謳うメメント・モリ』の構想資料である。ここでPCαが物語の登場人物である事をPC達に知らせると共に、殺人の犯人なのではないかという疑念を誘う。ただし、最初期の設定ではPCαが殺人犯と置かれていたものの、その詳細な動機やトリックが未定であった為、一ツ谷はまず犯人ではなく殺人のみを起こして状況の観察を行う為に箱庭を利用した。したがって、今回の箱庭の依り代とされたのはこの原稿ではなく、PCαも殺人の動機・実行などが未設定の為殺人犯ではない。

 

 

 

 PCαのPLに関しては以下の処理を行う。

 ※ただし、この時点でPCαが自身の出自について実感を持って自覚するのに不十分だと感じた際は、処理を行わなくて良い。その場合、PCαが自身の出自を自覚したタイミングで処理を行う。

 

 

【PCαの正体】

 PCα自身が「自身が架空の存在である」という事実を知った事で、自我の揺らぎに対するSANチェックを行う。

 

 その文章には、はっきりと貴方の名前が記されていた。物語の登場人物として。

 それを見た瞬間、これまでの情報の点と点が繋がって、貴方の脳内で線を描く。周囲の人間が話す”人気作家”、そしてその存在をはっきりと匂わせるこの書斎。そこにある原稿用紙に、自分の名前が記されている。行動、外見、あらゆる記載が、貴方を示していた。

 「箱庭」の「登場人物」。信じがたい事実が貴方の中で線となり像を描く。自身の存在が足元から崩れる様な恐怖に、急な動悸と眩暈が襲い来る。

 

【SANチェック】1D6/1D10

 

 ただし、決定的な情報を掴む前に既に予感を得ていた場合、このタイミングでのSANチェックを1D3/1D4に軽減しても良い。

 

 

 

 

 

 

 【部屋を出る】

 最初にこの部屋に入り、机上のメモを見つけた場合、部屋を出た所で以下のイベントを発生させる。

 

 貴方達が書斎の戸を開けて外に出ると、そこは元いた屋敷の廊下だった。振り返れば、背後にあるのはただの物置の扉だ。

 呆気に取られて辺りを見回すと、ふと、物置の扉の陰に一枚の紙が落ちている事に気が付いた。

 

 

 ・記憶文庫p.5

両面に活字が整然と並んだその紙は、破れた本のページの様に見える。それぞれの面の隅には「5」、「6」という数字が記されている。

 

『 さて、第一の被害者として三宮氏が無残な姿で発見された。屋敷は当然恐怖と困惑に包まれ、宿泊者達は大変に怯えている。しかし油断してはならない。そうして哀れな草食動物の様に振る舞う宿泊客らの中に、殺人鬼の凶刃が潜んでいるのだから。

 その様な筋書を思い浮かべて、私はどうにも我慢ならない興奮が湧きたつのを感じた。この秘められた箱庭は私の庭であり、そして、現実に有り得る全ての制限から解き放たれた、自由の庭なのだから。

 ここではどんな事でも起こり得る。それは最早私の手すらも離れているのかもしれない。屋敷に飾られた重厚な油絵の怪物や、至る所に置かれた鏡に映る落ち窪んだ自分の眼が、いやに恐ろしく、不穏な気配を感じさせる事も。全ては真実なのかも知れない。私は、探偵ではない、事件に、事象に、巻き込まれた犠牲者か?』

 

  「記憶文庫」は一ツ谷が自身の箱庭での検証を記録に残す為に使用していたアーティファクトであり、一ツ谷が最後に「αの謳うメメント・モリ」の箱庭に入り、ゴグ・フールに喰らわれるまでの出来事が記録されている。

 このページは前半のページであり、一ツ谷が箱庭にゴグ・フールの気配を感じ始めた際の状況を描いている。

 

 

 

 

 

 

5.一日目夕食

 午後7時になると夕食の時間となる。玄関ホールにある柱時計から時刻を知らせる音が鳴り響き、屋敷の何処に居ても時刻が分かる。事前に知らされていた通りダイニングルームで夕食となる。すぐに向かわない場合は識見と棚橋が館内を回って宿泊者達をダイニングルームへ案内する。

 ダイニングルームのテーブルには既に湯気の立つ料理が並べられており、席に座るよう識見に案内される。滝沢は既に一人真っ先に着席しており、待ち遠しげに料理を眺めている。程なくして樋田も着席する。

 探索者達と滝沢、樋田が揃ってもまだ三宮は降りて来ない。識見が部屋へ呼びに行くと言ってダイニングルームを出ようとした所で、扉を開けて入ってきた三宮と鉢合わせる。三宮は客人たちに向けて待たせた事を詫びてから席に着き、「読書に耽っているとつい時間を忘れてしまう」と苦笑する。

 全員揃った所で夕食となる。料理は棚橋の手製で、デザート付き・おかわりも自由。適宜ロールプレイやNPCとの会話を行いつつ進める。食後は1階のバスルームで入浴の準備が出来ている為、希望すればそちらを順番に使っても良いという事、三宮達は午後10時には消灯・就寝してしまうのでそれ以降は騒がないようにという事、何か緊急の用事があれば識見の部屋を訪ねるようにという事を伝えられる。1日目は宿泊者達の顔合わせがメインであり大きなイベントは起きない為、手持無沙汰であれば就寝まで進めてしまって良い。

 

 

 

6.一日目夜

 午後10時には消灯となり、三宮、識見、棚橋も自室で就寝する。必ずしも10時に眠りにつく必要はないが、あまり騒ぎすぎたりした場合は目を覚ました識見に注意される。深夜1時を目安に、探索者全員が眠りについたタイミングでイベントを発生させる。

 

※強制【聞き耳】廊下から聞こえる物音にふと目が覚める

 

 聞き耳の数値が目標値の半分以下だった場合、廊下からの音が廊下を移動する足音のようだと分かる。ただし、微睡から抜け切らない中でのその微かな音は夢の様にも感じられ、探索者達はすぐに眠気に負けて再びシーツへと顔を埋めて眠りについてしまう。

 この足音は一人目の犠牲者として三宮を殺しに行くゴグ=フールのもの。三宮は小説の登場人物であるため正確にはこれは人を殺した事にはならず、単純に一ツ谷の遺作の草稿に書かれていた筋書に従っているだけである。異空間内ではあくまで小説の筋書きに基づいた事態が発生する為、音を聞いた探索者達も起き上がる事は出来ず、ゴグ=フールも筋書きの通りに登場人物の殺害を実行する。ゴグ=フールの真の目的は、草稿が途切れている部分まで物語が進行した後、殺人事件に怯える探索者達の恐怖と狂気ごと喰らう事である。

 

 

 

7.二日目朝:第一の殺人

 朝は午前9時に朝食となる。夕食時と同様ダイニングルームに行くか、時間になれば識見と棚橋が部屋まで呼びに来る。

 時間にはダイニングルームのテーブルに既に朝食が用意されている。樋田は探索者達より早く着席しているが、滝沢は少し時間が過ぎてから識見に呼ばれて2階から降りて来る。滝沢が席に着くのを9時5分とするが、それから暫く経っても三宮は降りて来ない。夕食と違い朝食時は普段時間通りに降りて来る為、怪訝に思った識見が三宮の自室へ呼びに戻る。その後、暫くしてから2階から識見の叫び声と大きな物音(識見が転倒した音)が聞こえてくる。

 棚橋と樋田がいち早く反応して2階へ向かおうとする。滝沢は面倒そうな様子で席に座ったまま。

 

 2階へ様子を見に上がった場合、殺人現場を発見する事となる。

 

 2階へ上がると、三宮の部屋の前に尻もちをついている識見の後ろ姿が見えた。隣には壁にあった絵画が落ちており、転倒した際に引っ掛けて絵画を倒した事が先程の物音の原因であったと分かる。

 近づいて様子を見ると、識見はわなわなと肩を震わせて青い顔で三宮の部屋の方を見つめていた。鍵が刺さったまま開け放たれた扉の向こうに、三宮の部屋の様子が見える。

 整った様子の居室の中央に、仰向けに横たわっているのは三宮だった。身に着けた部屋着の胸元が赤黒く染まり、そこから流れ出たであろうおびただしい量の血液が薄い色の絨毯をおぞましい赤色に塗り替えていた。一面をすっかり染め上げてしまう程の出血もさることながら、何より、恐怖と苦痛からか別人のように醜く歪んで変わり果てた三宮の顔、見開かれたまま虚空を見つめる両の眼が、彼の死をありありと伝えていた。

 

【SANチェック】0/1D3

 

 三宮の死体を目にした識見は座り込んだまま茫然としている。棚橋と樋田もひどくショックを受け、特に棚橋は悲鳴を上げて怯える。暫くすると下の階からしびれを切らした滝沢も合流し、事態を目の当たりにする。

 気を取り直した識見は一度全員ダイニングルームへ戻るようにと伝えるが、それまでの間、またはその後に望むのであれば死体に関して検分する事は可能である。ただし、部屋の中の私物についてあまり細かく手を触れて調べようとした場合、識見に止められる。

 

◆三宮の死体

 床に仰向けに横たわって絶命している。胸から激しく出血しており、おびただしい血の量からそれが致命傷ではないかと思われる。表情は恐怖に歪み、両の目は見開かれたまま天井を見つめている。身に着けているのは前の晩に着ていた部屋着。

 

【医学】胸の刺し傷の様なものが致命傷であったと分かる。

    血痕の乾き具合から死亡したのは夜中であると思われる。

 

 

 

 ダイニングルームへ戻ると、NPC達は皆気が動転した様子を見せる。棚橋はテーブルの脇にしゃがみこんで怯えており、樋田がそれを気遣う様に傍にしゃがんで声を掛けている。乱暴に椅子に腰かけた滝沢がスマートフォンを取り出すが、電波が通じない事に苛立って「早く警察呼べよ!電話は!!」と識見に怒鳴りつける。識見はそれに応えて廊下にある固定電話へと向かう。

 暫くすると識見は戻って来るが、困り果てた様子で「何故か電話が通じない」と告げる。その言葉に激昂した滝沢が識見に半ば掴みかかる様子で共に再び電話へと向かう。電話が通じない事を確かめた滝沢は、「テメェが何か仕組みやがったのか!」と識見に再度怒鳴り散らす。この際、電話の挙動を確かめてみるのであれば、確かに受話器からはツーツーという音が聞こえて来るばかりでどこへも繋がらない。ただし、見える範囲では断線などの異常も見受けられない。

 

 誰かが止めるまで滝沢は識見を責め立て続けるが、探索者達が止めない場合でも樋田が仲裁に入り、とにかく落ち着くようにとなだめてダイニングルームへと戻らせる。全員が再びダイニングルームへ戻った所で状況の整理が行われる。以下読み上げ文を元にKPはNPCのロールプレイを行うが、適宜探索者達の発言やPLの試みを自由に交えて進行する事。

 

「ったく、ざけんなよ!足止め喰らっただけでも最悪だってのに…」

 樋田に宥めすかされて渋々席に戻った滝沢は、乱暴に椅子を引くとどかりとそこに腰かけた。忌々し気に舌打ちする様子には、いささかの不安も見受けられる。

「しかし、確かにこれは異常事態です。三宮さんは明らかに殺害されていました…。ですが、この吹雪です。この屋敷に居るのは間違いなく、今ここに居る私達だけ…」

 動揺を浮かべながらも浮つく事なく事実を述べる樋田の言葉に、棚橋が怯えた声で小さくため息をついて首を横に振った。

「う、嘘、それって、三宮さんを殺した犯人が、この中に居るって事…!?」

棚橋の言葉に全員が息を飲む。認めがたいその事実に、真っ先に啖呵を切ったのは滝沢だった。

「おい爺さん、やっぱあんたが殺ったんじゃねえんだろうな!?」

 

 滝沢は識見を疑い、責め立てる。周囲に懐疑の目を向けられ、識見は改めて昨夜から今朝にかけての事を供述する。内容は以下の通り。

 

・昨晩は全員が部屋に入ったのを確認してから消灯を行った

・夜中には何も問題は起きておらず、誰か起きて来ることもなかった

・朝食時間になっても三宮が降りて来ないのは珍しい為、確認に行った

・部屋を訪れた際、鍵が掛かったままだった(普段は起床時に開錠されている)

・声を掛けても返事がない為不審に思って合鍵で開錠した所、既に亡くなっていた

 

【アイデア】三宮含め、全ての部屋のマスターキーを持っているのは三宮自身と識見のみであるという事に思い当たる

 

 外部から施錠出来るのは鍵を持っている識見と三宮のみである為、朝の確認時に施錠されていたのであれば、単純に考えた場合は当然識見が怪しく見える。この事は探索者が指摘しても良いし、しない場合は樋田の口から指摘が入る。

 動揺しているNPC達は深く状況を推察する事もなく、識見に疑惑の目を向ける。識見は否認するが、滝沢が「信用できないので鍵を出せ」と言い、識見の持つマスターキーを没収する。また、同時に棚橋にも持っている鍵を出すように迫り、棚橋は滝沢の剣幕に怯えた様子で自身の持つ鍵束を出す。それぞれの鍵束で開錠できる場所については別途資料参照⇒資料:鍵の開錠場所

 

 滝沢はそのまま2つの鍵束を自分で持とうとするが、「一人が持つのであれば同じ事になってしまう」と樋田が介入し、マスターキーをダイニングテーブルに置いて誰も手を触れない事を提案する。ただし、これは探索者側から何も提案がない場合の進行なので、何か探索者から提案があった場合はそれを踏まえて進行して良い。

 

 滝沢は状況的に怪しかった識見を2階の自室へ拘束する事を提案する。状況的にNPC達の識見への疑いを払拭できていなかった場合、誰もこの提案に声を上げて反論する者はおらず、滝沢の手によって識見は両手を拘束された上で自身の部屋に閉じ込められ施錠される。

 探索者が説得などに成功した場合はこの限りではない。

 

 上記の処理が一通り済むと、NPC達はそれぞれの行動方針に基づいて移動してしまう。このタイミングで、以下の描写を挟む。

 

 場の空気は重かった。棚橋はショックを受けた様子でふらふらとその場を去り、それを案じてか樋田が後を追って部屋から出て行った。二人の背を一瞥して、滝沢が苛立ちを隠す事なく舌打ちをする。

「くそっ、殺しなんて冗談じゃねえ…」

 宿泊者達の間に開いた溝を感じ、貴方達も視線を床へと落とした。

 不意に、その背中に、ぞくりと冷たい気配を感じる。

 刺す様に鋭い悪寒に、思わず背後を振り返る。振り向く視界の端に、僅かながらに、何か黒い影が蠢いた気がした。

 しかし貴方が背後に向き直った時には、そこには暖かい色味の壁紙が張られた壁面が広がるばかりだった。

 

 また、これ以降のタイミングではPLの探索の空気感を見つつ、適宜探索者が鏡のある場所を通過する度にKPの任意で「何かに見られているような気がする」と言った描写を行うと良い。これは鏡面の向こうに潜むゴグ=フールの存在をPLに知らせ、危機感を煽る為の演出である。屋敷で起きている事態が異常であると思わせ、積極的な探索行動を促す事が目的となる。もしも探索者達がそれでも能動的に行動せず、シナリオが進行しない場合は、気配の描写を大げさにする、SANチェックを加えるなどして構わない。

 屋敷内で鏡がある箇所は以下の通り。

  • ダイニングルームの暖炉の上
  • 2階廊下
  • 1階エントランス
  • 家事室
  • 書庫の大鏡
  • トイレ
  • バスルーム
  • 各客室、三宮、識見、棚橋の部屋のシャワールーム

 

 以降は時系列に沿って、或いは探索者達の行動に応じてイベントが進行してゆく。以降の項目に各状況ごとのNPCの行動方針や所在地が記されている。PCの行動や状況の変化によってはこの限りではないが、KPは都度参考にして進行する事。

 

 

  

8.探索パート 進行早見表

 三宮死亡以降は探索パートとなり、基本的に探索者達が自由行動する事になる。この項目は探索パート内のNPCの行動、発生イベントなどを記した大まかなタイムテーブルとなっている。

 

 

 

 

 

【NPCの殺害について】

 三宮の死亡後、棚橋・識見も物語の筋書きに沿って死亡する。ただし、これについては詳細な時間は定められておらず、タイムテーブル上の他イベントとの順序が前後しなければ、自由に時間は前後して良い。該当する時間帯の中で、棚橋・識見が一人で居るタイミングで死亡させる。

 ただし、PLが作戦として全員で固まっているなどの行動を取り、該当の時間帯に各NPCが孤立するタイミングが作り出せなかった場合、探索者の目の前で殺害が実行される。その際の描写例は以下の通り。

 

 部屋の床のカーペットが突如、ぶくりと泡立つ様に歪にたわんだ。まるで水面の波紋の様に、不自然に、ひとりでに蠢くそれは、明らかに異常だった。

 次の瞬間、その表面を突き破る様に、布目から染み出す様に、黒い触手の様なものがごぽりと溢れ出す。ぬらぬらと光った不気味なそれは、しかし金属の様な光沢をも纏い、柔軟なその切っ先を鋭く尖らせ、棚橋の胸を勢いよく一突きにした。床から2mにも及ぶ程に突き出したその怪物染みた触腕が、彼女の体を串刺しにする。ひきつった悲鳴を不自然に途切れさせ、彼女の口と胸からは鮮血が噴き出した。

 

【SANチェック】1D3/1D6

 

 

 

9.探索パート:三宮死亡後

 【各NPCの行動方針】

  

★識見(2階識見の部屋)

 滝沢を止めなかった場合、拘束された状態で自室に閉じ込められ、外から鍵を掛けられている。鍵を開けた場合には対面する事が出来るが、識見は自分を助けた事が知れればまた滝沢が激昂するだろうと探索者を止める。

 主人の身に起きた不幸を受け止めきれず、また、それを防げなかった自身を責め意気消沈しており、その場を動こうとしない。この様子は、滝沢を止めて識見が自発的に自室に居る場合でも変わらない。

 

★棚橋(1階談話室)

 三宮の死に深くショックを受け、動揺しており、談話室のソファで塞ぎ込んでいる。会話は出来るものの、基本的に動揺が深く探索者が頼んでもその場を動いて作業する事は手伝ってくれない。12時近くになると「自分の部屋で少し休みたい」と言い、2階の自室へ移動する。

 また、書庫で栞を入手した後に会うと、彼女のエプロンのポケットからぼんやりと光が漏れている事に気付く。光の元は割れた栞の片割れであり、書庫を掃除した際に棚橋が発見して回収したものである。探索者が求めれば、特に拒む事無く渡してもらえる。

 

★滝沢(ダイニングルーム)

 椅子の一つにふんぞり返る様に座り、しきりに貧乏ゆすりを繰り返している。外に出られるようになればすぐにでも屋敷を出たいと考えているが、それまで外部と連絡もつかない状況に苛立っている。

 テーブルに置かれた鍵の目の前に座っており、無断で鍵を持ち出そうとした場合相手を怒鳴りつけて止める。ただし待っていればトイレに席を立つほか、【言いくるめ】等で気をそらし離席させるなどして鍵を奪取する事も可能。鍵がなくなった場合、「殺人犯が鍵を盗みやがった」と激昂し鍵を探すために徘徊する。探索者が持ち出した鍵を勝手に使う場合、幸運を振らせてその場の誰も成功しなかった場合、滝沢に発見される。

 興奮した滝沢に見つかると怒りに任せて殴りかかってきて戦闘となるが、取り押さえて交渉系技能、または【精神分析】などを行う事で落ち着かせて和解する事が出来る。

 

★樋田(1階談話室)

 棚橋に付き添って1階談話室に居る。

 近くで揉め事が起きた場合、止めに入って加害している方を【組みつき】で取り押さえようとする。滝沢と探索者が揉めた場合に任意で樋田に滝沢を止めさせて良い。

 

 

 

 

10.イベント:文庫の頁①

 探索者が2階の廊下を通った際、目星を振らせる。

 

※強制【目星】廊下の隅に紙切れが落ちている

 

 ・記憶文庫p.29

両面に活字が整然と並んだその紙は、破れた本のページの様に見える。それぞれの面の隅には「29」、「30」という数字が記されている。

 

『 私はまさしく千鳥が如くふらつく足取りで階段を上っていった。何処で何をするとも明確な考えは浮かばなかったが、それ以上にはっきりとした何か強い衝動に惹かれて、勝手知ったる屋敷の戸を押す。殆ど日頃使われる事もない古びた部屋の扉が、ぎいぎいと軋みながらゆっくりと開かれた。

 その奥に待ち構えているのが、ずらりと立ち並ぶ無数の書籍だけではない事を、私は奇妙な第六感で確信していた。足を踏み入れる人間を迎え入れる様に左右に並んだ本棚のその向こうから、もっと別のものが、両の腕を広げて侵入者を待っている事を。しかし最早、それのみが自分の向かうべき結末であると、何の疑いもなく認められた。作品の結末も、その為の幾度とない検証も、もう必要ないのだ。鍵ももうない。私はあの陳腐な銀細工と共に、詰まらぬ現もとうに放り投げてしまったのだ。

 この記録も、通行証も、最早無用の長物だ。鍵と共に投げ打ってしまえば良かったが、それすらも失念していた。使い古した懐のそれらを、ほんの少しだけ懐かしく感じる。しかしもうこれも、使われる事はない。私は、次の次元へと踏み出すのだから。

 全ては●●●の為の箱庭となるだろう。そして、狂気に満たされた静謐な箱へと姿を変え、それは●●●の腹を満たす最高の餌場となるのだ。全ての恐怖と憎悪と狂気が混じり合い、より純度の高い混沌へ!あらゆるものは終わりを迎え、そして満たされるのだ!ああ!死を想え(memento mori)!

 

  「記憶文庫」は一ツ谷が自身の箱庭での検証を記録に残す為に使用していたアーティファクトであり、一ツ谷が最後に「αの謳うメメント・モリ」の箱庭に入り、ゴグ・フールに喰らわれるまでの出来事が記録されている。

 このページは終盤のページであり、狂気に陥った一ツ谷がゴグ・フールの下へ呼び寄せられた際の状況を描いている。

 

 

 

 

11.二日目昼:第二の殺人

 三宮死亡後、正午近くになると棚橋は2階へと移動する。その後、自室で死亡する為、12時以降に2階へ移動した場合は殺人現場を発見する事となる。棚橋の部屋のドアが開きっぱなしになっており、その隙間から中に横たわる足が見える。

 

 2階へ様子を見に上がった場合、殺人現場を発見する事となる。

 

 棚橋の部屋へと近づき中の様子を確認すると、そこは整頓された家具類と裏腹に目を覆う様な惨状と化していた。

 部屋の入口近くに俯せに倒れ込んだ棚橋の体の下に、赤黒い血液が広がっている。三宮の時と同様に、その大量の出血からしても彼女が既に絶命している事は疑いようもなかった。俯せていて表情までは分からないものの、華奢な背中には大きな風穴が空いており、なみなみならない力で胸部を一突きされた事が分かる。

 

【SANチェック】0/1D3

 

◆棚橋の死体

 床に俯せに倒れて絶命している。胸から激しく出血しており、おびただしい血の量からそれが致命傷ではないかと思われる。表情は苦痛に醜く歪んでいる。

 

【医学】胸の刺し傷の様なものが致命傷であったと分かる

    血痕の乾き具合から死亡したのは正午頃であると思われる

 

※まだ棚橋から栞の断片を入手していなかった場合 

※強制【目星】服のポケットがほのかに光っている様に見える

 ⇒調べる事でフクロウの栞の断片を入手

 

 

 この殺人をNPCにどう伝えるか、どう処理するかはPLに一任される。第二の殺人を知ると識見は動揺し、滝沢は焦りと苛立ちを露わに益々言動が攻撃的になる。樋田は比較的冷静に状況を観察するものの、いずれも探索者達に手放しで協力はしてくれなくなる。

  また、識見が拘束されていた場合、樋田は第二の殺人の発生により識見は犯人ではないのではないかと言い、識見の拘束を解くよう提案する。滝沢は食って掛かるが、実際にどうするかは探索者達の反応にゆだねて良い。

 

 

  

12.イベント:文庫の頁②

 棚橋死亡後のタイミングで、棚橋の自室を探索した際に文庫のページを提示する。棚橋死亡以前のタイミングでは棚橋の自室を探索する機会はないと思われるが、もし万が一既に棚橋の自室を探索していた場合は、部屋を出た廊下など、新規に探索する場所で【目星】を振らせてページを提示する事。

 

【目星】など 家具と床の隙間に紙切れが一枚落ちている

 

・記憶文庫p.15

両面に活字が整然と並んだその紙は、破れた本のページの様に見える。それぞれの面の隅には「15」、「16」という数字が記されている。

 

『 棚橋も殺され、順調に殺人事件は進行している。生存者たちも、恐れ、怒り、疑い、思い思いの感情に翻弄されている様に見える。最早この館は豪雪をしのぐ暖かな宿ではなく、不穏の渦巻く死の檻と化していた。そこに居る誰もがこの恐ろしい連続殺人に目を向けざるを得なくなり、そして、その瞠目の先にある事実は、我々宿泊客の中に、このおぞましい事件を起こしてのけた殺人鬼が潜んでいるという事なのだから。

 取り分け今回の事件に内心では怯えている彼は、定位置を離れて厨房へと向かった様だ。腹が空いたという具合には見えなかったが、何か狙いがあるのだろうか。私の筆先を離れた事象に関しては、この足で確かめてみるより他ない。ここで起こり得る仔細の全てが、新たな作品に繋がるのだから。特に、ミステリにおいて、真実を覆い隠すブラフとなる要素は重要だ。犯人を隠す、如何にもな”デコイ”となりうる登場人物はよく観察せねば。』

 

  「記憶文庫」は一ツ谷が自身の箱庭での検証を記録に残す為に使用していたアーティファクトであり、一ツ谷が最後に「αの謳うメメント・モリ」の箱庭に入り、ゴグ・フールに喰らわれるまでの出来事が記録されている。

 このページは中盤のページであり、棚橋が死亡した後の状況を描いている。一ツ谷が「ミスリードとなる登場人物」として滝沢に注目し、彼の足取りを追っていた事を示唆している。

 

 

 

 

13.探索パート:棚橋死亡後

 【各NPCの行動方針】

  

★識見(2階識見の部屋orダイニングルーム)

 拘束されていた場合は変わらず2階の自室に居る。拘束を解かれた場合、1階のダイニングルームで行き場なく狼狽えて居る。主人に続いて棚橋までも死亡した事に深く悲しみ混乱しているが、その無力感から、探索者達が事件に対して能動的に何か行動を取るようであれば協力的な姿勢を見せる。樋田・滝沢の行先も把握しているので訊ねれば教えてくれる。

 

 

★滝沢(談話室)

 厨房から高いワインを1本取り出し、勝手に開封して一人で飲んでいる。連続殺人への恐怖と動揺を隠す為に酒を浴びる様に飲んだ為、泥酔状態になっている。

 識見に対しては未だに非合理な疑いを捨てておらず、それを否定した樋田に対しても苛立ちを感じている。基本的にその場から動こうとせず、探索者達にも非協力的。

 また、失くした鍵を探索者達が所持していると知った場合は依然として戦闘となる。

 午後1時頃になると談話室から席を立ち1階のトイレへ向かう。⇒イベント:異変①へ

 

★樋田(2階樋田の客室)

 2階の自室に居る。他のNPCが死体のある2階を避けたがる中、1人2階で2件の殺人について考えを巡らせている。話を聞いた場合、探索者達が孤立する行動を目立って取っていた場合は探索者、そうでない場合は滝沢を怪しんでいると打ち明ける。ただし、あくまで論理的な思考に基づく「疑心」に過ぎず、探索者を怪しんでいる場合でも敵対的な態度は表に出さず、合理的な理由があれば協力してくれる。

 近くで揉め事が起きた場合、止めに入って加害している方を【組みつき】で取り押さえようとする。滝沢と探索者が揉めた場合に任意で樋田に滝沢を止めさせて良い。

 

 

 

 

14.イベント:異変①

【原稿の追加】

 

 午後1時を目安に、箱庭全体に異変が起きるイベントが発生する。探索者がNPCと一緒に居ないタイミングで、探索者の目の前にどこからか紙が一枚落ちて来る。

 

 

 ・降ってきた原稿①

 手書きの文章が記された原稿用紙。目を通すとそれは小説の様だった。内容を要約すると以下の通り。

 

『 それは、あまりに醜悪な、汚泥の様な塊だった。薄灰色の粘着質な物質が、澄んだ浄水の代わりに蛇口からどろりと零れ落ちた。単なる汚染などではなく、それが確実に異質な存在である証拠に、汚泥はまるで意思を持つ生物が鎌首をもたげる様に、のろのろとした動きで洗面台を這い上がり、そして床へと溢れ出す。床へ拡がるそれが明らかに重力に反して蠢き、ぐちゃりぐちゃりと不快な粘着音を立てた。それは見る者の心臓の底から根源的な不快と恐怖を掻き立てる様な、まさしくこの世ならざる存在であった。

 目を通し終えた所でふと原稿用紙を裏返すと、用紙の裏面に何か複雑な紋章の様な印が浮き出す様に滲んで現れた。

 

【SANチェック】1/1D2

 

  この原稿はゴグ・フールによって精神を摩耗していた一ツ谷が書いた『αが謳うメメント・モリ』の原稿の一部である。その内容はミステリーなどではなく、最早気色の悪いホラーと化している。

 この原稿は一ツ谷が箱庭を生成する際の「依り代」ではなかったが、ゴグ・フールが一ツ谷を取り込む為に後から箱庭に取り込んでしまったものである。その為、この時点から箱庭はこの原稿に書かれた内容を再現する事となる。ゴグ・フールは狂気に陥った一ツ谷が書いた原稿を箱庭に取り込む事で箱庭をその狂気を再現した空間とし、その中で一ツ谷を喰らい殺した。

 

 

 

 この原稿に目を通した後、【聞き耳】による判定を行う。現在地が1階の場合は通常の値、2階の場合は1/2で判定する。

 

 

※強制【聞き耳】1階から男性の悲鳴が聞こえる

 

 

 

 

【異形の出現】

 声の方へ向かった場合、1階のトイレの前で腰を抜かしている滝沢に遭遇する。また、探索者と同時に1階に居た識見もかけつける。ただし、2階に居た樋田は悲鳴に気付かず、呼ばない限りは現れない。

 

「ば、ば、ば、化け物だぁ!!」

 貴方達を見るなり、滝沢はがくつく足でじりじりと後ずさりながら前方を指さしてそう叫んだ。示された方向には、扉が開きっぱなしになった男子トイレがある。

 不意に鋭く鼻を突く異臭を感じ、貴方達は思わず前方へと目を向ける。便座と洗面台が一つになった個室スペースは広々としていて、大きく開かれた扉の向こうが良く見えた。清潔に保たれた洗面台に、灰色の汚泥の様なものがたっぷりと溜まっている。否、それは今も蛇口からどぼどぼと激しく飛沫を飛ばしながら溢れ続け、みるみる内に洗面台から溢れて床へと零れ落ちた。粘性を持った液状のそれは、まるで意思を持つ生物の様に蠢き、どろりと床へと広がってゆく。そして次第に、貴方達の方へと近づいてくるようだ。

 

アブホースの落とし子を目撃 【SANチェック】0/1D6

※強制【目星】便器の陰に、何か紙が落ちている事に気付く

 

 このタイミングで目星による情報開示はするが、室内にはアブホースの落とし子が居る為この時点で紙を拾いに行くのであれば戦闘処理に移行する。正攻法は一度この場から逃走し、アブホースの落とし子が居なくなった後に再びトイレへと戻って来る事である。

 また、このタイミングで起き上がった滝沢は探索者達に目もくれず逃げ出してしまう。アブホースの落とし子が襲ってくるであろう旨を伝え、逃走するようPLを誘導する。

 

 

 

 【異形について】

 以降、アブホースの落とし子は屋敷内を徘徊しており、一定確率で探索者達と遭遇し戦闘となる。アブホースの落とし子の移動処理については以下の2方法のいずれかで処理すると良い。

 

①簡易処理

 一定時間ごとに【目星】25でシークレットダイスを振り、成功した場合はアブホースの落とし子が探索者を発見して遭遇する。

 

②詳細処理

 一定時間ごとにアブホースの落とし子が現在地から隣接したいずれかの部屋へ移動する。廊下など長く続く空間の場合は時間ごとの移動に廊下内での位置移動を含めても良い。

 

 いずれの場合も、探索者とアブホースの落とし子の距離が一定距離以下(目安としては隣接2エリア程度)になった場合は探索者に【聞き耳】を振らせ、接近を教えると良い。

 

 

 

15.イベント:文庫の頁③

 異変①の時点で発見した紙きれについて、改めて戻ってきて取得すると文庫のページである事が分かる。これ以前のタイミングで何もない「トイレ」をわざわざ目星で探索する、などしているケースはまずないと思われるが、万一イベント以前のタイミングでトイレを探索しており、突然紙が出現する事がミスリードになる危険があった場合には、ページが落ちている場所をトイレの周辺の不自然ではない位置に移動させても良い。

 

 

・記憶文庫p.19

両面に活字が整然と並んだその紙は、破れた本のページの様に見える。それぞれの面の隅には「19」、「20」という数字が記されている。

 

『 あれは間違いなく、異質なもの。私が夢で見た、そう、夢で出会った類のものだ。しかもあれは、蛇口から現れた。膿の弾ける様な不快な音を立てて。まるで、あれはそう、私が書いた通りなのだ。

 私はいつだか、熱に浮かされる様にもうろうとして、確かにあの膿の化物がこの屋敷を跋扈する様を、草稿に書いた。そしてここでは丸々その通りに、寸分の狂いもなく、あれは現れた。あれは夢を通して私の脳髄を喰らい、私の筆を経て、私の箱庭にさえ干渉してくるのか。否、夢は夢なのか。私が生み出したものか? 分からない。あの狂気的な存在がどこから生まれ落ちたものなのか、今の私には計り知れない。

 ただ一つ確実に言える事は、私が少なくともあの草稿を、”依り代”にはしていないという事だけだ。

 奴の仕業だ。奴が見ている。私を。私の箱庭を、私をこのおぞましい狂気ごと、喰らおうとしているのだ。

 私は最早検証という本来の目的を遂行する事を諦め、それよりももっと大事な、真実を確かめに行く事にした。しかしその試みが上手く行くかは分からない。念のため、奴から逃れられる安全な場所を考えておいた方が良いだろう。奴が入り込めない様な、出入り口となるものがない部屋が良い。窓も危険だろう。なるべく、暗く、狭く、静かな……。』

 

  「記憶文庫」は一ツ谷が自身の箱庭での検証を記録に残す為に使用していたアーティファクトであり、一ツ谷が最後に「αの謳うメメント・モリ」の箱庭に入り、ゴグ・フールに喰らわれるまでの出来事が記録されている。

 このページは終盤のページであり、箱庭に異変が起きた後の状況を描いている。一ツ谷は箱庭に自分の予期せぬ改変が起きている事とそれがゴグ・フールの仕業である事を知り、何が起きたのか確かめようとした。その中で、安全地帯として彼が「ゴグ・フールの入り込む出入口」となる「鏡」や、それになり得る「窓」のない部屋を行先にした事を示唆している。

  この資料を読んだPLが文章の末尾に示されている条件に当てはまる部屋を探そうと試みた場合、【アイデア】で該当するのがリネン室である事を伝えても良い。

 

 

 

16.滝沢の狂人化

 これは探索者に直接関係のない、裏で進行するイベントの処理に関する項目である。

 トイレでの異形出現後、1人で逃げ出した滝沢は2階の自身の客室に逃げ込む。そこで鏡から現れたゴグ・フールに干渉され、狂気に陥ってしまう。度重なる殺人事件、正体不明の異形により極度の恐怖・疑心に苛まれた滝沢は、周囲の相手を全て殺人鬼ではないか、異形の仲間ではないかと疑い、過剰防衛の手段に出る。

 

 

【滝沢の行動方針】

 これ以降、滝沢は厨房へ向かい包丁を入手し館内を徘徊し出す。具体的な行動ルート・移動頻度についてはKPが任意に決定しても良い。処理に困る場合、一定時間ごとにシークレットで滝沢の【目星】を振り、成功した場合探索者達と遭遇するなどと処理しても良い。

 滝沢は極度の疑心の狂気状態に陥っており、対面する相手全てを疑い、包丁で襲い掛かって来る。この発狂状態はゴグ・フールによって精神を蝕まれた事によるものなので、【精神分析】などで治す事は出来ない。

 ただし、滝沢が能動的に攻撃対象にするのは探索者及び自分以外のNPC(識見・樋田)のみである。異形に対しては恐怖を露わにし、逃走を図る。

 

 

 

17.二日目午後:第三の殺人

 棚橋死亡後、午後1時には箱庭内に異変が起き、屋敷内は騒然とする。その後適当なタイミングで、理由を付けて識見を単独行動させ、死亡させる。2階に居る樋田を呼びに行く、別の場所に居る者の様子を見に行く等が妥当と思われる。

 ただし、探索者が警戒して単独行動を許さない場合も考えられる。この場合は8.探索パート タイムテーブルの項目の「NPCの殺害について」の項目に基づいて、探索者の目の前で識見を死亡させて良い。探索者と二人きりの状況などで死亡させ、生存NPCの疑心を探索者へ向けさせても良い。

 

 場所は固定ではない為、状況に応じて描写する事。

 

 前の二人と同様に、床に倒れて動かない識見の身体。その胸の中心に抉る様に空いた傷口から、今もまだ鮮血が溢れ出しては床を汚してゆく。

 ほんの暫く前まで確かに自分達と言葉を交わしていた人物が、今は物言わぬ屍となっている。再三目にしても慣れる事のないその凄惨な状況に、胃の底からこみ上げる不快感が全身を揺さぶった。 

 

【SANチェック】0/1D3

 

 

◆識見の死体

 床に仰向けに倒れて絶命している。胸から激しく出血しており、おびただしい血の量からそれが致命傷ではないかと思われる。表情は苦痛に醜く歪んでいる。

 

【医学】胸の刺し傷の様なものが致命傷であったと分かる

    血痕の乾き具合から死亡したのは午後1時過ぎ頃であると思われる 

 

 この殺人をNPCにどう伝えるか、どう処理するかはPLに一任される。滝沢はこの時点で既に狂人化している為、敵対姿勢が変わる事はないだろう。樋田は殺人・異形・滝沢の錯乱という常軌を逸した状況に恐怖を覚え、探索者達に対しても信用できないと言って自身の客室に鍵を掛けて籠ってしまう。

 

 

  

18.探索パート:識見死亡後

 【各NPCの行動方針】

 

★滝沢(2階滝沢の客室⇒厨房⇒徘徊)

 異形出現後、単独で自室へ逃げ込んだ所で鏡から現れたゴグ・フールに干渉され、狂気に陥る。その後厨房へ降りて包丁を入手し、凶器を持った状態で屋敷内を徘徊し始める。異形を発見した場合は逃走するが、探索者及びNPCを発見した場合は襲ってきて戦闘となる。

★樋田(2階樋田の客室)

 2階の自室に居る。異形の出現・滝沢の狂人化に対する恐怖と疑心から鍵を掛けて自室に籠ってしまい、「誰も信用できない」と探索者達の入室も拒む。また、滝沢が自室に逃げ込みゴグ・フールに干渉された際も同じ階の自室におり、「隣の方から滝沢の叫び声と酷く暴れる様な音、それから笑い声と共に扉が開く音が聞こえた」と証言する。探索者達が異形の出現を知らせていない場合は、このタイミングで「様子が気になってドアを少し開けた所、廊下に化物が居るのを見た」として異形について知っている事として良い。

 

 

 

 

19.イベント:文庫の頁④

 リネン室を探索すると、シーツの合間に紙片が挟まっているのを発見する。これ以前のタイミングで何もない「リネン室」をわざわざ目星で探索する、などしているケースは少ないと思われるが、万一イベント以前のタイミングでリネン室を探索しており、突然紙が出現する事がミスリードになる危険があった場合には、ページが落ちている場所をリネン室の周辺の不自然ではない位置に移動させても良い。

 

 

・記憶文庫p.25

両面に活字が整然と並んだその紙は、破れた本のページの様に見える。それぞれの面の隅には「25」、「26」という数字が記されている。

 

『 果たして、この様な虚構に勤しむ事に意味があるだろうか

 この箱庭の事ではない。面白みのない現についてだ。私はふと気が付いた。私が必死に歪みを正して帰ろうとするあの日々に、何か意味があるだろうか。我々の知り得るよりも随分と広く、深く、おぞましく、強大で、不可思議な世界は、常に我々のすぐ傍にある。奴らが、覗いている。そう、今も、ああ、私を追ってきた奴は今にも、私の箱庭すら踏みにじり、私を喰らおうというのだから!

 しかし、それこそが真理の様にも思う。それは私が、奴らの声が夜ごとに私の脳内をかき回してゆく事に、とうとう気が触れてしまったからなのだろうか。兎に角、今、私は数刻前までの恐怖と当惑が嘘の様に、水面の如く静かな心持ちだった。後生大事に持っていた鍵も、最早無用のものに思えてきた。あの詰まらない書斎へ帰るよりも、心の奥底を鷲掴みにするその呼び声に、従うべきなのだ。間違いない。

 そうと決まれば後は簡単だった。握りしめていた豪奢な銀細工がどうも手に収まり悪く感じられて、私はそれをシンクへと投げ込んだ。暗い暗い小さな穴の中へとそれは吸い込まれてゆき、すぐにからんと乾いた音が底から響いた。

 かくして現実との素晴らしき離別を果たした私は、やっと迷いもなく足を踏み出し、私を呼ぶあのおぞましくも魅了的な奴らの声の方へと、向かう事にした。』

 

  「記憶文庫」は一ツ谷が自身の箱庭での検証を記録に残す為に使用していたアーティファクトであり、一ツ谷が最後に「αの謳うメメント・モリ」の箱庭に入り、ゴグ・フールに喰らわれるまでの出来事が記録されている。

 このページは終盤のページであり、一ツ谷が正気を失い自らゴグ・フールの元へ向かった事が記されている。その道中、現実へ帰る為の鍵が厨房のシンクへと捨てられた事を示唆している。

 

 

 

 

 

20.イベント:異変②

【原稿の追加】

 

 午後2時を目安に、箱庭全体に異変が起きるイベントが発生する。探索者がNPCと一緒に居ないタイミングで、探索者の目の前にどこからか紙が一枚落ちて来る。

 

 

 ・降ってきた原稿②

 手書きの文章が記された原稿用紙。目を通すとそれは小説の様だったが、後半からまるで散文詩の様に文章にまとまりがなくなっている。内容を要約すると以下の通り。

 

『 館には悪魔が住んでいた。誰も知りえない、真の支配者、それは鏡の裏に潜んでいた。館の随所には古びたアンティークの鏡があったが、それらは全て悪魔の覗き窓であった。鏡の裏の悍ましい世界に潜むそれは、いつも静かな鏡面越しに我々をじっと伺っている。そして、その向こうからとうとう現れたのは、まさしく悪魔の使いだった。

 鏡面の向こうに広がる我々の知り得ない狂気と真理の世界。その夢幻郷の怪物が、とうとう静かな水面を波立たせて古めかしい鏡から生まれ落ちた。灰色がかった白色の全身は不気味に脂ぎっている。ぶよぶよと収縮する丸々とした体は、ヒキガエルの様にも見える。目鼻と思しき器官も見当たらないつるりとした鼻先に、揺らめく桃色の触手をひくつかせ、それは、まるで獲物を探す様に辺りを見回していた。

 目を通し終えた所でふと原稿用紙を裏返すと、用紙の裏面に何か複雑な紋章の様な印が浮き出す様に滲んで現れた。

 

【SANチェック】1/1D2

 

  この原稿はゴグ・フールによって精神を摩耗していた一ツ谷が書いた『αが謳うメメント・モリ』の原稿の一部である。その内容はミステリーなどではなく、最早気色の悪いホラーと化している。

 この原稿は一ツ谷が箱庭を生成する際の「依り代」ではなかったが、ゴグ・フールが一ツ谷を取り込む為に後から箱庭に取り込んでしまったものである。その為、この時点から箱庭はこの原稿に書かれた内容を再現する事となる。ゴグ・フールは狂気に陥った一ツ谷が書いた原稿を箱庭に取り込む事で箱庭をその狂気を再現した空間とし、その中で一ツ谷を喰らい殺した。

 

 

 

【異形について】

 以降、探索者が初めて鏡のある場所に近づいたタイミングで、鏡の中からムーンビーストが現れ戦闘となる。逃走は可能だが、逃走後もムーンビーストは屋敷内を徘徊しており、一定確率で探索者達と遭遇し戦闘となる。ムーンビーストの移動処理については以下の2方法のいずれかで処理すると良い。

 

①簡易処理

 一定時間ごとに【目星】25でシークレットダイスを振り、成功した場合はムーンビーストが探索者を発見して遭遇する。

 

②詳細処理

 一定時間ごとにムーンビーストが現在地から隣接したいずれかの部屋へ移動する。廊下など長く続く空間の場合は時間ごとの移動に廊下内での位置移動を含めても良い。

 

 いずれの場合も、探索者とムーンビーストの距離が一定距離以下(目安としては隣接2エリア程度)になった場合は探索者に【聞き耳】を振らせ、接近を教えると良い。

 

 

 

21.クライマックス

【シンクの奥の鍵】

 シナリオ終盤、鍵の情報を入手した探索者は厨房のシンクを調べる事になるだろう。

 

【目星】シンクの排水口の奥に、何かがきらりと光ったのが見える

 

 

 排水口の穴は小さく、とても手を入れて奥を探れる深さではない。ただし、シンクの下が戸棚になっており、開けてみればその奥に排水口から繋がる水道管が見える。手前の戸棚の枠板を外し、奥の水道管の接続を外す事が出来れば中を開ける事が出来る。

 

 水道管を開く場合、道具なしで素手で無理やり外すのであれば【STR対抗ロール】で18との対抗となる。何らかの道具を用いる場合、提案内容に応じて対抗の数値を引き下げるか、対応する技能値で判定しても良い。家事室にある工具箱を使ってパイプを緩めて開く場合、【DEX×5】で判定する。また、【機械修理】での判定も可能。この場合、ある程度適切な道具があれば技能に成功した時点で成功、素手であっても出目に-30のボーナスを得てSTR対抗ロールを試みて良い。

 

 水道管を開くと、中から銀色の鍵が転がり落ちる。鍵の頭の部分にはフクロウを模した装飾が施されている。

 この鍵が箱庭から現実世界へ帰る為の「フクロウの鍵」である。元々一ツ谷が持っていたが、狂気に陥った一ツ谷は現実へ帰る考えを失くし、鍵をシンクへ捨ててしまった。この鍵を同じくフクロウの装飾のある物置の扉へ差し込む事で現実へ帰る事が出来るが、もしもPLがこの事実に辿り着けない場合、KPの判断で適宜ヒントを足しても良い。

 

 

22.エンディング

 最終的にフクロウの鍵で物置の扉を開ける、または箱庭の破壊の呪文を唱える事でエンディングとなる。

 

◆BEST END:フクロウの鍵で物置の扉を開け、外から呪文を唱える

 鍵で扉を開け、現実へ帰る場合のエンディング。

 現実へ脱出後、呪文を唱えた場合のみがベストエンドとなる。

 

 鍵を差し込むと、施錠されていないはずの鍵穴からかちりと小気味よい音が鳴った。そして次の瞬間、扉はひとりでに開き、その隙間から眩い光が溢れ出す。目を刺す様な強い閃光に、視界が白く染まり、思わず目を瞑りそうになる。しかしその光に、どこか懐かしい気配を感じて、貴方達は無意識の内に足を踏み出して扉の先へと歩き出した。更に強まる光に最早目の前は白いペンキを塗りたくった様に何も見えず、意識までも霞む様な気がする。

 

 漸く光が収まった時、貴方達は全身を包み込む寒さにはっと目を見開いた。気が付けば眩んだ目にも徐々に辺りの光景が映り込んで来る。それは一面の雪景色だった。周囲を見回しても、背後を振り返っても、建物の姿は何処にも見当たらなかった。空気は冷たいものの、既に雪は降っておらず、雲の隙間からは優しい日光が降り注いでいる。

 あの洋館は見当たらず、そして目の前の道路脇に停められた見覚えのある車を見つけた時、貴方達は無事、自分が元の場所へと帰って来る事が出来た事を確信した。

 

 その後、場所や時間は問わないが、呪文を唱える事で箱庭を消滅させる事が可能。呪文を唱えた場合、最後に以下の描写を付け足す。

 

 無事に現実へと帰還した後、貴方達は屋敷の中で見つけた奇妙な呪文を唱えた。それによって何かが変わったかは、分からない。しかし少なくともその後、それ以上何事も起きる事はなかった。貴方達はもうあの恐ろしい箱庭に誰も迷い込まない様願いつつ、元の日常へ戻って行くのだった。

 

 

 また、PCαが扉を潜り現実へ生還した場合、以下の描写を付け足す。

 

 貴方は扉を潜り、現実世界へと降り立った。すると同時に、奇妙な事が起きている事に気が付いた。貴方の住む家、勤めている会社、それらは当たり前の様に現実世界に存在していた。まるで初めからそこに存在していたかの様に、貴方の人生はそこにあった。自分は小説の登場人物であったはず。その現実離れした事実の方が白昼夢であったかと感じられる程、当然の様に貴方は現実へと受け入れられた。

 事実は小説よりも奇なり。そんな言葉を胸中に秘め、貴方は新しい人生を踏み出すのだった。

 

 扉を潜り現実へ出た「小説の登場人物」は、現実の存在となる。設定上の家族や住居、経歴、職場などの全てが現実改変によって実在していた事として扱われ、現実に出現する。この改変の事実を知っているのは今回のシナリオの探索者達のみである。

 これは主にPCαの為の処理であるが、もしもNPCの登場人物を生きて連れ帰った場合、同様に彼らも現実の存在としても良い。

 滝沢については、連れ帰った場合でもゴグ・フールに精神を蝕まれた影響は消失せず、依然として精神を病んだ狂人のままだろう。ただし、PLの希望とKPの裁量によっては、療養施設で治療を受ける事で、長期的には回復の見込みがある事としても良い。

 

 

SAN値報酬

扉から現実へ帰還した:1D20

箱庭を消滅させた:1D4

 

 

 

◆GOOD END:フクロウの鍵で物置の扉を開け、呪文を唱えない

 鍵で扉を開け、現実へ帰る場合のエンディング。

 呪文を唱えなかった場合のエンド。

 

 鍵を差し込むと、施錠されていないはずの鍵穴からかちりと小気味よい音が鳴った。そして次の瞬間、扉はひとりでに開き、その隙間から眩い光が溢れ出す。目を刺す様な強い閃光に、視界が白く染まり、思わず目を瞑りそうになる。しかしその光に、どこか懐かしい気配を感じて、貴方達は無意識の内に足を踏み出して扉の先へと歩き出した。更に強まる光に最早目の前は白いペンキを塗りたくった様に何も見えず、意識までも霞む様な気がする。

 

 漸く光が収まった時、貴方達は全身を包み込む寒さにはっと目を見開いた。気が付けば眩んだ目にも徐々に辺りの光景が映り込んで来る。それは一面の雪景色だった。周囲を見回しても、背後を振り返っても、建物の姿は何処にも見当たらなかった。空気は冷たいものの、既に雪は降っておらず、雲の隙間からは優しい日光が降り注いでいる。

 あの洋館は見当たらず、そして目の前の道路脇に停められた見覚えのある車を見つけた時、貴方達は無事、自分が元の場所へと帰って来る事が出来た事を確信した。

 

  その後、貴方達はそれぞれの日常へと戻ってゆき、あの恐ろしい館での出来事も程なく記憶から薄れていくのだった。平穏が訪れたかと思われた日常に一石を投ずるニュースが流れたのは、それからちょうど一週間後の事だった。

『行方不明になっているのは佐藤さん一家で、四名はスキー旅行の為自家用車で走行中、吹雪に見舞われそのまま消息を絶ったとの事です。付近からは佐藤さんのものと思われる車が発見されており、警察は事故と事件の両面で捜査を行っています―――』

 貴方達はその恐ろしい事実から目を逸らす事しかできなかった。しかしいくら言葉を濁そうと、貴方達ははっきりと確信するだろう。あの館の化物が、今も、吹雪の夕暮れに宿泊客を待っているのだという事を。

 

 また、PCαが扉を潜り現実へ生還した場合、ベストエンドと同様の描写を付け足す。

 

 

 

SAN値報酬

扉から現実へ帰還した:1D20

 

 

 

◆NORMAL END:呪文を唱えて現実に帰った

 鍵を使わず、呪文で箱庭を消滅させる事で現実へ帰る場合のエンディング。

 

<通常PCへの描写>

 呪文の言葉が終わると同時に、目の前の光景が突然揺らぎ始めた。それはまさしく蜃気楼が揺れる様に、目の前の屋敷の内観が、実態を持たない幻の様に崩れ始めたのだ。困惑する間もなく、その揺らぎは瞬く間に強まり、そしてすぐに目の前が白い光に包まれた。激しい閃光と共に、貴方達は意識が遠のくのを感じた。

 

<PCαへの描写>

 呪文の言葉が終わると同時に、目の前の光景が突然揺らぎ始めた。それだけではない、ふと違和感を抱き視線を落とせば、貴方の身体もまた、屋敷の内装と同様に輪郭を失って燻っていた。形と存在を失って崩れ始める屋敷。同じ様に、自分の全身も、否、身体だけでなく記憶や存在までもが、バラバラに霧散して消えてしまう。そんな感覚を、貴方は確信として抱いた。

 それに対して貴方はどんな感情を抱くだろうか。しかし、怒りも、恐れも、困惑も、絶望も、どの様な感情を抱くにせよ、貴方のその情動すらもが、言葉になる前に空気に溶ける様に薄れて消えた。

 

 

<その後(通常PCへの描写)>

 漸く光が収まった時、貴方達は全身を包み込む寒さにはっと目を見開いた。気が付けば眩んだ目にも徐々に辺りの光景が映り込んで来る。それは一面の雪景色だった。周囲を見回しても、背後を振り返っても、建物の姿は何処にも見当たらなかった。空気は冷たいものの、既に雪は降っておらず、雲の隙間からは優しい日光が降り注いでいる。

 あの洋館は見当たらず、そして目の前の道路脇に停められた見覚えのある車を見つけた時、貴方達は無事、自分が元の場所へと帰って来る事が出来た事を確信した。

 しかし、生還の喜びを分かち合おうと他の宿泊者達を見回した時、そこに一人の姿が足りない事に気付いた。

 小説に描かれた存在は、貴方達の唱えた言葉によって、屋敷も、事件も、人も。ひとつ残らず消滅した。

 

 

 

 PCα ロスト

 

 

SAN値報酬

 

呪文によって現実へ帰還した:1D10

 

 

 

◆GAME OVER:館内での死亡

 館内で死亡・またはSAN0になった場合、その探索者はゴグ・フールに捕食され死亡する。また、他のPCが脱出した後に館内に取り残された場合も同じ展開となる。

 

 何処からか現れた黒い触腕が、貴方の身体に絡みつく。
 それは狂暴な獣の牙の様にも、柔らかな聖母の腕の様にも感じられた。不快感と同時に何処か安堵を孕んだそれは、瞬く間に貴方の全身を覆い尽くしてゆく。そうして覆われた皮膚の表面から、貴方は自分の身体がその触腕に喰らわれるのを感じた。

 ぐちゃり、と肉を食み潰す様な。ごきり、と骨を断ち切る様な。そんな悍ましい感触と共に全身を覆い尽くす焼ける様な苦痛。自分の体が、魂が、存在そのものが、捕食され、かじり取られ、啜られ、毟られ、失われてゆく。生きたまま臓腑を抉られる様な感触と、痛みとも疼きとも取れぬ不快感が全身を襲う。

 何処かで読んだ様な情景が、今まさに、貴方に実体験として降りかかっていた。

 そうして貴方は、綴られた恐ろしい物語の筋書きをなぞる様に、その裏に居る恐ろしい異形に取り込まれ、あっけなく意識を手放した。

 

 

 探索者ロスト

 

 

 

 

 

 

 


あとがき

 「実はあなたは現実の人間ではなかったのだ!!」という一発ネタがやりたかったシナリオです。小説の世界に迷い込んでしまった……と思っていたら実は最初から小説の世界の存在だった。PCαのPLさんには大いに驚いていただける事と思います。

 本シナリオはNPCの数が多く、限られたクローズドの空間内で時系列ごとに様々なイベントが発生する為、それらを上手く処理していくのにKPさんの腕が要求されるかと思います。テストプレイを2回ほどしてみた所、2回とも探索者が思い思いに動くので、シナリオ内で想定されている通りのイベントの流れにはなりませんでした。そういった際、探索者の行動を踏まえて柔軟にNPCの行動・それに伴うイベントの遷移を変えてゆく必要があり、KPさんはなかなかの激務になるかも……。

 

 

 


ここまでお読みいただきありがとうございました!

実際にプレイしてくださった方は、よろしければ是非アンケートにご協力ください。

シナリオページに掲載する難易度や目安時間などの参考にさせていただきます。

 

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